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イドコロをつくる: 乱世で正気を失わないための暮らし方 単行本(ソフトカバー) – 2021/3/10

4.2 5つ星のうち4.2 51個の評価

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出版社より

「序」 イドコロの必要性

広場のない都市化がどんなものであるか、日本人はこれから、いやというほど思い知るだろう。

(『ひろばの創造――移動大学の実験』川喜田二郎・中央公論社)

この本は、一見するとコミュニティづくりの本に見えるかもしれないが、違う。ゆるいつながりが大事だという本でもない。なんやかんや忙しい現代社会の中でも、くつろげる時間をつくり、元気に正気を保てる環境づくりについての実践と考察をまとめたものである。

本書では、威圧的な圧力がなく、思考が開放され、ときには鼓舞されるような場、「イドコロ」について考える。『イドコロをつくる』という題名なので、場所づくりの要素もあるが、すでにある場所、空間を見つけて使い方を身につけるというパターンもある。

厳しい競争社会に対抗するにはコミュニティづくりが大事だということがよく言われる。しかし、助け合わなければならないという暗黙の掟には、助けてもらったらお返しをしないといけないというプレッシャーが生まれ逆にしんどくなるリスクがある。 もちろん、人は他人の協力なしに暮らしていくことはなかなか大変で、自助100%で乗り切れる人はいない。

私自身は、価値観を共有できる人たちに向けた個人サイズの仕事、「ナリワイ」を複数持つことで心身ともに健康をつくりながら生計も立てるという作戦で自営業を12年程度営んでいる。いつもご愛顧してくれる人や、何かのついでに作業を手伝ってくれる人に支えられて、広告や大きいシステムなどに依存せずに仕事をつづけられている。しかし、「いいコミュニティをお持ちですね」と言われると、なんか違うなと思う。自分とお客さんの間にはたいした義務はない。気が向いたらナリワイを使ってくれ、ついでの範囲で手助けをする程度だ。この違和感について長年考えてみて分かったのは、コミュニティのようにメンバーリストがあるのではく、人が一緒にいられる「淀み」が身の回りに多種多様にあって、たまたまその淀みに居合わせた人々が何かのついでに助け合う状況が生まれているということである。人が居合わせる「淀み」は遊びなど様々なところに発生している。この淀みがすなわち本書での「イドコロ」である。

イドコロでは、人はたまたま居合わせただけなので、それぞれの人たちの立場も対等だ。コミュニティをつくると序列が生じやすい。一部の組織運営では序列が必要かもしれないが、社会的立場を超えて人が居合わせられて、対等に存在できる場は心身の健康に必須だ。人や地域、国は、イドコロが不足すると元気を失いやすいのではないか? これが本書の問題意識である。

ちょっと前まで、SNSは地理的なハードルを超えて価値観が合う人が集まれる場だと期待されていた。しかし、運営上やむなしと広告が入ってきたり、拡大志向になってしまった。イドコロとして機能するのは今は難しい。居心地の良さが求められるイドコロと、広告や拡大志向は相容れない。

拡大志向で設計されているSNSでは、炎上でも捏造でも注目が集まれば影響力が増す。バトルタイプであれば少々の攻撃にも耐久力があるので、どんどん燃やして求心力をつけてしまう。しかも、それが収入にもなる。一方、地味な人は、注意していてもそういうバトルタイプにエネルギーを吸い取られてしまうため不利だ。SNSは会員制投稿サイトと訳されるが、もはや会員制の良さの大部分が失われてしまっている。

現代の広告的なものに主導された資本主義では、「お金がないとこんなに困ることが起きるぞ」、「乗り遅れるな!」といったプレッシャーが日々、矢のように降ってくる。これに対抗する方法は、一つは「小さくても自立した経済をつくること」、もう一つは「過剰なプレッシャーを無効化できる時間や場を持つこと」だ。これは両輪である。前者について考えたのが私の前著『ナリワイをつくる』だ。そして本書では、その両輪のもう片方にあたる後者について考える。

いくつかのイドコロで日常的に精神を回復させることができる環境は仕事にも機嫌よく取り組む基礎になる。

ところで、ノーベル経済学賞を受賞したAngus DeatonとDaniel Kahnemanの研究によれば、年間収入が7万5千ドルまでは幸福度が年収に比例して高まるものの、年収がそれ以上になっても幸福度は変わらないそうで、日本の場合は、世帯年収が2千〜3千万円を超えるとむしろ幸福度は減少するという結果が得られている(「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書 2019年 内閣府)。

興味深いことに、この日本での報告書によれば、頼りになる人が多数(5人以上)いる場合は、「世帯年収百万円未満」「不健康」のような幸福度を大きく引き下げる要因があったとしても、幸福度は大きく引き下がっていない。さらにボランティアをしている人は、「頼りになる人が少ない」人でも幸福度が低くない(著しく不幸だと感じない)という。ボランティアは、それ自体が金銭による損得を超えた時間を一時的に生み出す。その時間が、精神の回復に効いているように思われる。

金銭プレッシャーから解放された空間を持つことができれば、不安も制御しやすいし、マルチ商売などの道に外れたことに引き寄せられない。「頼りになる人」も「ボランティア活動」も、共通して「困ったことがあれば、誰かが見返りを求めずに助けてくれたり話を聞いてくれる」という世界観が前提にある。「メリット・デメリット」、「ギブ・アンド・テイク」が過剰な世界観に生きすぎると、他人が親切にしてくれても、「何か思惑があるのでは?」と疑心暗鬼になってしまう。ボランティアの効能がもしあるなら、無私で他人や自然環境のために役立つことをする行為を通して、競争過剰の資本主義における殺伐とした世界観を修正できることだ。ついでのことで人を助けるのに大した理由はいらない。

ただ、そのような居心地のよい空間は見たところ現代の日本社会ではとても少ない。ボランティア団体を偽装して勧誘してくるカルト集団もいて、油断がならない状況である。

イドコロ不足は何かと不調を起こしている。例えば、陰謀論や噂をもとにしたバッシングに便乗する行為も、イドコロ不足による孤独感が原因の一つと思われる。他にも、現実逃避的なふわっとした幻想に絡め取られてミニカリスマの信者にされてしまう罠。これは、サロン的囲い込み商売やスピリチュアル商売に代表される。特にインターネットサービスで自動表示される広告は、日常的に刺激を送り続けてくるので弱ったときに危ない。「寝てるだけで毎月○○万円稼げます」、という広告を毎日見せられたら、もしかしたら本当かもと思ってしまい、無料メルマガぐらい登録してみようかとなってしまうものだ。だが、どこかで雑談でもできれば誰かが「お前、そんなうまい話はねえぞ」とたしなめてくれるだろう。

これ以外にも正気を失わせるような罠が現代社会にはたくさんある。さながら新興感染症のように次々と出てくる。これを完璧に防ぐ方法は、無菌室のように外部との接触を断つことだが、それをやると暮らしていけない。困ったときは、自然に倣(なら)おう。 身体の免疫の仕組みは参考になる。身体の免疫系は複数の防御策を持つことで無数の外敵に対処している。これと同じように、精神の健康も、家族が助けになる時もあるし、もう少し距離のある友人の一言が助けになることもあれば、専門家の助けで正気を失わせる罠を回避できることもある。あれが効く、これが効くという考え方ではなく、複数の防御機能が連携して、病原体へ防御力を保つという考え方を思考にも適応したい。ピンポイントで「〇〇をやればうまくいく!」という話ではない。

振り返っていると、私の「新社会人」時代もイドコロ不足で社会の病原体にかなりやられていた。まず過労で身体が参ってしまい、食生活は荒れるわ、肌は荒れるわ、ハーゲンダッツを食べないと眠れなくなるわ、うっかり会食した相手からマルチビジネスの勧誘電話を受けるわ、なかなか不調をきたしていた。これは新入社員の薄給と、小さい企業特有の人間関係のプレッシャー、過労による寝不足、などが重なってのことだが、本来はこういう事態になったら自力でなんとかするのは簡単ではない。他人の助けが必要な局面である。新入社員は移住したてで助っ人になる人が乏しい。「広場のない都市化がどんなものであるか」を就職上京組の私もいやというほど思い知ることになったのである。

広場とまではいかなくても、ふらっと行って現状を話せる場所があれば自分の頭も冷静になるのに役立つ。まず、困難なときに現状を把握するには自問自答では難しい。誰かに話して現状を把握したりすると気持ちの余裕ができ、怪しいものの正誤を判定しやすい。目下このような空間はひたすら潰されつつある。大学関連で言えば学生寮、イベントスペース、サークル部室。神社も維持費が足りずに境内を売り払うところも出てきて、公園も禁止事項が増え、一部は商業施設化している。それはなぜかというと、一見無駄に見えるからだ。無駄を省くというのは大義名分として普及したが、何が無駄で何が無駄でないかというのの判定はかなり先見性が問われる。雑にやると社会環境は悪くなる。

一見無駄に見える各種のイドコロが減り、個人が孤立すると、他者の助けが得られれば難なくクリアできることが、とてつもなく困難になってしまう。子育てなどはその典型だろう。30分だけでも子供を誰かに見てもらえたら、とかそういうことが簡単にできない。良い例で言えば、外国から移民した方がやっているお店に子供連れでいくと、かなりの割合で子供をあやしてくれる。子供を10分程度見てくれているだけで自分の食事に集中でき、何より精神的負荷が軽くなる。こういうものもイドコロの一つだ。とにかく、常にのしかかる精神負荷を一瞬でも軽くするような場所が少ない。これが問題と言える。

しかし、この問題はもう70年ぐらい前に、一気に都市化が進んだ時に予想されたことでもある。いわゆる終身雇用前提の会社組織を擬似的な共同体として代替していたので問題を先送りにしてきただけである。企業は本来は、個人の能力を営利活動に提供して報酬をもらうというシンプルな交換関係で成り立つ営利組織だ。ところが、新年会、忘年会、運動会などまでをやっていた。一見不要だが、会社組織が擬似的な共同体であるためには必要だったのだと思われる。ただ、これも会社に所属できた人には居心地がよかったのだろうが、運悪く入れなかった人には厳しい環境だし、会社外のイドコロをつくる機会を奪ってもいた。

ちなみに、今でも「なぜ日本の組織の会議が長いのか?」「どうして夜になってまでも開かれるのか?」という疑問の一つの答えは、いく人かにとって会社が居心地がいいので家に帰りたくないからだ。日本の男性の育児参加率が異常に低いことから推測されるように、男性の中には家庭に居場所がないことも少なくない。せっかくノー残業日が設定されても、自宅近所のマクドナルドで残業してから帰宅しているという話もあるくらいだ。

もちろんこんなものが続いたのは、リストラもない牧歌的な時代だけであって、1995年に経団連が日本型経営の終了宣言を出したと言われる『新時代の「日本的経営」』が発表されて以降に、徐々に崩壊している。いよいよ、猶予期間が切れつつあるのである。雇用の不安定化は大いに問題だが、人を異常に囲い込んでいたのもまた問題だった。社員をやめさせないために居場所も会社に囲い込んでいたわけだが、かなり異常な状況だったと言える。

今は少しずつでも「広場のない都市化」について手を打つ時期に入っている。都市化に年季が入っている古代からの都市には大小さまざまな種類の広場が存在していた。イスラム圏のモスクなんて昼寝には格好の場所だし、インドの街中には人が出会って井戸端会議をしたくなる三叉路などが多いという。フラッと行って人と話せる場所や、自己の精神を回復させられる場所が現代の日本にどれだけあるのか。これを考えなければいけない。

今は、急を要する問題として、地味でもいいので力を貯めるためのイドコロが必要だ。ただ、古来からの都市のような物理的な広場を日本ですぐにつくることは難しい。そこで、本書で考える作戦の基本方針は、小さな広場たる「イドコロ」をつくることにしたい。正気を失わない心構えを身につけるという「自己啓発的発想」ではなく、自分の意識だけに頼らず正気を失いにくい環境について考え、整備していこうという発想である。いろんな種類のイドコロを考え、それぞれを身の回りに整備することで全体として心身の健康を保ちやすい条件を整えていく作戦だ。

イドコロのつくり方としては、文字通り新たに場所をつくることもできるし、すでにある場所に広場性を見出していくなどの方法を考えている。昔風に言えば、村で伊勢参りをするための集まりである伊勢講のような「講」や、句会を行うための俳句の「座」も近いものかもしれない。句会はただの趣味の集まりだが、そこで仕事を紹介し合ったりもしていたらしく、経済的なセーフティネットの一つにもなっていた。こういう文化風習は、ハード面のコストが小さいし、真似しやすい。現代的なイドコロをつくるための文化風習の考案と実践を本書では目指す。

これはいわば、身の丈の公園(小さな公共空間)整備だ。地道な作業になるが、各自が5〜10年ぐらい取り組んでいければもう少し世の中も住みやすくなる。それまで、私たちは個々人としても正気を保っていきたい。それは民主主義を実践する土台にもなるし、個人としても元気に過ごすための基盤にもなる。

これからそのイドコロのつくり方について考えていく。ご興味をお持ちになられた方は、つづきを読んでいただきたい。本書もまた一つのイドコロになることを願っている。

目次

序|「イドコロ」の必要性

練習問題その1

第1章|「イドコロ」とは何か

「イドコロ」は思考の免疫系の構成要素/正気を失わせる圧力を認識しよう/昔からあるイドコロの再発見とmixiの再評価/イドコロとしての伊勢講/かつてのイドコロの例/イドコロの型/生活を共同する集まり/強い趣味の集まり/公共空間に気に入った場所をみつける/日頃通える小さいお店/有志でつくるオープンな空間/倫理観を共有できる空間は居心地がいい/文明から離れて一人になれる空間

練習問題その2

第2章|「イドコロ」をどのようにつくったらよいか

思考の免疫系としての「イドコロ」を育てる/趣味の見つけ方は仕事よりも簡単ではない/気に入った公園を探そう/日頃通えるお店を持つこと/少しの篤志でオープンな空間をつくる/文明から離れて一人になれる空間/現代における生活を共同する集まりはイコール家族ではない/友人の数は多ければ多いほどいいのか? 親しい友人とは/仕事仲間が正気を保つのに有用なケースは減っている

練習問題その3

第3章|「イドコロ」の息吹(実践例)

生活共同体を兼ねたイベントスペース「下馬土間の家」――都心でできるだけボロい家を直して使い倒す/自主運営の仕事場「スタジオ4」――仕事場は自分でつくる/イドコロの歴史から若衆宿と「下馬土間の家」を考える/「有志でつくるオープンな空間」のための覚書/自然系のイドコロ「生活共同体≒家族」だけで乗り切ろうとしない/自然系イドコロとしての友人と獲得系イドコロで生じる友人/趣味のイドコロ――「竹で家をつくる会」を例に/公共空間の気に入った場所は地味だが大事/イドコロになるような日頃通えるお店を発掘する/文明から離れて一人になれる空間も重要なイドコロである

練習問題その4

第4章|「イドコロ」は思考の免疫系を構成する

人はなぜイドコロを必要とするのか/イドコロ不足で生まれるストレスは世の中に放出される/思考の免疫系を手入れする/「生活を共同する集まり」を考える/イドコロとしての「親しい友人」を考える/イドコロとしての「仕事仲間」を考える/獲得系イドコロは消えやすいがつくりやすい/意外性の「強い趣味の集まり」/「有志でつくるオープンな空間」は遍在する/日常のイドコロは素早い/人間は正気を失うものであり、そこが可能性でもある。だからこそ思考の免疫系を手入れしよう

あとがき

商品の説明

著者について

1979年生まれ。香川県丸亀市出身。京都大学にて農学・環境科学を専攻し修士号(農学)取得後、零細企業の創業に従事し肌荒れで退職。以後、養生期間を経て自営業。頭と体が丈夫になってついでに公正な社会環境づくりにつながる、大資本を必要としない仕事と活動をナリワイ(生業)と定義し研究と実践に取り組む。実践したナリワイは衣食住・教育・娯楽と分野を超えて10個超。半農家を増やす「遊撃農家」、床を通じて住の自給力を高める「全国床張り協会」、エネルギー自給が基本の環境調和生活を遊牧民に見習う「モンゴル武者修行」、ユーザーとつくる野良着メーカー「SAGYO」などが代表的なナリワイ。本書は、活動の土台となる思考の健康さを保つ様々な場とその働きを「思考の免疫系」として構想したものである。
教育活動として静岡県立大学「キャリア形成概論」講師、丸亀市リノベーションまちづくり構想検討会議副委員長など大学のキャリア教育や各地の起業プログラム講師を務める。著書に『ナリワイをつくる』、共著に『フルサトをつくる』(ともに東京書籍、後にちくま文庫)がある。

登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 東京書籍 (2021/3/10)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2021/3/10
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 225ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4487811155
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4487811151
  • 寸法 ‏ : ‎ 18.8 x 12.8 x 2.5 cm
  • カスタマーレビュー:
    4.2 5つ星のうち4.2 51個の評価

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伊藤洋志
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