抜群の取材力、構成力により、国家が単なる漁船転覆事故として覆い隠そうとした事件を、米軍原子力潜水艦による衝突事故の可能性を暴き出している。
と同時に、国家の壁や、東日本大震災などに翻弄されながらも戦い続ける漁船会社社長の不屈の精神と苦悩をも描き切っている。ルポルタージュとして秀逸な作品です。
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黒い海 船は突然、深海へ消えた 単行本 – 2022/12/23
伊澤 理江
(著)
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購入オプションとあわせ買い
第45回 講談社 本田靖春ノンフィクション賞
第54回 大宅壮一ノンフィクション賞
第71回 日本エッセイスト・クラブ賞
日隅一雄・情報流通促進賞2023 大賞
受賞作!!!
その船は突然、深海へ消えた。
沈みようがない状況で――。
本書は実話であり、同時にミステリーでもある。
2008年、太平洋上で碇泊中の中型漁船が突如として沈没、17名もの犠牲者を出した。
波は高かったものの、さほど荒れていたわけでもなく、
碇泊にもっとも適したパラアンカーを使っていた。
なにより、事故の寸前まで漁船員たちに危機感はなく、彼らは束の間の休息を楽しんでいた。
周辺には僚船が複数いたにもかかわらず、この船――第58寿和丸――だけが転覆し、沈んだのだった。
生存者の証言によれば、
船から投げ出された彼らは、船から流出したと思われる油まみれの海を無我夢中で泳ぎ、九死に一生を得た。
ところが、事故から3年もたって公表された調査報告書では、船から漏れ出たとされる油はごく少量とされ、
船員の杜撰な管理と当日偶然に発生した「大波」とによって船は転覆・沈没したと決めつけられたのだった。
「二度の衝撃を感じた」という生存者たちの証言も考慮されることはなく、
5000メートル以上の深海に沈んだ船の調査も早々に実現への道が閉ざされた。
こうして、真相究明を求める残された関係者の期待も空しく、事件は「未解決」のまま時が流れた。
なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。
調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。
ふとしたことから、この忘れ去られた事件について知った、
一人のジャーナリストが、ゆっくり時間をかけて調べていくうちに、
「点」と「点」が、少しずつつながっていく。
そして、事件の全体像が少しずつ明らかになっていく。
彼女が描く「驚愕の真相」とは、はたして・・・・・・。
第54回 大宅壮一ノンフィクション賞
第71回 日本エッセイスト・クラブ賞
日隅一雄・情報流通促進賞2023 大賞
受賞作!!!
その船は突然、深海へ消えた。
沈みようがない状況で――。
本書は実話であり、同時にミステリーでもある。
2008年、太平洋上で碇泊中の中型漁船が突如として沈没、17名もの犠牲者を出した。
波は高かったものの、さほど荒れていたわけでもなく、
碇泊にもっとも適したパラアンカーを使っていた。
なにより、事故の寸前まで漁船員たちに危機感はなく、彼らは束の間の休息を楽しんでいた。
周辺には僚船が複数いたにもかかわらず、この船――第58寿和丸――だけが転覆し、沈んだのだった。
生存者の証言によれば、
船から投げ出された彼らは、船から流出したと思われる油まみれの海を無我夢中で泳ぎ、九死に一生を得た。
ところが、事故から3年もたって公表された調査報告書では、船から漏れ出たとされる油はごく少量とされ、
船員の杜撰な管理と当日偶然に発生した「大波」とによって船は転覆・沈没したと決めつけられたのだった。
「二度の衝撃を感じた」という生存者たちの証言も考慮されることはなく、
5000メートル以上の深海に沈んだ船の調査も早々に実現への道が閉ざされた。
こうして、真相究明を求める残された関係者の期待も空しく、事件は「未解決」のまま時が流れた。
なぜ、沈みようがない状況下で悲劇は起こったのか。
調査報告書はなぜ、生存者の声を無視した形で公表されたのか。
ふとしたことから、この忘れ去られた事件について知った、
一人のジャーナリストが、ゆっくり時間をかけて調べていくうちに、
「点」と「点」が、少しずつつながっていく。
そして、事件の全体像が少しずつ明らかになっていく。
彼女が描く「驚愕の真相」とは、はたして・・・・・・。
- 本の長さ288ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2022/12/23
- 寸法13.8 x 2.3 x 19.5 cm
- ISBN-104065304954
- ISBN-13978-4065304952
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出版社より
商品の説明
著者について
伊澤理江(いざわりえ)
1979年生まれ。英国ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。英国の新聞社、PR会社などを経て、フリージャーナリストに。調査報道グループ「フロントラインプレス」所属。これまでに「20年前の『想定外』 東海村JCO臨界事故の教訓は生かされたのか」「連載・子育て困難社会 母親たちの現実」をYahoo!ニュース特集で発表するなど、主にウエブメディアでルポやノンフィクションを執筆してきた。TOKYO FMの調査報道番組「TOKYO SLOW NEWS」の企画も担当。東京都市大学メディア情報学部「メディアの最前線」、東洋大学経営学部「ソーシャルビジネス実習講義」等で教壇にも立つ。本編が初の単著となる。
1979年生まれ。英国ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。英国の新聞社、PR会社などを経て、フリージャーナリストに。調査報道グループ「フロントラインプレス」所属。これまでに「20年前の『想定外』 東海村JCO臨界事故の教訓は生かされたのか」「連載・子育て困難社会 母親たちの現実」をYahoo!ニュース特集で発表するなど、主にウエブメディアでルポやノンフィクションを執筆してきた。TOKYO FMの調査報道番組「TOKYO SLOW NEWS」の企画も担当。東京都市大学メディア情報学部「メディアの最前線」、東洋大学経営学部「ソーシャルビジネス実習講義」等で教壇にも立つ。本編が初の単著となる。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2022/12/23)
- 発売日 : 2022/12/23
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 288ページ
- ISBN-10 : 4065304954
- ISBN-13 : 978-4065304952
- 寸法 : 13.8 x 2.3 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 20,883位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 5,623位文学・評論 (本)
- - 6,456位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
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5 星
17人の犠牲者を出し、突然、深海へ消えた第58寿和丸を沈没させたものの正体とは
読書仲間の只野健さんの書評で知ったドキュメント『黒い海――船は突然、深海へ消えた』(伊澤理江著、講談社)を手にしました。一気に読み終わった時、真実を覆い隠そうとする者たちに対する怒りに震えながら、松本清張の『日本の黒い霧』を想起しました。米国に忖度する日本という情けない構図が共通しているからです。2008年6月12日、太平洋上で漁船・第58寿和丸が突然、2度の衝撃を受けて転覆・沈没してしまいます。助かった乗組員は3人、4人が死亡、13人が行方不明という大事故だが、運輸安全委員会が「波による転覆」という結論を出したため、この事故は世間から急速に忘れ去られていきます。「人は忘れやすい。どんなに耳目を集めた出来事であっても、潮が引くようにニュースは減り、世間の関心は薄れていく。17人の乗組員が犠牲になった第58寿和丸の事故もまさにそうだった」。事故から11年後の2019年秋、ひょんなことから、この事故を知り、「波」という原因に疑問を抱いた著者・伊澤理江の関係者への粘り強い聞き取り行脚が始まります。「第58寿和丸は波ではなく、何らかの要因で船体が損傷したのではないか。考えれば考えるほど、自力で調べれば調べるほど、この『疑念』が明確な姿となって見え始めていく」。「第58寿和丸事故の資料を集めていた私は、この横浜の『(海難審判庁横浜地方海難審判)理事所』が真相解明に向けた重要なカギを握っているはずだと考えていた。横浜の理事所は、生存者3人や僚船の乗組員たちからの事情聴取、現場の気象状況や海況などの事実に基づいて、事故原因は波によるものではなく、船体が何らかの損傷を受けたことが原因ではないかと推察していた節があるからだ。しかも彼らは潜水艦との衝突も視野に入れていた」。「船舶事故調査の後継組織・運輸安全委員会の事務方のトップは事務局長だ。国交省の官僚が務める」。「どうやったら、こんな(波による転覆という)内容の報告書ができあがるのか」。「(第58寿和丸を所有する)酢屋商店社長の野崎哲は、運輸安全委員会の調査プロセスは『どうやったら波で転覆させられるか、一生懸命考えているようだった』と取材に語った」。「取材の記録や資料などが、次第に私の手元に積み重なってきた。報告書の内容が生存者らの証言と一致していない実態は、明確になった。しかし、報告書の内容が生存者らの証言と違っているというだけでは、十分ではない。もっと確実な『何か』をつかむ必要があった。それがないと、取材は先に進めない」。「ここに至って私は、潜水艦と軍に精通する人々への取材に手を付けた。すると、軍事大国が人知れず海中で繰り広げている潜水艦の隠密行動と民間船舶の接点が想像以上に多いという知られざる実態が次々と浮かび上がってきたのだ」。「実際、潜水艦による事故を隠そうとし、その後に露見してしまった日本船絡みの事例がある。1981年4月9日に発生した貨物船『日昇丸』と米原子力潜水艦『ジョージ・ワシントン』号の衝突、当て逃げ事件だ」。「元外交官は続ける。『第58寿和丸が潜水艦と衝突したのだとすれば、その国は普通に考えればアメリカでしょう。当時の国際情勢から言っても、あの海域で活動していた潜水艦は日本とアメリカです。それにアメリカなら隠し通すということは十分あり得る。日本近海でアメリカの艦船が事故を起こし、多数の民間人が犠牲になったという事実が公になったら、在日米軍基地(の整理・縮小)問題に発展しかねない。アメリカなら隠そうとしますよ。潜水艦は軍事機密だから公文書も表に出ません。機密は絶対。軍人は退役しても喋らない。戦争をする国とそうでない国では、機密のレベルが全然違うんです』」。「『セイルが第58寿和丸にぶつかり、潜ろうとして振り上げた縦舵がまた船体にぶつかった。潜水艦が原因だとしたら、その当たり方しかない』という元潜水艦隊司令官・小林正男の言葉が蘇ってくる」。「情報公開をめぐる裁判と並行し、私の取材は今なお続いている。第58寿和丸の事故は潜水艦との衝突によって引き起こされた可能性が高いと判断している私の前には、軍事機密の高い壁がある。相手の国名や艦名を特定する取材は容易ではない。しかし、歩みがじれったいほど遅くても、壁を登っていく試みは放棄しない」。伊澤よ、頑張ってくれ! どこの国の何という潜水艦が、これほどの「事件」を起こしながら、図々しくも口を拭ってのうのうとしているのか、そして、外交問題化することを恐れ、許せないことだが犯人追及を妨害した日本の腑甲斐ない責任者は誰か――を突き止めてくれ!
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2024年3月15日に日本でレビュー済み
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2024年2月1日に日本でレビュー済み
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結局のところ・・・
最後が物足りない。
続編を期待したいが、これで終結させてしまうのか?
最後が物足りない。
続編を期待したいが、これで終結させてしまうのか?
2024年2月23日に日本でレビュー済み
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読み始めてからページをめくる手が止まることなく、先へ先へと興味が惹かれていきました。原因を探る謎解き的な仕様もさることながら、丁寧に描かれる人物のリアルさが常に興味を惹き、読書に深みを与えてくれました。
最初に引き込まれたのは、沈没のシーンのリアルな船上の様子。生死を分けた個々の人物の判断や行動が、生き生きと臨場感を持って描写されて、まるで映画を見ているようにリアル。まるで自分もそこにいるように感じられて震えるほど怖く、素晴らしかったです。
次に引き込まれたのは、全編通して登場する野崎哲という人物の描写でした。あたかも「東北そのもの」を体現したような、雪にも風にも我慢強く、へこたれず、上に向かって枝を伸ばし続けて決して折れない古い大木のような存在感に心を掴まれるようにして読み進めました。
著者の作品は単著ではこれが最初と紹介されておりましたが、力のあるジャーナリストの登場に期待を寄せ、本作の続編、他作品も待っております。
最初に引き込まれたのは、沈没のシーンのリアルな船上の様子。生死を分けた個々の人物の判断や行動が、生き生きと臨場感を持って描写されて、まるで映画を見ているようにリアル。まるで自分もそこにいるように感じられて震えるほど怖く、素晴らしかったです。
次に引き込まれたのは、全編通して登場する野崎哲という人物の描写でした。あたかも「東北そのもの」を体現したような、雪にも風にも我慢強く、へこたれず、上に向かって枝を伸ばし続けて決して折れない古い大木のような存在感に心を掴まれるようにして読み進めました。
著者の作品は単著ではこれが最初と紹介されておりましたが、力のあるジャーナリストの登場に期待を寄せ、本作の続編、他作品も待っております。
2024年2月19日に日本でレビュー済み
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視点がぶれずに長い取材を続けた著者に敬意を表します。身近にある様々なできごとに関心を持ち、不条理なことをそのままにしておかない意思と行動が大切だなと感じました。
2024年1月27日に日本でレビュー済み
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船底への2度の衝撃、衝撃から沈没までの時間、船底の傷からの油の流出。この3点をまったく無視して調査を終える。情報は黒塗りで開示。責任者は「記憶にない」。
言えない何か、があるのではないかと感じた。
>船体を引き揚げるわけじゃないし。右舷船底の衝撃を受けた所を見れば、ある程度、何かしらのものが出るはず。だから(潜水調査船の派遣を決断しない上部に対して)理事所内では『やればいいのに』って不満が多かった
芸能人を乗せて、活動内容を知らせる広報活動はする一方で、実際の事故調査には予算を理由に調査船を出さない。調査はしない。だから、分からない。
このやり口は貧困率調査にも通じる。母数を減らし、絞ることで、「調査結果がないから、必要な対策が打てず、したがって予算もつかない」という状況をつくる。状況を放置して問題を悪化させる責任を誰も取らない。
>事故原因について、新聞は早くから「原因は波」との見立てを伝えている。事故翌日の 6月 24日朝刊では、全国紙・地元紙とも「波」という論調で足並みをそろえた。
日航機の御巣鷹山でも、事故原因を新聞が一斉に報じて異論を認めない雰囲気をマスコミがつくる。それをなぞる調査報告が出される。調査報告書には、事実と違う記述が散見されるが、検証されずに無視される。という流れだった。圧力というか、方法が似ている。
言えない何か、があるのではないかと感じた。
>船体を引き揚げるわけじゃないし。右舷船底の衝撃を受けた所を見れば、ある程度、何かしらのものが出るはず。だから(潜水調査船の派遣を決断しない上部に対して)理事所内では『やればいいのに』って不満が多かった
芸能人を乗せて、活動内容を知らせる広報活動はする一方で、実際の事故調査には予算を理由に調査船を出さない。調査はしない。だから、分からない。
このやり口は貧困率調査にも通じる。母数を減らし、絞ることで、「調査結果がないから、必要な対策が打てず、したがって予算もつかない」という状況をつくる。状況を放置して問題を悪化させる責任を誰も取らない。
>事故原因について、新聞は早くから「原因は波」との見立てを伝えている。事故翌日の 6月 24日朝刊では、全国紙・地元紙とも「波」という論調で足並みをそろえた。
日航機の御巣鷹山でも、事故原因を新聞が一斉に報じて異論を認めない雰囲気をマスコミがつくる。それをなぞる調査報告が出される。調査報告書には、事実と違う記述が散見されるが、検証されずに無視される。という流れだった。圧力というか、方法が似ている。
2023年1月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
執念とも言える綿密な取材で、問題に肉薄した本。著者の筆力は大したものだ。当時の関係者を追ってインタビューするが、10年前のことを不意に訊かれて、みな、動揺するさまが、面白く描かれている。潜水艦の男は迫力あるし、震災の章は哀しく、そして詩は美しい、と、書いた上で、気になる点をコメントしておく。ネガティブなところも指摘しておいた方がいいからだ。
上位のレビューが多いが、現在のところその大半が、本書のレビューをするために、アマゾンレビューを始めた人たちのようだ。これは偶然なのか、お友達がいっせいにレビューしたのだろうか?そこまでしなくても面白い本なのにな。
ところで、喜多さんの発言のところ(114ページ)。「運輸安全委員会の調査官に、元船員はなれなかった」は、事実と違う。事実は、半数以上が元船員で、当時の次席調査官の西村さんも、理事所の次席だったのだから、当然元船員だ。こういう簡単なところで、間違っていると、他のところも正しいのかと不安になる。この部分は、官僚イコール悪、船員イコール善、という著者の主張に合うように、故意に事実を曲げたのか、単純に裏どりが甘いのだろうか?理事所ついでに言えば、103ページに「僚船や第58寿和丸の船員は三角波など見ていない」と理事所が言っていた、というところがあり、波説否定の根拠の一つにされているように見える。しかし、生存している船員は船内居室に居て、僚船は6キロあまり離れたところにいたそうなのだから、たとえ三角波があっても、誰も見ていないのは当たり前だ。ここは、何を言っているのだろうか?
喜多さんの発言の先に海難審判庁のやってきたことについての解説がある。 「船員経験者らが船員法など海事関係の法律を独自の言葉で解釈し、議論する場だった」。あまり本論と関係のないところで、つっこみを入れるべきではないが、こんな明治時代のような古色蒼然としたことをやっていて、海難の原因が探究できるのかと、普通の読者は疑問に思うだろう。言い得て妙な表現で誤りではないが、船員法などは議論されていない。
そういう目で見ていくと、次に気になるのが、著者が安全だというパラ泊で、専門家も安全だというと書いてあるが、本当に安全なのだろうか?船舶工学は経験工学と言われ、事故の度に、実験をすると新たな発見があったりする。事故の直後の7月5日の河北新報のインタビューで、船主の顧問弁護士むらかみが、パラ泊が安全でない場合について述べているほか、ベテランかつお漁船員の同種のコメントもある。これについて著者は無視しているが、どのように考えているのだろうか?報告書は何と言っているかというと、風、波、海潮流による力とパラアンカーの索張力の釣り合いによって決まるため、これらの外力の大きさや向きによっては、船首は風浪に立つ状態にならない場合がある、パラ泊中の船体はパラアンカーを中心に振れ回り運動を起こす、(→安全でない)と書いてある。村上弁護士の見解が正しければ、報告書のこの部分は著者の言うほど無理筋ではないのではないかとも思う。
場所について。野崎さんは、転覆事故の起きるような場所ではない、と言っているが、果たしてそう言い切れるだろうか?シニアの方は知っているが、かつて数多くの巨大貨物船が遭難した、魔の野島崎沖というのがあった。犬吠埼沖というのと同じエリアだ。最初の、ぼりばあ丸の事故は、大波が疑われたが、欠陥造船のせいだという主張もあり、原因不明になった。本件と同じで、新しい船で、船体は深海に沈み物証がなかった。次の事故では大波のせいにしたが大波を疑う意見もあり、海技研の前身である船舶技研が、船舶と波の関係について研究を始めた。10年以上あとになって、同種事故が再発した。今度は、大波が突然現れて大型船を折損したのが目撃された。このあと運輸省の官僚が総力をあげて、研究を行い、ついに対話型の運航マニュアルを作成して危険を避けるようになったので、同じ事故は発生しなくなった。昔の官僚は偉かったな。ただし、これは、冬の話。夏のことはよくわかっていない。曰く付きの海域なので、夏だって漁船を沈没させるくらいの波は突然発生するかもしれない。海は神秘だ。こうした、先人のDNAを受け継いでいる調査官なら、直感的に 「波だ!」と思っても不思議はないと、当レビューアーは考えている。
仮に船体損傷の疑いが出ても、それを報告書に記載できなかったろうということについては、考えすぎの気がする。外的な力による損傷の可能性に触れた上で、何とぶつかったかは明らかに出来なかったという書き方は十分あり得る。分からなかったということについては、普通、厳しい質問はない。分からなかったと言ってしまえば、それで終わりだ。追求の仕様がない。運輸安全委員会は外交問題を考慮するところではない。ここも著者による、買い被りなのだろうか?船体損傷でも、実は困らないのだ。
残念なのは、赤茶色の船底を晒した船の損傷を誰も見ていないことだ。生存者も船底を見ているのに目撃情報はない。双眼鏡で船底を晒している第58寿和丸を確認したとされる、第6寿和丸の船長でも見ていない。深海調査で損傷が見つかっても、海底への落下中に生じたかも知れないので、簡単には潜水艦説の根拠になってくれない。潜水艦説にとってここは、有利な要素ではない。
あと、運輸安全委員会が、強引にこの結論に導いたという点についてだが、報告書の冒頭を見れば、原因の書き方には、確実性の尺度に応じて4種類の書き分けをしていることがわかる。この報告書では、可能性があると考えられる、という表現が用いられており、最低ランクだ。さすがの委員会も、物証に欠き、実験とシミュレーションだけでは、自信のある結論は出せなかったことが窺える。著者はこの点に触れていないと思うが、触れるとストーリーがつまらなくなるからだろう。
重大事故に漁船があまり認定されず、漁船差別だという話だが、運輸安全委員会のホームページを見ると、そもそも、重大事故という分類がされておらず、奇妙に見える。これは、省令の規定が、事故の調査を地方事務所主導でやるか、東京主導でやるかという基準として作られていることを示している。全国的な報道への対応の必要性という観点からは、漁船が不利になり、東京の案件でなくなることを反映しているだけではないだろうか?
えひめ丸のことも実は気になっている。著者はえひめ丸事件を書いたアーリンダーに取材していても、アーリンダーが自著で強力に主張したことは完全に無視しているからだ。アーリンダーは、実習船には2種類あると言っている。安全な旅客船タイプと危険な漁船タイプだ。えひめ丸は、危険な漁船タイプで、生徒の居室や食堂が船底にあったので沈没のときに逃げられなかった。漁船は、漁獲重視で船員の安全はその次なので、船員の居室が船底にあって、危ない造りになっている。NTSBが指摘しないから、えひめ丸の代替船も以前と同じ漁船構造になったとアーリンダーは批判する。ちなみに、理事所は聴取をしただけで、調査を中断してアメリカに全面的に下駄を預けた。全く知られていないことだが、少し調べればわかることだ。
だから、潜水艦説をとった場合の教訓は、船員の安全を本当に考えるなら、船員の居室をもっと上部に配置すべき、ということだ。造船所や漁業者は嫌がるかも知れないが、死亡事故の本当の再発防止は、潜水艦の相手が分からない以上、漁船の側で自衛措置を講じて船体構造を変えるしかないのだ。業界や造船所、漁船の研究者にこのようなことを働きかけることが必要なのだが、なぜが、著者はこのような発想はしない。著者が今後、軍事の闇を突っついて、当て逃げの潜水艦を探し出しても、これから中国潜水艦も増えてくる中で、ほとんど意味があるとは思えない。当て逃げ船を探し出すのはもともと犯罪捜査の仕事で、運輸安全委員会の領域すら軽く越えてしまっている。残念ながら、その成果は現実には期待できないだろう。ここまで言ってしまっては酷なのだろうか。
ところで、乗組員に事故の刑事責任を求めた海保の訴追に対して、野崎さんの心労は如何ばかりだったかというのが、本書を読んでよくわかる。さすがに不起訴だったが、被害者ともいえる船員が不名誉な被疑者とされるのだから理不尽なものだ。潜水艦なら不可抗力だから当然だが、仮に波だったとしても、船員に刑事責任があるとは思えない。本書では、こちらの方面はあまり追求していないが、日本では、事故があれば例外なく刑事責任を追求するのが当然とされている。イギリスでは、あのタイタニックでさえ、船長の責任は認定されていないのに。普通の船長と同じ行動をとっただけだったからだ。
責任問題と関連して、当レビューアーが考える、本件の構造を述べておこう。本書は、船主の野崎さんの癒しのために書かれた本なのだろう。船主としての安全管理をきちんとしていたはずの船が沈み、大事な乗組員を失ったのに、国の措置は非情にも乗組員の送致だった。自分にも責任があるという嫌疑さえ向けられる。この事態を逆転してくれるのは、外部原因説である潜水艦説しかない。その場合にのみ、寿和丸は無過失となって、本当の心の癒しを得ることができるのだ。そういう議論を展開する場は、もともと刑事裁判や海難審判なのだが、本件では不起訴になり、船長も亡くなられたのでその場はなくなってしまった。原因調査を行う委員会が、この問題の決着をつける、代理裁判の場となる。船主にとっては、波説に基づく再発防止など要らないのだ。そんなものを出されると責任が発生してしまう。事故調査は、本来、責任問題を議論する場として設定されているのではないのだが、波説を取ると、保安庁に加担することになり、責任問題に巻き込まれてしまう。この事故はこのような特異な性格を持っている。事故調査の標準的な手続きは、船主の希望とうまく折り合わないのだ。
一方で、運輸安全委員会が追随したとされる保安庁の捜査については、著者が何も取材していないのが不思議なくらいだ。保安庁は何を根拠に波説をとったのか、誰にも聞きに行っていない。著者が下に見る同じ外局でも、こちらは警察機関で実力があるから、聞きに行くことに不都合があったのだろうか?
潜水調査が行われなかった理由はよくわからないが、委員会にお金がないというより、調査を実行するための予算を、会計当局や財政当局を説得して、とってくるのが困難だったと見る方がありそうだ。実験で結論の目処がたったのであれば、予算は認めてもらえそうもない。ちなみに、アメリカの予算規模が大きいのは、航空機の製造国として世界中で発生する航空事故の調査を行っているからだ。当然のことだが、あまり知られていない。アメリカとの単純比較は不当だろう。
この件だって、この本の反響が大きければ、今からでも予算を要求して調査を再開する理由になるかも知れない。運輸安全委員会にそのくらいの柔軟性があったとしての話だが。もし、潜水検査の結果、船体に損傷がなかったら、この本はどうなってしまうのだろうか?
ところで、この本の最大の欠陥で問題点は、船舶事故調査の国際条約について何も言及していないことだ。知らないのか、故意に無視したのか?NTSBやMAIBといった米英の機関について言及するなら、国際条約による国際標準についてちゃんと調べて書くべきだろう。ミステリーのうちのかなりの部分がそれによって解け、ありきたりの話になってしまうからだ。国際標準では、調査機関の独立性が強調され、大臣や国土交通省やその他の役所、国会議員、船舶所有者を含む関係者の意見に影響を受けてはいけないことになっている。関係者の証言を無視した報告書だという点が強調されているが、油まみれになったことなどは、報告書にちゃんと書いてある。無視したとみられる証言は、「絶対に波ではない」などの原因に関わる証言だ。これは、事実情報というより関係者による原因に関する意見なので、国際標準に従って、書いていないだけではないのか。関係者の原因に関する意見について記した報告書は、世界中どこを捜してもないはずだ。これが、調査官が話を聞かないように見えるミステリーの答えだろう。悪い官僚といった問題ではないのだろう。
情報の非開示についても同様で、国際標準に従って、口述部分は一律に開示されない。開示すると、刑事民事の裁判で証拠になってしまう危険があるので、開示は禁止されている。他の政府機関の秘密とは性格が異なるのだ。運輸安全委員会がもし開示したりすると、事故調査に詳しい専門家や弁護士から非難が殺到するだろう。
陰謀論の取り扱いは適切に思えるが、このような軍事専門家の発言が正しければ、123便の陰謀論も同様に成り立たなくなる。伏線として怪しげな保安官がでてきて箝口令を口にして何かに怯えるが、これは一体何だったのだろうという疑問が残る。陰謀論で気になるのは、地元の有力国会議員が官邸疑惑の払拭に尽力していたことを思い出すからだが、本当の自衛隊関係者に会えて、しっかりと陰謀論を葬っているのは、官邸に対して害がないようにあらかじめ企画されているのではとも思う。深読みのしすぎだろうか?
しかし、他のレビューを見ていて思うのだが、潜水艦の当て逃げだとすると、事故調査より、まずは犯罪捜査のはずだ。海保が当て逃げ事実を知っていて、軍事情報の隠蔽のために、先に結論を出したのなら、官邸ぐるみということにならないだろうか?海保や運輸安全委員会程度のレベルで、隠す理由もなければ、隠せる案件ではないからだ。こうして、本件も、著者の意図と無関係に、官邸疑惑に繋がってしまうだろう。
ところで、運輸安全委員会に調査の優先順位があり、漁船を重視していないという著者の見解は、事実と異なる。発足10年目の成果として部会長があげたのは、漁船に関するものだ。委員会が、AISという自船の位置を知らせる安全装置の普及を水産庁に提言したことによって、水産庁がタイアップして設備投資に優遇措置を設けた。このため、漁船と大型貨物船との悲惨な衝突事故はずいぶん減ったはずだし、これ以外にも県の漁政部と連携して有益と思われる提言をしているものも多いが、著者は何も取り上げていない。著者が漁船軽視と言っているのであれば、ファクトを見ればすぐに崩れてしまう。
本書は、ノンフィクションであるとされ、日本人はレッテルに弱いので、そういわれると内容すべてが事実であると信じてしまう。著者によるインタビューは、本人の息遣いまで聞こえてきそうで秀逸なのだが、別の話者からの伝聞になるとイマジネーションで膨らませたところが多く信頼度が落ちる。匿名の関係者や専門家になるとさらに怪しくなる。いずれにせよ、ノンフィクションは著者の眼鏡で現実を切り取ったものに過ぎないので、現実は、もっと普通で、これほど衝撃の大きいものではないのだろうと思う。
例えば、物静かにみえた調査官が豹変して漁船員を相手に威張り散らす衝撃的な場面は、ちょっと出来過ぎだし、油汚染の有数の専門家が公益法人の上司から注意されるところは、国関連の仕事をしないと、始まらないので、なんか妙だ。
さて、当レビュアーの見立ては以下の通りだ。委員会は潜水艦説も意識したが、波説よりもさらに可能性が少ないとみて記述から落とした。油の量は目安として正しいとみて、油の状態によっては証言と整合する状態になると考えた。船主関係者の意見を聴かないように見える理由は前述の通り。国際的な報告書のトレンドでは、原因と必ずしも関係のないことでも、調査で判明した不安全な事象について提言することが多い。委員会は、提言が船主の責任を認定するものだとは認識していないので、再発防止の提言をしている。これらが、委員会と船主とそのサポーターとの認識の違いになっている。ノンフィクションは事実より奇なのではないだろうか。
まあ、この本はよく書けていて、当レビュアーも興奮しながら一読した。力作と言えるだろうし、事故の関係者が納得しない報告書は、成功したとは言えない。委員会の報告書が、棄却した見解について、字数を割かないのも良くない。報告書の信頼性の精度を高めるためには、情報を出し惜しみせずに透明性を増すとともに、アメリカのNTSB のような、再調査制度を導入すべきだ。アメリカでは、調査は決して終わりにならず、全て継続しているとされる。事故の関係者は何年経っても、自説をぶつけてチャレンジできる。NTSBは、修正すべきところがあれば、平気で修正する。棄却する場合でも現在の委員会のメンバーが、理由は文書で説明する。日本では、このような制度がないために、過去の調査官に意見を聞けば、多くの人が守秘義務を理由に沈黙する。説明がなければ疑惑を呼ぶ。制度の改良が必要な時期だと、当レビューアーは思う。
長くなって恐縮だが、書評が出たので追加すると、柳田邦男さんの著作に言及があるので、是非、柳田さんの事故調査に関する本を読んでほしい。柳田さんは、事故調査を完璧に理解し、改善を先導した。柳田さんは、JR西日本の不祥事の検証でも、運輸安全委員会を指導している。
著者は素晴らしい筆力だが、船主に共感するところから始まり、運輸安全委員会に対する嫌悪感を共有するので、バイアスがないとは言えないだろう。聞いたことを正確に記しても、話者が誤っている場合には修正がされない。
もう一つ、情報公開に関して、事故調査に関する全ての資料を公開せよという著者の主張はよろしくない。そのようになったらすべての事故調査が崩壊するだろう。例えば、航空パイロットの組合では、事故調査報告書が刑事裁判で使用されることを以前から問題視している。運輸安全委員会は、その分離について試みているが、まだ成功していない。ましてや、関係者の証言が情報公開で簡単に取得でき、刑事・民事裁判で使用されることとなったら、事故調査で真実を正直に証言する人はいなくなる。真実の証言によって成立する事故調査は崩壊する。情報公開一辺倒の論者とは異なり、パイロットなど運航従事者の組合は、全ての資料の公開には賛成しないだろう。航空でも船舶でもこの原則は同じだ。アメリカではどうかというと、事故調査の証言などの事実資料は、裁判で使用できないように法律に書いてあるから公開できるのだ。それにNTSBだって解析の報告書には非公開のものもある。運輸安全委員会の情報公開は、この本のとおりなら改善される必要があり、最大限の公開をするべきなだが、それでも、わが国ではアメリカのような法制は無理なので、現時点で全ての公開は適切でない。国際標準からもずれてしまう。
著者は、アメリカのNTSBと比べて運輸安全委員会を下に見るが、アメリカとはセッティングが違うことを指摘しておこう。アメリカのシステムでは事故調査は民事刑事と分離されているので、本件のような問題は起きない。なぜなら、そもそもこのような事件で船員が送致されることはないから、検察が事故調査報告書に頼ることもないし、弁護士が船主に有利になるよういろいろ画策することもないのだ。保険会社が事故調査報告書にすがりつくこともない。事故調査機関は純粋に再発防止を追及すればよいことになっている。つまり、運輸安全委員会だけでなく、残念ながら、日本のシステム全体が後進的なのに、みんなが気づいていない。運輸安全委員会は、さらに変わる必要があるし、ジャーナリストも、事故調査をもっと勉強して欲しい。
本書のメリットは、まずは、あまり日の当たらない船舶事故に読者の関心を引き付けたことである。多くの箇所で誤りだったり、ミスリーディングだったりするが、普通の読者には気にならないようだ。それにしても、著者の取材に費やしたエネルギーと本書の構成のうまさ、ストーリーテラーの卓抜の筆力は素晴らしく、官庁ものミステリーエンターテイメントの面白みさえ提供していることを評価したい。
ここからは追加だが、最初にレビューを書いてから時間も経ち、本作は数々の賞を受賞した。著者の訴える力の強い類い希な表現力とジャーナリスト魂が共感を呼んだものと思う。著者の伊澤さんにお祝いを申し上げたい。
本書のメーキングについて読むと、子育ての最中の執筆だったようで、寸暇を惜しみ憑かれたように執筆に取り組んだのも好感の要素だ。しかも著者は、流石にイギリスの経験者だけあって、sense of humourがある!余計なコメントだが、一般的な話として言えば、例えば天下りの老人がゆったりと回顧録を書く場合は別だが、フルタイムで別のことをやっている者が、コンテンツの多い本を作る場合には、出版不況のなか主として図書館しか買わないような本の場合でも、余暇時間のほとんどすべてを捧げ尽くして憑かれたようにやらないとできないだろうという点では同じようだ。個人的な損得勘定では莫迦なことをやっているようにしか見えないが、そういう本もなければいけないように思う。WEB上にあっても認知されないからだ。
本書で鮮烈なデビューを果たした著者は、さらに大きなのびしろを持っているように思え、今後のさらなる一層の飛躍が期待できる。これからの一生を潜水艦だけを追い続けて送るようにはとてもイメージできないからだ。
上位のレビューが多いが、現在のところその大半が、本書のレビューをするために、アマゾンレビューを始めた人たちのようだ。これは偶然なのか、お友達がいっせいにレビューしたのだろうか?そこまでしなくても面白い本なのにな。
ところで、喜多さんの発言のところ(114ページ)。「運輸安全委員会の調査官に、元船員はなれなかった」は、事実と違う。事実は、半数以上が元船員で、当時の次席調査官の西村さんも、理事所の次席だったのだから、当然元船員だ。こういう簡単なところで、間違っていると、他のところも正しいのかと不安になる。この部分は、官僚イコール悪、船員イコール善、という著者の主張に合うように、故意に事実を曲げたのか、単純に裏どりが甘いのだろうか?理事所ついでに言えば、103ページに「僚船や第58寿和丸の船員は三角波など見ていない」と理事所が言っていた、というところがあり、波説否定の根拠の一つにされているように見える。しかし、生存している船員は船内居室に居て、僚船は6キロあまり離れたところにいたそうなのだから、たとえ三角波があっても、誰も見ていないのは当たり前だ。ここは、何を言っているのだろうか?
喜多さんの発言の先に海難審判庁のやってきたことについての解説がある。 「船員経験者らが船員法など海事関係の法律を独自の言葉で解釈し、議論する場だった」。あまり本論と関係のないところで、つっこみを入れるべきではないが、こんな明治時代のような古色蒼然としたことをやっていて、海難の原因が探究できるのかと、普通の読者は疑問に思うだろう。言い得て妙な表現で誤りではないが、船員法などは議論されていない。
そういう目で見ていくと、次に気になるのが、著者が安全だというパラ泊で、専門家も安全だというと書いてあるが、本当に安全なのだろうか?船舶工学は経験工学と言われ、事故の度に、実験をすると新たな発見があったりする。事故の直後の7月5日の河北新報のインタビューで、船主の顧問弁護士むらかみが、パラ泊が安全でない場合について述べているほか、ベテランかつお漁船員の同種のコメントもある。これについて著者は無視しているが、どのように考えているのだろうか?報告書は何と言っているかというと、風、波、海潮流による力とパラアンカーの索張力の釣り合いによって決まるため、これらの外力の大きさや向きによっては、船首は風浪に立つ状態にならない場合がある、パラ泊中の船体はパラアンカーを中心に振れ回り運動を起こす、(→安全でない)と書いてある。村上弁護士の見解が正しければ、報告書のこの部分は著者の言うほど無理筋ではないのではないかとも思う。
場所について。野崎さんは、転覆事故の起きるような場所ではない、と言っているが、果たしてそう言い切れるだろうか?シニアの方は知っているが、かつて数多くの巨大貨物船が遭難した、魔の野島崎沖というのがあった。犬吠埼沖というのと同じエリアだ。最初の、ぼりばあ丸の事故は、大波が疑われたが、欠陥造船のせいだという主張もあり、原因不明になった。本件と同じで、新しい船で、船体は深海に沈み物証がなかった。次の事故では大波のせいにしたが大波を疑う意見もあり、海技研の前身である船舶技研が、船舶と波の関係について研究を始めた。10年以上あとになって、同種事故が再発した。今度は、大波が突然現れて大型船を折損したのが目撃された。このあと運輸省の官僚が総力をあげて、研究を行い、ついに対話型の運航マニュアルを作成して危険を避けるようになったので、同じ事故は発生しなくなった。昔の官僚は偉かったな。ただし、これは、冬の話。夏のことはよくわかっていない。曰く付きの海域なので、夏だって漁船を沈没させるくらいの波は突然発生するかもしれない。海は神秘だ。こうした、先人のDNAを受け継いでいる調査官なら、直感的に 「波だ!」と思っても不思議はないと、当レビューアーは考えている。
仮に船体損傷の疑いが出ても、それを報告書に記載できなかったろうということについては、考えすぎの気がする。外的な力による損傷の可能性に触れた上で、何とぶつかったかは明らかに出来なかったという書き方は十分あり得る。分からなかったということについては、普通、厳しい質問はない。分からなかったと言ってしまえば、それで終わりだ。追求の仕様がない。運輸安全委員会は外交問題を考慮するところではない。ここも著者による、買い被りなのだろうか?船体損傷でも、実は困らないのだ。
残念なのは、赤茶色の船底を晒した船の損傷を誰も見ていないことだ。生存者も船底を見ているのに目撃情報はない。双眼鏡で船底を晒している第58寿和丸を確認したとされる、第6寿和丸の船長でも見ていない。深海調査で損傷が見つかっても、海底への落下中に生じたかも知れないので、簡単には潜水艦説の根拠になってくれない。潜水艦説にとってここは、有利な要素ではない。
あと、運輸安全委員会が、強引にこの結論に導いたという点についてだが、報告書の冒頭を見れば、原因の書き方には、確実性の尺度に応じて4種類の書き分けをしていることがわかる。この報告書では、可能性があると考えられる、という表現が用いられており、最低ランクだ。さすがの委員会も、物証に欠き、実験とシミュレーションだけでは、自信のある結論は出せなかったことが窺える。著者はこの点に触れていないと思うが、触れるとストーリーがつまらなくなるからだろう。
重大事故に漁船があまり認定されず、漁船差別だという話だが、運輸安全委員会のホームページを見ると、そもそも、重大事故という分類がされておらず、奇妙に見える。これは、省令の規定が、事故の調査を地方事務所主導でやるか、東京主導でやるかという基準として作られていることを示している。全国的な報道への対応の必要性という観点からは、漁船が不利になり、東京の案件でなくなることを反映しているだけではないだろうか?
えひめ丸のことも実は気になっている。著者はえひめ丸事件を書いたアーリンダーに取材していても、アーリンダーが自著で強力に主張したことは完全に無視しているからだ。アーリンダーは、実習船には2種類あると言っている。安全な旅客船タイプと危険な漁船タイプだ。えひめ丸は、危険な漁船タイプで、生徒の居室や食堂が船底にあったので沈没のときに逃げられなかった。漁船は、漁獲重視で船員の安全はその次なので、船員の居室が船底にあって、危ない造りになっている。NTSBが指摘しないから、えひめ丸の代替船も以前と同じ漁船構造になったとアーリンダーは批判する。ちなみに、理事所は聴取をしただけで、調査を中断してアメリカに全面的に下駄を預けた。全く知られていないことだが、少し調べればわかることだ。
だから、潜水艦説をとった場合の教訓は、船員の安全を本当に考えるなら、船員の居室をもっと上部に配置すべき、ということだ。造船所や漁業者は嫌がるかも知れないが、死亡事故の本当の再発防止は、潜水艦の相手が分からない以上、漁船の側で自衛措置を講じて船体構造を変えるしかないのだ。業界や造船所、漁船の研究者にこのようなことを働きかけることが必要なのだが、なぜが、著者はこのような発想はしない。著者が今後、軍事の闇を突っついて、当て逃げの潜水艦を探し出しても、これから中国潜水艦も増えてくる中で、ほとんど意味があるとは思えない。当て逃げ船を探し出すのはもともと犯罪捜査の仕事で、運輸安全委員会の領域すら軽く越えてしまっている。残念ながら、その成果は現実には期待できないだろう。ここまで言ってしまっては酷なのだろうか。
ところで、乗組員に事故の刑事責任を求めた海保の訴追に対して、野崎さんの心労は如何ばかりだったかというのが、本書を読んでよくわかる。さすがに不起訴だったが、被害者ともいえる船員が不名誉な被疑者とされるのだから理不尽なものだ。潜水艦なら不可抗力だから当然だが、仮に波だったとしても、船員に刑事責任があるとは思えない。本書では、こちらの方面はあまり追求していないが、日本では、事故があれば例外なく刑事責任を追求するのが当然とされている。イギリスでは、あのタイタニックでさえ、船長の責任は認定されていないのに。普通の船長と同じ行動をとっただけだったからだ。
責任問題と関連して、当レビューアーが考える、本件の構造を述べておこう。本書は、船主の野崎さんの癒しのために書かれた本なのだろう。船主としての安全管理をきちんとしていたはずの船が沈み、大事な乗組員を失ったのに、国の措置は非情にも乗組員の送致だった。自分にも責任があるという嫌疑さえ向けられる。この事態を逆転してくれるのは、外部原因説である潜水艦説しかない。その場合にのみ、寿和丸は無過失となって、本当の心の癒しを得ることができるのだ。そういう議論を展開する場は、もともと刑事裁判や海難審判なのだが、本件では不起訴になり、船長も亡くなられたのでその場はなくなってしまった。原因調査を行う委員会が、この問題の決着をつける、代理裁判の場となる。船主にとっては、波説に基づく再発防止など要らないのだ。そんなものを出されると責任が発生してしまう。事故調査は、本来、責任問題を議論する場として設定されているのではないのだが、波説を取ると、保安庁に加担することになり、責任問題に巻き込まれてしまう。この事故はこのような特異な性格を持っている。事故調査の標準的な手続きは、船主の希望とうまく折り合わないのだ。
一方で、運輸安全委員会が追随したとされる保安庁の捜査については、著者が何も取材していないのが不思議なくらいだ。保安庁は何を根拠に波説をとったのか、誰にも聞きに行っていない。著者が下に見る同じ外局でも、こちらは警察機関で実力があるから、聞きに行くことに不都合があったのだろうか?
潜水調査が行われなかった理由はよくわからないが、委員会にお金がないというより、調査を実行するための予算を、会計当局や財政当局を説得して、とってくるのが困難だったと見る方がありそうだ。実験で結論の目処がたったのであれば、予算は認めてもらえそうもない。ちなみに、アメリカの予算規模が大きいのは、航空機の製造国として世界中で発生する航空事故の調査を行っているからだ。当然のことだが、あまり知られていない。アメリカとの単純比較は不当だろう。
この件だって、この本の反響が大きければ、今からでも予算を要求して調査を再開する理由になるかも知れない。運輸安全委員会にそのくらいの柔軟性があったとしての話だが。もし、潜水検査の結果、船体に損傷がなかったら、この本はどうなってしまうのだろうか?
ところで、この本の最大の欠陥で問題点は、船舶事故調査の国際条約について何も言及していないことだ。知らないのか、故意に無視したのか?NTSBやMAIBといった米英の機関について言及するなら、国際条約による国際標準についてちゃんと調べて書くべきだろう。ミステリーのうちのかなりの部分がそれによって解け、ありきたりの話になってしまうからだ。国際標準では、調査機関の独立性が強調され、大臣や国土交通省やその他の役所、国会議員、船舶所有者を含む関係者の意見に影響を受けてはいけないことになっている。関係者の証言を無視した報告書だという点が強調されているが、油まみれになったことなどは、報告書にちゃんと書いてある。無視したとみられる証言は、「絶対に波ではない」などの原因に関わる証言だ。これは、事実情報というより関係者による原因に関する意見なので、国際標準に従って、書いていないだけではないのか。関係者の原因に関する意見について記した報告書は、世界中どこを捜してもないはずだ。これが、調査官が話を聞かないように見えるミステリーの答えだろう。悪い官僚といった問題ではないのだろう。
情報の非開示についても同様で、国際標準に従って、口述部分は一律に開示されない。開示すると、刑事民事の裁判で証拠になってしまう危険があるので、開示は禁止されている。他の政府機関の秘密とは性格が異なるのだ。運輸安全委員会がもし開示したりすると、事故調査に詳しい専門家や弁護士から非難が殺到するだろう。
陰謀論の取り扱いは適切に思えるが、このような軍事専門家の発言が正しければ、123便の陰謀論も同様に成り立たなくなる。伏線として怪しげな保安官がでてきて箝口令を口にして何かに怯えるが、これは一体何だったのだろうという疑問が残る。陰謀論で気になるのは、地元の有力国会議員が官邸疑惑の払拭に尽力していたことを思い出すからだが、本当の自衛隊関係者に会えて、しっかりと陰謀論を葬っているのは、官邸に対して害がないようにあらかじめ企画されているのではとも思う。深読みのしすぎだろうか?
しかし、他のレビューを見ていて思うのだが、潜水艦の当て逃げだとすると、事故調査より、まずは犯罪捜査のはずだ。海保が当て逃げ事実を知っていて、軍事情報の隠蔽のために、先に結論を出したのなら、官邸ぐるみということにならないだろうか?海保や運輸安全委員会程度のレベルで、隠す理由もなければ、隠せる案件ではないからだ。こうして、本件も、著者の意図と無関係に、官邸疑惑に繋がってしまうだろう。
ところで、運輸安全委員会に調査の優先順位があり、漁船を重視していないという著者の見解は、事実と異なる。発足10年目の成果として部会長があげたのは、漁船に関するものだ。委員会が、AISという自船の位置を知らせる安全装置の普及を水産庁に提言したことによって、水産庁がタイアップして設備投資に優遇措置を設けた。このため、漁船と大型貨物船との悲惨な衝突事故はずいぶん減ったはずだし、これ以外にも県の漁政部と連携して有益と思われる提言をしているものも多いが、著者は何も取り上げていない。著者が漁船軽視と言っているのであれば、ファクトを見ればすぐに崩れてしまう。
本書は、ノンフィクションであるとされ、日本人はレッテルに弱いので、そういわれると内容すべてが事実であると信じてしまう。著者によるインタビューは、本人の息遣いまで聞こえてきそうで秀逸なのだが、別の話者からの伝聞になるとイマジネーションで膨らませたところが多く信頼度が落ちる。匿名の関係者や専門家になるとさらに怪しくなる。いずれにせよ、ノンフィクションは著者の眼鏡で現実を切り取ったものに過ぎないので、現実は、もっと普通で、これほど衝撃の大きいものではないのだろうと思う。
例えば、物静かにみえた調査官が豹変して漁船員を相手に威張り散らす衝撃的な場面は、ちょっと出来過ぎだし、油汚染の有数の専門家が公益法人の上司から注意されるところは、国関連の仕事をしないと、始まらないので、なんか妙だ。
さて、当レビュアーの見立ては以下の通りだ。委員会は潜水艦説も意識したが、波説よりもさらに可能性が少ないとみて記述から落とした。油の量は目安として正しいとみて、油の状態によっては証言と整合する状態になると考えた。船主関係者の意見を聴かないように見える理由は前述の通り。国際的な報告書のトレンドでは、原因と必ずしも関係のないことでも、調査で判明した不安全な事象について提言することが多い。委員会は、提言が船主の責任を認定するものだとは認識していないので、再発防止の提言をしている。これらが、委員会と船主とそのサポーターとの認識の違いになっている。ノンフィクションは事実より奇なのではないだろうか。
まあ、この本はよく書けていて、当レビュアーも興奮しながら一読した。力作と言えるだろうし、事故の関係者が納得しない報告書は、成功したとは言えない。委員会の報告書が、棄却した見解について、字数を割かないのも良くない。報告書の信頼性の精度を高めるためには、情報を出し惜しみせずに透明性を増すとともに、アメリカのNTSB のような、再調査制度を導入すべきだ。アメリカでは、調査は決して終わりにならず、全て継続しているとされる。事故の関係者は何年経っても、自説をぶつけてチャレンジできる。NTSBは、修正すべきところがあれば、平気で修正する。棄却する場合でも現在の委員会のメンバーが、理由は文書で説明する。日本では、このような制度がないために、過去の調査官に意見を聞けば、多くの人が守秘義務を理由に沈黙する。説明がなければ疑惑を呼ぶ。制度の改良が必要な時期だと、当レビューアーは思う。
長くなって恐縮だが、書評が出たので追加すると、柳田邦男さんの著作に言及があるので、是非、柳田さんの事故調査に関する本を読んでほしい。柳田さんは、事故調査を完璧に理解し、改善を先導した。柳田さんは、JR西日本の不祥事の検証でも、運輸安全委員会を指導している。
著者は素晴らしい筆力だが、船主に共感するところから始まり、運輸安全委員会に対する嫌悪感を共有するので、バイアスがないとは言えないだろう。聞いたことを正確に記しても、話者が誤っている場合には修正がされない。
もう一つ、情報公開に関して、事故調査に関する全ての資料を公開せよという著者の主張はよろしくない。そのようになったらすべての事故調査が崩壊するだろう。例えば、航空パイロットの組合では、事故調査報告書が刑事裁判で使用されることを以前から問題視している。運輸安全委員会は、その分離について試みているが、まだ成功していない。ましてや、関係者の証言が情報公開で簡単に取得でき、刑事・民事裁判で使用されることとなったら、事故調査で真実を正直に証言する人はいなくなる。真実の証言によって成立する事故調査は崩壊する。情報公開一辺倒の論者とは異なり、パイロットなど運航従事者の組合は、全ての資料の公開には賛成しないだろう。航空でも船舶でもこの原則は同じだ。アメリカではどうかというと、事故調査の証言などの事実資料は、裁判で使用できないように法律に書いてあるから公開できるのだ。それにNTSBだって解析の報告書には非公開のものもある。運輸安全委員会の情報公開は、この本のとおりなら改善される必要があり、最大限の公開をするべきなだが、それでも、わが国ではアメリカのような法制は無理なので、現時点で全ての公開は適切でない。国際標準からもずれてしまう。
著者は、アメリカのNTSBと比べて運輸安全委員会を下に見るが、アメリカとはセッティングが違うことを指摘しておこう。アメリカのシステムでは事故調査は民事刑事と分離されているので、本件のような問題は起きない。なぜなら、そもそもこのような事件で船員が送致されることはないから、検察が事故調査報告書に頼ることもないし、弁護士が船主に有利になるよういろいろ画策することもないのだ。保険会社が事故調査報告書にすがりつくこともない。事故調査機関は純粋に再発防止を追及すればよいことになっている。つまり、運輸安全委員会だけでなく、残念ながら、日本のシステム全体が後進的なのに、みんなが気づいていない。運輸安全委員会は、さらに変わる必要があるし、ジャーナリストも、事故調査をもっと勉強して欲しい。
本書のメリットは、まずは、あまり日の当たらない船舶事故に読者の関心を引き付けたことである。多くの箇所で誤りだったり、ミスリーディングだったりするが、普通の読者には気にならないようだ。それにしても、著者の取材に費やしたエネルギーと本書の構成のうまさ、ストーリーテラーの卓抜の筆力は素晴らしく、官庁ものミステリーエンターテイメントの面白みさえ提供していることを評価したい。
ここからは追加だが、最初にレビューを書いてから時間も経ち、本作は数々の賞を受賞した。著者の訴える力の強い類い希な表現力とジャーナリスト魂が共感を呼んだものと思う。著者の伊澤さんにお祝いを申し上げたい。
本書のメーキングについて読むと、子育ての最中の執筆だったようで、寸暇を惜しみ憑かれたように執筆に取り組んだのも好感の要素だ。しかも著者は、流石にイギリスの経験者だけあって、sense of humourがある!余計なコメントだが、一般的な話として言えば、例えば天下りの老人がゆったりと回顧録を書く場合は別だが、フルタイムで別のことをやっている者が、コンテンツの多い本を作る場合には、出版不況のなか主として図書館しか買わないような本の場合でも、余暇時間のほとんどすべてを捧げ尽くして憑かれたようにやらないとできないだろうという点では同じようだ。個人的な損得勘定では莫迦なことをやっているようにしか見えないが、そういう本もなければいけないように思う。WEB上にあっても認知されないからだ。
本書で鮮烈なデビューを果たした著者は、さらに大きなのびしろを持っているように思え、今後のさらなる一層の飛躍が期待できる。これからの一生を潜水艦だけを追い続けて送るようにはとてもイメージできないからだ。
2024年5月15日に日本でレビュー済み
ジャーナリズムの賞を受賞したと聞いて、読了しました。「潜水艦と衝突して船は沈没した」という説を主張するには、やはり根拠となる証拠やデータがまだ乏しいのでは。これからの取材で今後、潜水艦説を裏づける当時の関係者の証言や記録が取れればいいのだけど。現時点ではまだ推測の域を出ていないのに潜水艦説をこんな強く押し出していいのか・陰謀論にもつながりかねないのではと、もやもやが残る読後感でした。筆者の方の根気強い取材はすごいと思う一方、今はまだ評価をさだめられない一冊かと思います。この本にジャーナリズムの賞を与えてしまうのもどうなのだろうと、レビュー欄を開いてみると、絶賛のコメントが多く記されているのを見て、そこももやもやしました笑。この不完全燃焼感を記しておきたいと思い、コメントさせていただきました。
2024年2月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
結論は出ているけれど、確証が取れないもどかしさ。それでも大きな相手に立ち向かう勇気と真摯な姿勢、望みは捨てず続編に期待したい。そして、あの短いあとがきに彼女の運命を感じる。