本屋で背表紙に目が留まり買ってしまいました。うまいタイトルです。原題は『Take Up Thy Bd and Walk』(聖書からの引用)なので、翻訳者が、日本人読者に本書の主題を的確に伝えるために、あえて全く違ったタイトルにしたわけですが、見事です。それにしても、はっとする問題提起です。
19〜20世紀前半に書かれた少女小説の名作には、多くの障害者が登場します(その代表が『アルプスの少女ハイジ』のクララです)。
その障害は、その人物の歪みや弱さなどの精神面と結びつけられ、その精神が是正されると障害も治癒する、といった話になる傾向があります。つまり、障害はそのままでいるのが好ましくなく、共存すべきではないものとして捉えられるわけです。そして、障害者は治癒の可能性を信じ、努力しなければならず、治癒をあきらめることはその障害者の「精神的な弱さ」とみなされてしまいます(現実には、治癒の見込みのない者もあるはずなのに)。それは、作品全体の価値とは裏腹に、読者に偏った障害観をもたらしてきたし、もたらしつづけているのです。
ただ、残念なのは、聖書学者荒井英子さんの解説で、著者の聖書理解の不十分さを指摘し、ながながと聖書の治癒問題だけを書いていて、肝心の少女小説にはまったく言及がありません。偏った解説というべきでしょう。
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クララは歩かなくてはいけないの? 単行本 – 2003/4/17
ロイス キース
(著)
- 本の長さ325ページ
- 言語日本語
- 出版社明石書店
- 発売日2003/4/17
- ISBN-104750317160
- ISBN-13978-4750317168
商品の説明
出版社からのコメント
今も読み継がれる名作に潜む障害観、死生観とは?
表題で取り上げた『ハイジ』のほか、『若草物語』『秘密の花園』などの古典的作品を「女性」「障害」という観点から読み直す。「天使のような登場人物の死後、ヒロインの性格が変わるのはなぜか」、「歩けなかった登場人物が突然歩けるようになるのはなぜか」。この問いに答える過程で、理想とされた女性像が浮かび上がる。最終章では『大草原の小さな家』シリーズなど20世紀後半の作品を取り上げ、これからを展望する。
表題で取り上げた『ハイジ』のほか、『若草物語』『秘密の花園』などの古典的作品を「女性」「障害」という観点から読み直す。「天使のような登場人物の死後、ヒロインの性格が変わるのはなぜか」、「歩けなかった登場人物が突然歩けるようになるのはなぜか」。この問いに答える過程で、理想とされた女性像が浮かび上がる。最終章では『大草原の小さな家』シリーズなど20世紀後半の作品を取り上げ、これからを展望する。
内容(「MARC」データベースより)
「ハイジ」「若草物語」…。今も読み継がれる名作に潜む、障害観、死生観とは? 「克服する」ものとしての障害と、ある日おとずれる奇跡的な治癒。ヒロインたちの試練の下に隠された「理想の女性像」に迫る。
登録情報
- 出版社 : 明石書店 (2003/4/17)
- 発売日 : 2003/4/17
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 325ページ
- ISBN-10 : 4750317160
- ISBN-13 : 978-4750317168
- Amazon 売れ筋ランキング: - 914,435位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2003年5月28日に日本でレビュー済み
「ハイジ」でクララが歩けるようになった瞬間に感動した人は多いと思う。僕もそのひとりではあった。このような「障害」とその克服、あるいは、奇跡の回復というモチーフは、比較的使い古されたものであり、なんの疑問を持たないことも多い。しかし、考えてみれば、このようなモチーフは、その背景に、何らかの「原罪」があるから「障害」を持っているということや、また、罪を償ったことにより「奇跡の回復」をするという価値観を含んでいるのである。このような、モチーフを用いること自体が、障害に対するある特定の見方や思想を反映していることになってしまっているのである。この点をするどく、かつ多数の例をあげながら論証してみせるのがこの本である。原題は、Take Up Thy Bed and Walk だが、クララは歩かなければいけないの、にしたのは正解である。こちらの題のほうが、著者の思想をダイレクトに読者に伝えられると思う。