幻覚剤やサイケデリックというと、いかがわしい違法な薬物というイメージが特に日本では一般的だろう。また、60年代ハーバード大学心理学教授だったティモシー・リアリーやラム・ダスの功罪相半ばする社会的熱狂の後、当局によって禁じられたドラッグという印象が付き纏う。
しかし近年、FDAなど政府機関から認可を得た海外の臨床研究によって、シロシビンやLSDなどの幻覚剤が終末期患者の死に対する不安や、アルコール依存症、さらには難治性のうつ病に対しても劇的と言い得る治療効果を発揮することが明らかになりはじめている。
著者のマイケル・ポーランは、ハーバード大学やUCLAで教鞭をとる一方、タイム誌の「世界で最も影響力を持つ100人」にも選ばれた一流のジャーナリストである。
その書き手になる本書の綿密な取材を読む限り、心理的に適切な環境と専門的サポートのもとでの幻覚剤の使用は臨床医学の側面から安全性が確立されつつある段階にあり、幻覚剤自体には依存性や毒性がないことが分かっている。
加えて、幻覚剤がもつ本来の劇的な効用は症状に苦しむ患者はもちろん、ひいては一般に健康な人びとのQOL(人生の質)やウェルビーイングなどの持続的な幸福にかかわる潜在的に大きな実存的意味を持つ妙薬になる可能性が十分に考えられる。
そもそも人類は有史以前からキノコなどによってこれらの成分を摂取してきただろうはずで、現在の過剰な法的規制からそれらを正当に再評価すべき時期に来ているのかもしれない。今後、速やかな研究の蓄積と法整備が待たれる。
心理学者のマズローは晩年、自己実現より更に高次の欲求段階に「自己超越」という階層を置いた。幻覚剤被験者がしばしば垣間見るのは、伝統的にはある種の悟りや法悦に類する自己超越の境地であり、たった一度のセッションでも深い生の喜びや世界観の転換を経験し、そこで体得されたものがその後の人生にも持続するのが特筆すべき特徴である。
500頁を超える浩瀚な著作にもかかわらず、幻覚剤の歴史から最新の神経科学の動向まで人間の心的領域全般を射程におさめた本書の筆致は終始飽きるということがなく一気に読まされる。ここ数年では圧倒的に面白く、真に重要な主題になる必読の叙述的仕事といってよい。
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幻覚剤は役に立つのか 亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ Kindle版
『雑食動物のジレンマ』『人間は料理をする』で知られるジャーナリストが自ら幻覚剤を体験し、タブーに挑む!
今どんな幻覚剤の研究がおこなわれているのか。
幻覚剤は脳にどんな影響を与えるのか。
そして、医療や人類の精神に、幻覚剤はいかに寄与しうるのか。
「不安障害」「依存症」「うつ病」「末期ガン」などへの医学的利用の可能性と、“変性する意識”の内的過程を探る画期的ノンフィクション。
ニューヨークタイムズ紙「今年の10冊」選出(2018年)、ガーディアン紙、絶賛!
一部の精神科医や心理学者が過去の幻覚剤研究の存在に気づき、発掘を始めたのは最近のことだ。
彼らは現代の基準で再実験をおこなって、その精神疾患治療薬としての可能性に驚愕し、(中略)幻覚剤が脳にどう働くのか調べはじめた。
——幻覚剤ルネッサンスである。(宮﨑真紀)
【目次】
プロローグ 新たな扉
第一章 ルネッサンス
第二章 博物学——キノコに酔う
第三章 歴史——幻覚剤研究の第一波
一 有望な可能性
二 崩壊
第四章 旅行記——地下に潜ってみる
トリップ一 LSD
トリップ二 サイロシビン
トリップ三 5-MeO-DMT(あるいはトード)
第五章 神経科学——幻覚剤の影響下にある脳
第六章 トリップ治療——幻覚剤を使ったセラピー
一 終末期患者
二 依存症
三 うつ病
エピローグ 神経の多様性を讃えて
今どんな幻覚剤の研究がおこなわれているのか。
幻覚剤は脳にどんな影響を与えるのか。
そして、医療や人類の精神に、幻覚剤はいかに寄与しうるのか。
「不安障害」「依存症」「うつ病」「末期ガン」などへの医学的利用の可能性と、“変性する意識”の内的過程を探る画期的ノンフィクション。
ニューヨークタイムズ紙「今年の10冊」選出(2018年)、ガーディアン紙、絶賛!
一部の精神科医や心理学者が過去の幻覚剤研究の存在に気づき、発掘を始めたのは最近のことだ。
彼らは現代の基準で再実験をおこなって、その精神疾患治療薬としての可能性に驚愕し、(中略)幻覚剤が脳にどう働くのか調べはじめた。
——幻覚剤ルネッサンスである。(宮﨑真紀)
【目次】
プロローグ 新たな扉
第一章 ルネッサンス
第二章 博物学——キノコに酔う
第三章 歴史——幻覚剤研究の第一波
一 有望な可能性
二 崩壊
第四章 旅行記——地下に潜ってみる
トリップ一 LSD
トリップ二 サイロシビン
トリップ三 5-MeO-DMT(あるいはトード)
第五章 神経科学——幻覚剤の影響下にある脳
第六章 トリップ治療——幻覚剤を使ったセラピー
一 終末期患者
二 依存症
三 うつ病
エピローグ 神経の多様性を讃えて
- 言語日本語
- 出版社亜紀書房
- 発売日2020/5/26
- ファイルサイズ3522 KB
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商品の説明
著者について
マイケル・ポーラン(Michael Pollan)
作家、ジャーナリスト、活動家。ハーヴァード大学英語学部でライティング、カリフォルニア大学バークレー校大学院でジャーナリズムを教える。
著書に、国際的にベストセラーになった『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社)、『人間は料理をする』(NTT出版)、『欲望の植物誌』(八坂書房)など。
『人間は料理をする』はNetflixでドキュメンタリー番組化され、好評を博す。
卓越したジャーナリズムの手法に、人類学、哲学、文化論、医学、自然誌など多角的な視点を取り入れ、みずからの体験も盛り込みながら、植物、食、自然について重層的に論じることで知られる。
2010年、「Time」誌の「世界で最も影響力を持つ100人」に選出。受賞歴多数。
宮﨑真紀(みやざき・まき)
英米文学・スペイン語文学翻訳家。東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。
主な訳書に、ブライアン・スティーブンソン『黒い司法』、ルイーズ・グレイ『生き物を殺して食べる』、メアリー・ビアード『SPQR ローマ帝国史』(以上、亜紀書房)、ニナ・マクローリン『彼女が大工になった理由』(エクスナレッジ)、メアリー・ベアード『舌を抜かれる女たち』(晶文社)など。
作家、ジャーナリスト、活動家。ハーヴァード大学英語学部でライティング、カリフォルニア大学バークレー校大学院でジャーナリズムを教える。
著書に、国際的にベストセラーになった『雑食動物のジレンマ』(東洋経済新報社)、『人間は料理をする』(NTT出版)、『欲望の植物誌』(八坂書房)など。
『人間は料理をする』はNetflixでドキュメンタリー番組化され、好評を博す。
卓越したジャーナリズムの手法に、人類学、哲学、文化論、医学、自然誌など多角的な視点を取り入れ、みずからの体験も盛り込みながら、植物、食、自然について重層的に論じることで知られる。
2010年、「Time」誌の「世界で最も影響力を持つ100人」に選出。受賞歴多数。
宮﨑真紀(みやざき・まき)
英米文学・スペイン語文学翻訳家。東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。
主な訳書に、ブライアン・スティーブンソン『黒い司法』、ルイーズ・グレイ『生き物を殺して食べる』、メアリー・ビアード『SPQR ローマ帝国史』(以上、亜紀書房)、ニナ・マクローリン『彼女が大工になった理由』(エクスナレッジ)、メアリー・ベアード『舌を抜かれる女たち』(晶文社)など。
登録情報
- ASIN : B08BNVCH86
- 出版社 : 亜紀書房 (2020/5/26)
- 発売日 : 2020/5/26
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 3522 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 510ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 171,919位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 3,779位ノンフィクション (Kindleストア)
- - 52,436位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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2024年3月5日に日本でレビュー済み
2022年4月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
読み始めるとやめられなくなりました。あくまで客観的な立場をとっているため、胡散臭さはなく、とはいえ謎解きストーリーのような体裁で魅了されます。
2021年3月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
good
2020年8月13日に日本でレビュー済み
表紙カバーの装画(ルネ・マグリット『黒魔術』1945年)に注目しました。
奇妙な画です。
裸婦の下半身はごく普通の肉体の色彩で描かれていますが、
上半身は、青と白のみで、まるで色あせた「神の肉体」(10頁)のよう。
15世紀前後のルネッサンス期を境にした絵画の変化のように思えました。
本書の原題は、『HOW TO CHANGE YOUR MIND』
直訳ならば、<あなたのマインドをいかにして変えるか、その方法>
典型的な「ハウ・ツー」本のタイトルになっています。
本書の訳者宮﨑真紀さんは『幻覚剤は役に立つのか』と意味ありげに意訳しています。
幻覚剤は役に立つのか、役に立たないのか、未だよくわかっていない、と言いたげな訳です。
今日の日本社会では「幻覚剤」は法律で規制されており、
「幻覚剤」について話すことさえ「タブー視」(525頁、訳者あとがき)されています。
「幻覚剤」という単語を、あえて書名のトップに出し、「役に立つのか」と疑問形にしています。
この意訳タイトルは、「タブー視」する現状に疑問を持ち、
新しい見方で科学的に幻覚剤の有用性の有無を研究する必要がある、
と訳者は示唆しているように感じます。
原著者でさえ「幻覚剤」という単語は、主タイトルには出さなかったのに。
なお、原書<副題>には、「幻覚剤(Psychedelics)」という単語が小さい活字で出てきます。
「What the New Science of Psychedelics Teaches Us About Consciousness, Dying, Addiction, Depression, and Transcendence (私訳: 幻覚剤についての新しい科学が我々人間に教示すること: 意識、死への過程、薬物乱用、うつ、そして自己超越)」
原書の<副題>は、なんと冗長で、説明的な副題なのでしょう。
「幻覚剤をむやみにタブー視するのではなく、少なくとも治療研究の俎上には上げてみてもよいのではないだろうか」(525頁、訳者あとがき)
幻覚剤は役に立つのか、役に立たないのか、をせめて治療研究ぐらいしてみてもよいのでは、
という宮﨑さんのお気持ちが現れている意訳だと思います。
役に立つかどうかの治療研究の例の一つに挙げられたのは、うつ病治療薬。
うつ病患者は「日本国内だけで五○○万人以上」おり、
その治療薬として現在使われている薬の「効果が疑問視されはじめている」というのです。
幻覚剤が「麻薬および向精神薬取締法」で規制されている日本でも、
幻覚剤の治療薬としての活用研究が、一部の大学で現在もおこなわれているそうです。
米国における幻覚剤研究は、
「1963年、ティモシー・リアリーによる<ハーヴァード・サイロシビン計画>が破綻したおよそ五〇年前に、ほぼ封印された」(19頁)
この本の前半部では、そのような欧米諸外国での幻覚剤研究の歴史がまとめられています。
ジャーナリストでもある著者マイケル・ポーランは、まとめるだけでなく、
持ち前の好奇心を発揮して、関係者を徹底的に取材し、数多くの文献に目を通し、
「みずからさまざまな幻覚剤を体当たりで試し、実体験をありのままに記録している」のです。
恐いくらいリアルな言葉とメタファーで書かれた「ありのまま」の体験記。
「たとえ、言葉にすることで、経験を多少変形させてしまうとしても」(531頁)、
書くという行為をあきらめずに、著者マイケル・ポーランは「旅行記」として記録しています。
「幻覚体験(アシッド・トリップ)」は、本書では「トリップ(旅行)」として書かれています。
幻覚剤体験(第四章)は「旅行記」となり、
幻覚剤を使ったセラピー(第六章)は「トリップ治療」と表現されています。
我々人間のマインドには、
「普段の意識状態以外にも意識の広がりがあること、普通の知覚ではわからないものを感じる隠れた能力を誰もが持っているかもしれないこと――これらについて心に留めておきたい。すぐれた宗教家や瞑想の達人でなくても、まったく別の内的世界を見られる日がいつか来るのかもしれない」(525頁、「訳者あとがき」)
と未来の夢を訳者は書いています。
<未知の>意識領域の存在の有無、<未知の>知覚能力の存在の有無。
未知のものへの人間の冒険心は、まだ復活したばかり。
脳研究のルネッサンスは、これからも続きそうです。
《備考》
<幻覚剤による「旅(ジャーニー)」について>
2010年、米国の三つの大学で同時に試行された幻覚剤の臨床試験は、
「旅(ジャーニー)」(17頁)と表記されています。
幻覚剤のマジックマッシュルームの有効成分であるサイロシビンを
ガンの末期患者に高用量与える措置としての臨床試験。
すぐに病院の緊急救命室に駆け込める場所で行われ、
経験豊富なプロがガイド役として付き添う「サイケデリック・ジャーニー」(273頁)
2010年、ジェイムズ・ファディマンは、
「幻覚剤(エンセオジェン)ジャーニーの有効性について講演した」(282頁)
本書の著者が「地下ガイドたち」(278頁)と共に個人的に幻覚剤を体験してみた
「トリップ(旅行)」とは異なる英単語(ジャーニー)が用いられていて、興味深い。
地下ガイドたちと合法的ガイドとの境界は、なかなか理解しにくい不思議な存在らしい。
奇妙な画です。
裸婦の下半身はごく普通の肉体の色彩で描かれていますが、
上半身は、青と白のみで、まるで色あせた「神の肉体」(10頁)のよう。
15世紀前後のルネッサンス期を境にした絵画の変化のように思えました。
本書の原題は、『HOW TO CHANGE YOUR MIND』
直訳ならば、<あなたのマインドをいかにして変えるか、その方法>
典型的な「ハウ・ツー」本のタイトルになっています。
本書の訳者宮﨑真紀さんは『幻覚剤は役に立つのか』と意味ありげに意訳しています。
幻覚剤は役に立つのか、役に立たないのか、未だよくわかっていない、と言いたげな訳です。
今日の日本社会では「幻覚剤」は法律で規制されており、
「幻覚剤」について話すことさえ「タブー視」(525頁、訳者あとがき)されています。
「幻覚剤」という単語を、あえて書名のトップに出し、「役に立つのか」と疑問形にしています。
この意訳タイトルは、「タブー視」する現状に疑問を持ち、
新しい見方で科学的に幻覚剤の有用性の有無を研究する必要がある、
と訳者は示唆しているように感じます。
原著者でさえ「幻覚剤」という単語は、主タイトルには出さなかったのに。
なお、原書<副題>には、「幻覚剤(Psychedelics)」という単語が小さい活字で出てきます。
「What the New Science of Psychedelics Teaches Us About Consciousness, Dying, Addiction, Depression, and Transcendence (私訳: 幻覚剤についての新しい科学が我々人間に教示すること: 意識、死への過程、薬物乱用、うつ、そして自己超越)」
原書の<副題>は、なんと冗長で、説明的な副題なのでしょう。
「幻覚剤をむやみにタブー視するのではなく、少なくとも治療研究の俎上には上げてみてもよいのではないだろうか」(525頁、訳者あとがき)
幻覚剤は役に立つのか、役に立たないのか、をせめて治療研究ぐらいしてみてもよいのでは、
という宮﨑さんのお気持ちが現れている意訳だと思います。
役に立つかどうかの治療研究の例の一つに挙げられたのは、うつ病治療薬。
うつ病患者は「日本国内だけで五○○万人以上」おり、
その治療薬として現在使われている薬の「効果が疑問視されはじめている」というのです。
幻覚剤が「麻薬および向精神薬取締法」で規制されている日本でも、
幻覚剤の治療薬としての活用研究が、一部の大学で現在もおこなわれているそうです。
米国における幻覚剤研究は、
「1963年、ティモシー・リアリーによる<ハーヴァード・サイロシビン計画>が破綻したおよそ五〇年前に、ほぼ封印された」(19頁)
この本の前半部では、そのような欧米諸外国での幻覚剤研究の歴史がまとめられています。
ジャーナリストでもある著者マイケル・ポーランは、まとめるだけでなく、
持ち前の好奇心を発揮して、関係者を徹底的に取材し、数多くの文献に目を通し、
「みずからさまざまな幻覚剤を体当たりで試し、実体験をありのままに記録している」のです。
恐いくらいリアルな言葉とメタファーで書かれた「ありのまま」の体験記。
「たとえ、言葉にすることで、経験を多少変形させてしまうとしても」(531頁)、
書くという行為をあきらめずに、著者マイケル・ポーランは「旅行記」として記録しています。
「幻覚体験(アシッド・トリップ)」は、本書では「トリップ(旅行)」として書かれています。
幻覚剤体験(第四章)は「旅行記」となり、
幻覚剤を使ったセラピー(第六章)は「トリップ治療」と表現されています。
我々人間のマインドには、
「普段の意識状態以外にも意識の広がりがあること、普通の知覚ではわからないものを感じる隠れた能力を誰もが持っているかもしれないこと――これらについて心に留めておきたい。すぐれた宗教家や瞑想の達人でなくても、まったく別の内的世界を見られる日がいつか来るのかもしれない」(525頁、「訳者あとがき」)
と未来の夢を訳者は書いています。
<未知の>意識領域の存在の有無、<未知の>知覚能力の存在の有無。
未知のものへの人間の冒険心は、まだ復活したばかり。
脳研究のルネッサンスは、これからも続きそうです。
《備考》
<幻覚剤による「旅(ジャーニー)」について>
2010年、米国の三つの大学で同時に試行された幻覚剤の臨床試験は、
「旅(ジャーニー)」(17頁)と表記されています。
幻覚剤のマジックマッシュルームの有効成分であるサイロシビンを
ガンの末期患者に高用量与える措置としての臨床試験。
すぐに病院の緊急救命室に駆け込める場所で行われ、
経験豊富なプロがガイド役として付き添う「サイケデリック・ジャーニー」(273頁)
2010年、ジェイムズ・ファディマンは、
「幻覚剤(エンセオジェン)ジャーニーの有効性について講演した」(282頁)
本書の著者が「地下ガイドたち」(278頁)と共に個人的に幻覚剤を体験してみた
「トリップ(旅行)」とは異なる英単語(ジャーニー)が用いられていて、興味深い。
地下ガイドたちと合法的ガイドとの境界は、なかなか理解しにくい不思議な存在らしい。
2022年6月10日に日本でレビュー済み
“ある経験”をしないまま読んでも充分示唆に富み、今後の世界の展開に期待が膨らむが、”ある経験”をした後に読むことで首肯の止まぬ大事な一冊へと進化する。
日本には本書に出てくるような然るべき資質、知見を持った学者や研究機関がないため、アテンションエコノミーに毒された輩が軽い気持ちで伝道師を気取って幻覚剤の議論をリードしてしまうとかなり遠回りになってしまうことが予想される。現実的に、それはmarijuana界隈、スピリチュアル界隈から出てきてしまうでしょう。この話題は表に出てきた時、科学によるバランス感覚がかなり大事です。
日本には本書に出てくるような然るべき資質、知見を持った学者や研究機関がないため、アテンションエコノミーに毒された輩が軽い気持ちで伝道師を気取って幻覚剤の議論をリードしてしまうとかなり遠回りになってしまうことが予想される。現実的に、それはmarijuana界隈、スピリチュアル界隈から出てきてしまうでしょう。この話題は表に出てきた時、科学によるバランス感覚がかなり大事です。
2021年5月31日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
一度は読んで欲しい本。
幻覚剤の昔から今、可能性、作用、科学的な側面、そもそも幻覚剤って何?について興味を持たせる。
幻覚剤の昔から今、可能性、作用、科学的な側面、そもそも幻覚剤って何?について興味を持たせる。
2021年10月24日に日本でレビュー済み
科学を中心に据えて便利にはなったが、神様を排除し実存的苦痛が深まった現代。精神医学もほぼ無力。lsdがブレークスルーになり得る…という刺激的な内容。ブ厚いけど著者の文才と博識で飽きずに読めました。
普段使わない脳のネットワークを活性化するならアスペルガー系にも効果ありそうだけど、どうなんやろ。
ま、前例踏襲主義の日本では、サイケデリック療法実現は遠そう。
普段使わない脳のネットワークを活性化するならアスペルガー系にも効果ありそうだけど、どうなんやろ。
ま、前例踏襲主義の日本では、サイケデリック療法実現は遠そう。
2021年5月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
とても興味深い内容でした。
日本で普通に生活していたら知り得ない内容で楽しかったです。
日本で普通に生活していたら知り得ない内容で楽しかったです。