前著の『小説伊勢物語 業平』(レビュー済み)が素晴らしかったのでこちらも読んだが、期待通りの素晴らしい作品で、これまでにない小野小町像が描かれている。
前著では表題のとおり『伊勢物語』が大きな手がかりとして存在し、主人公の「昔ある男」を小説的想像力で再構成して描いたが、小野小町の場合はその生涯がほとんど不明で、古今和歌集に18首の歌が残されている程度なので、この残された和歌に沿って、著者の自由な想像力で小町像を描き出している。
ところで、小野小町といえば古今和歌集の六歌仙に挙げられた女流歌人という以上に、絶世の美女として有名であり、それ故に男性の視点で人を寄せ付けない冷たい女性のように貶められ、通い詰めた男(深草少将)の怨念で悲惨な末路をたどるという能の演目(観阿弥作「卒塔婆小町」)まである。著者はこれを、「千年を超す男中心の社会の中で造られた、美女零落の物語」(あとがき)と呼ぶ。
本書の表題はこの「卒塔婆小町」の物語にちなんだものだが、「百夜」の物語を少女時代の性被害とそのトラウマの物語へと換骨奪胎し、小町の名誉回復を図っている。
著者の描く小町像は、少女時代から晩年まで凜とした芯の強い女性像であり、その歌も「哀れ」と美だけではなく「媚びへつらいのない」感性に正直な歌だという。
本書の登場人物には、父とされる小野篁、前著の在原業平、文屋康秀などの古今集の重要歌人がそれぞれのキャラクターを際立たせて描かれていて楽しめるが、とりわけ良岑宗貞(出家後は僧正遍昭)が生涯の恋人として重要な役割を果たしている。小説的には、宗貞との恋と百夜の物語がロマンの核といえる。
時代背景としては、薬子の変と承和の変、藤原良房による藤原北家の権力確立の時代であるが、歴史的事件はさらりと触れられている程度である。
なお、前編と後編の前に大野俊明氏のカラー挿絵が4枚ずつ添えられているが、物語の内容に合わせ、かつ小町の歌を引用した作品で、柔らかな線と鮮やかな色彩がとても美しい。
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小説小野小町 百夜 単行本 – 2023/5/19
髙樹のぶ子
(著)
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【内容紹介】
2020年の新型コロナ禍による緊急事態宣言中に刊行し、大きな反響を呼んだ『小説伊勢物語 業平』。泉鏡花文学賞と毎日芸術賞をW受賞した「日本の美の源流をたどる」小説として、次に紡がれたのは、同じく平安時代の「六歌仙」のひとり、優れた歌の才に加えて、絶世の美女としても数々の伝説が残る小野小町の一代記である。本作も『業平』に続き、日本画家・大野俊明氏のカラー挿絵が「みやび」の世界に色を添える。
能楽の演目でも重くあつかわれる観阿弥作「卒塔婆小町」が元にしたとされる伝説「百夜(ももよ)通い」。小町を恋する男に、百夜通ってくれば共寝してもいいと無理難題をつきつける。男は通いつづけ、百夜目に悲劇的な死に見舞われる。思いが叶わなかった男の恨みはやがて小町の身の上に残され、惨めに老いさらばえる――小町はなぜこのような姿に描かれ後世に伝えられねばならなかったのか。古今和歌集と後撰集に残された数少ない小野小町の実作とされる和歌をより深く翫味すれば、そこに隠された本当の小町の姿が立ち現れてくる。
小町の歌の世界はけして甘美ではない。しかし、「日本の美の源流」が「もののあはれ」、哀れから来るとなぜ言われてきたのか。五感を研ぎ澄まして、この小説の音律に身を委ね、時に声に出して読んでいけば、読後にかつて経験したことのない深い感動が待っている。「もののあはれ」が体感できる小説と言っても過言ではないだろう。
【目次】
<前篇 花の色は>
高麗笛 一夜契り 夢と知りせば あはれてふ 六道の辻 月と雲 慈雨 算賀の菊 花ひとひら……など
<後篇 我が身世にふる>
うつろふもの 鄙の月 熾火 遺戒 梅花 春霞 海松布 懸想文 誘ふ水 母恋ひ 浦こぐ舟 慈恩院 百の文……など
2020年の新型コロナ禍による緊急事態宣言中に刊行し、大きな反響を呼んだ『小説伊勢物語 業平』。泉鏡花文学賞と毎日芸術賞をW受賞した「日本の美の源流をたどる」小説として、次に紡がれたのは、同じく平安時代の「六歌仙」のひとり、優れた歌の才に加えて、絶世の美女としても数々の伝説が残る小野小町の一代記である。本作も『業平』に続き、日本画家・大野俊明氏のカラー挿絵が「みやび」の世界に色を添える。
能楽の演目でも重くあつかわれる観阿弥作「卒塔婆小町」が元にしたとされる伝説「百夜(ももよ)通い」。小町を恋する男に、百夜通ってくれば共寝してもいいと無理難題をつきつける。男は通いつづけ、百夜目に悲劇的な死に見舞われる。思いが叶わなかった男の恨みはやがて小町の身の上に残され、惨めに老いさらばえる――小町はなぜこのような姿に描かれ後世に伝えられねばならなかったのか。古今和歌集と後撰集に残された数少ない小野小町の実作とされる和歌をより深く翫味すれば、そこに隠された本当の小町の姿が立ち現れてくる。
小町の歌の世界はけして甘美ではない。しかし、「日本の美の源流」が「もののあはれ」、哀れから来るとなぜ言われてきたのか。五感を研ぎ澄まして、この小説の音律に身を委ね、時に声に出して読んでいけば、読後にかつて経験したことのない深い感動が待っている。「もののあはれ」が体感できる小説と言っても過言ではないだろう。
【目次】
<前篇 花の色は>
高麗笛 一夜契り 夢と知りせば あはれてふ 六道の辻 月と雲 慈雨 算賀の菊 花ひとひら……など
<後篇 我が身世にふる>
うつろふもの 鄙の月 熾火 遺戒 梅花 春霞 海松布 懸想文 誘ふ水 母恋ひ 浦こぐ舟 慈恩院 百の文……など
- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社日経BP 日本経済新聞出版
- 発売日2023/5/19
- 寸法13.5 x 19.4 x 2.8 cm
- ISBN-104296118021
- ISBN-13978-4296118021
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商品の説明
著者について
髙樹のぶ子
作家
1946年山口県生まれ。80年「その細き道」で作家デビュー。84年「光抱く友よ」で芥川賞、94年『蔦燃』で島清恋愛文学賞、95年『水脈』で女流文学賞、99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、2006年『HOKKAI』で芸術選奨、10年「トモスイ」で川端康成文学賞。『小説伊勢物語 業平』で20年泉鏡花文学賞、21年毎日芸術賞。著作は多数。17年、日本芸術院会員、18年、文化功労者。
作家
1946年山口県生まれ。80年「その細き道」で作家デビュー。84年「光抱く友よ」で芥川賞、94年『蔦燃』で島清恋愛文学賞、95年『水脈』で女流文学賞、99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、2006年『HOKKAI』で芸術選奨、10年「トモスイ」で川端康成文学賞。『小説伊勢物語 業平』で20年泉鏡花文学賞、21年毎日芸術賞。著作は多数。17年、日本芸術院会員、18年、文化功労者。
登録情報
- 出版社 : 日経BP 日本経済新聞出版 (2023/5/19)
- 発売日 : 2023/5/19
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 384ページ
- ISBN-10 : 4296118021
- ISBN-13 : 978-4296118021
- 寸法 : 13.5 x 19.4 x 2.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 125,037位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年12月29日に日本でレビュー済み
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2023年8月2日に日本でレビュー済み
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大変興味深く 読了した。小野小町の史実は少ない中、当時の仙台京都間の距離を旅して状況した小児期、夢の句や花の色の 句の意味は 人口に膾炙しているものと全く違って見えてくる。この長い期間を経ても、名前が残る女性である事自体、在りがたい存在だった事が解る。体言止めも 多用されているけれど、気にならなかった。業平も読んでみたいと思う。
2024年1月10日に日本でレビュー済み
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挿絵入りは、短歌の世界に入りやすく
なって良いと思います。
なって良いと思います。
2023年7月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
伊勢物語業平では、思うにまかせぬ女人の歌とあり、ひょっとして小町かなと思い、購入。
読むや、高樹さんならではの小町さんが出てきました。高樹さんには、次は柿本人麿、さらに万葉集編集した大伴家持を取り上げていただきたい。対談は中西進さんでは?
読むや、高樹さんならではの小町さんが出てきました。高樹さんには、次は柿本人麿、さらに万葉集編集した大伴家持を取り上げていただきたい。対談は中西進さんでは?