記憶喪失の白巫女と、肉体を失い魂のみの存在となった謎の黒騎士が、「穢れ」と呼ばれる災いにより人々が異形と化す滅びの世界を救うために、浄化の旅を繰り広げるアクションRPG。
昨今流行りのメトロイドヴァニアと呼ばれるジャンルの中では、とても高名なタイトル。
強敵を倒すことで身に付けられる様々なスキルや能力を駆使して、先に進んでいく。
耽美的かつ悲劇的で突き放したダークな世界観や、ソウルライクと評される高難易の口コミから、洋ゲーのような見た目をしているが、実は国内スタッフの手で手堅く作成された、全き日本製である。
よって遊んでいくうちに気づくが、全体的なクオリティにそこまで癖は無く、よく言えば安定で安心、悪く言えば新鮮味や攻めた刺激にはやや欠ける。
また、BGM とビジュアルの雰囲気作りがとても秀逸なため、フィーリングにツボったユーザーを中心に評価が高騰しているきらいがあるが、あくまで小規模開発のタイトルなので、ゲーム性の奥深さやボリューム面での歯応えまでは完全に提供しきれていない。
神ゲー、絶対にやるべき等の世間的な評価はあくまで「インディーズとしては」のものと見るべきで、取り分けコスパとしては、現時点(2024/3)でこのパッケ版の中古購入価格に見合う内容は流石に伴わない。
DL版で2000円程度がやはり妥当な価格である。
以上を前提に、良い点・悪い点を述べる。
[良い点]
先ずは既に述べたが、やはり熱心な固定ファンを多数産むほどの、演出面の圧倒的な完成度の高さ。
絶望と救い、光と闇の対比。
狂気に堕ち、ただ荒ぶれ、剥き出しの本能をぶつける事でしか己を示せない呪いの日々の先に、安らぎを得る異形の魂たち。彼らの哀しみを繊細な指先で黄泉に導く主人公リリィのためらい勝ちなその仕草は、とても優しく愛らしく、また切ない。
独り痛みを背負う過酷な運命にときに膝つきながらも、懸命に立ち上がり再び前を向くその姿に、ただ心を打たれる。そんな少女の背中を静かに見護る、運命に縛られた黒騎士の姿。
テキストのみで淡々と語られる悲劇の記憶と、イベントビジュアルでの透明感ある美しい光源処理、暗く辛い旅の合間に訪れるレストポイントでの、幻想的で癒される優しい明かり演出の数々。
冷たい夜雨を凌ぐための寂寥の東屋、城壁の残骸に生活の息吹を残す錆びた木のベッド、空に水が落ちて行く神秘的な湖畔のアンティークチェア、赤茶けたカタコンベで静かに追悼の灯火を湛える古代の祭壇、暗闇の地下洞に不意に現れる群生植物のオアシスetc。
もの悲しいピアノの旋律が非常に印象的なメインテーマや、環境音と心情表現の程よいバランスが絶妙のエリア曲 。敵の形態変化に合わせてアレンジを大きく変え、感情を激しく昂らせてくるボス戦BGMの数々たちは、何度も聴き返したくなる珠玉の名盤。
そのどれもが、リリィの苦しみだけでなく、闘いに挑むプレイヤーの心さえをも、ときに揺さぶり、ときに洗い流してくれた。
バトル面では、従来作品のような後ろステップではなく、敢えて強力な前ステ回避をシステムの軸に据えたことで、3Dソウルライクの空間的な見切りバトルが持つ戦術性、緊張感、爽快感、駆け引きなどを、2Dゲームに上手く落とし込んでいる点が上げられる。
強力なボス敵とのバトルでは、初見殺しの高難度ながら、タイミングの慣れと戦法の工夫などで何とか乗り切れる絶妙の塩梅に仕上がっており、高い満足度と達成感が得られる。
強敵を倒して入手するスキルの数々も、状況やプレイヤーのバトルスタイル次第でどれも活躍の機会があり、空気と化しているものが無いのが良かった。
探索では、実績未達成の部屋の情報がマップ上で常にオープンにされている(やり残しのある部屋がどこかが分かる)ので、的外れな場所をコンプ目指して延々と徘徊させられる事が無いのが非常に助かる。
死んでも経験値や獲得アイテム、ギミック解除状況は失われず、セーブポイントも頻繁に設けられているのが有難く、レベルアップによる恩恵も最小限に留められているので、人柱攻略でヌルゲー化してしまうということも無い。
特に、ローディングがとにかく早く快適で、トライ&エラーを前提としたプレイングに一切ストレスを感じさせないのは、取り分け高評価に値する。
[悪い点]
世界観に寄せた結果ではあるが、全体的な画作りがやはり地味で見ずらい。
モノクロ調がメインの暗く淡い色彩で、小型の敵キャラが保護色により背景に溶け込んでしまう事も多く、階段や足場と影との区別も付きにくい。
特に困るのがギミック解除や隠し部屋探しで、壁や足元に埋め込まれたレバーや通過可能&壊せる床などは、普通にプレイしていて全く分からず、随分あとになってから気付いて取り直したモノも多い。
また、ひらけた空間でのボス敵とのタイマンバトルは難しくも楽しいのだが、狭い道中での雑魚敵とのバトルはストレスも大きい。
一番イライラさせられたのは遠隔(誘導弾)の被ダメのデカさで、何気ないモーションで撃たれるただの光弾で一気に削られるため、ステップ移動アクションの快適さを阻害している。
ジャンプ先の足場での待ち伏せ、回避スペースの無い場所での集団ハメも多く見られ、強力な範囲攻撃手段が少ない仕様と相まって、陰湿にさえ感じられた場面もあった。
他に探索面では、大部屋の一部屋あたりの情報量が多すぎて、ギミック解法やアイテムの位置が分かりにく過ぎる点がある。
せっかく新能力を得ても、適用できそうな場所がどこにあったのか思い出せない事が多く、ファストトラベルでウロウロ探し回らねばならなかったのは、とてもしんどかった。
[総評など]
インディーズなりに、やれる範囲でしっかり間違いの無い仕事をしてくれている、確かな良作である。
雑魚敵の難度やマップ構成の調整不足に加え、最近の大作では当たり前の豊富な収集&合成要素や、クリア後からが本番のような追加のやりこみも期待出来ず、本編も必要最低限の仕様とリソースでしか進行しないため、夢中で探索と死闘を繰り広げる中盤あたりでは一切意識されないが、ゴールが見えてくると途端に現実に引き戻される感覚もそれなりに味わうだろう。
しかし、一周しっかり遊んでトロコンするぶんには、バトル、シナリオ、音楽全てキッチリと満腹感を与えてくれる。
二週目以降は難易度調整も可能なので、ひたすら求道の道に邁進するのもまたよい。
真エンド&ED曲も感動的でとても素晴らしいので、アクションが苦手という人も、諦めずに最後まで闘い抜いて欲しい。
下手な感動の押し付けは一切なく、ただプレイヤー自身が救いを求めて奔走したその記憶と共に、傍らの白巫女の微笑みがそっと心の片隅に残り続ける、そんな印象的な作品であった。