カスタマーレビュー

2021年12月2日に日本でレビュー済み
プライム会員特典の期限が近かったのと、約90分と短い映画だったため、事前情報なしで何気なく視聴しました。
見終えたあとには、よくわからないもの、そしてなおかついいものを見た、と思った映画でした。

以下の感想は結末までの内容に触れていますのでご注意ください。

子どもの頃の時間の流れ方を思い出すような、長回しで動きの少ないシーンが多く、とくに一人になった妻が台所の床に座ってパイを食べるシーンなどとても印象的です。
これも見終えたあとで考えると、そうすることではじめて、この映画に必要な時間の概念を観客に意識させることができると監督は考えたのかもしれないと思いました。

最初は、画面の四隅のフレームのようなケラレは何だろう、タイトルのつけ方も含め「物語」または「映画撮影」に対してメタ視点を含む作品なのかなと思いながら見ていましたが、主人公が死んでゴーストになったあと、光り輝く不思議な出口(EXIT)の前で立ち止まり、家に戻って残された妻を見守り続け、彼女の去った家に芸術と宇宙と遠い未来について語る軽薄な男が現れ、隣家のゴーストがなにごとかを覚った瞬間に消え、主人公のゴーストも未来から過去へとさかのぼって、開拓時代の小さな女の子がノートに書いたメモを石の下に隠すのを見るあたりで、永遠と輪廻、そしてそこからの離脱というようなテーマがおぼろげに感じられてきました。

シーンが現代に戻ってきてからは、序盤の怪現象の種明かしで、なるほどあれはこういうことだったかとわかってきます。
主人公がミュージシャンであることも描かれ、中盤で軽薄なオーバーオール男が芸術と時間について饒舌に語ったことも響いてきます。

わたしは果たしていつ「見ているあなたも穴の開いたシーツを被ったゴーストなのですよ。画面の四隅を見ればそれがわかるでしょ」となるかと思いながらドキドキしていましたが、窓辺に立つゴーストを後方のピアノのほうから見るゴーストの、さらに後ろからのアングルがそれを強く示唆しているように感じたものの、それについては明確には言及なく終わりました。

最後まで見ても、妻(と、その前世と思しき過去の女の子)が隠した紙片に何が書いてあったのかはわかりません。でもそれを読んだ瞬間になにかが彼の頭の中でカチッとはまったのでしょう。永遠に生きるゴーストに対する時間の輪廻から、永遠の時間の中における人の輪廻へサイクルが切り替わったのかもしれないなどと考えました。

作品が終わった後にまた最初から見て、90分の映画に結局2時間半くらい見入ってしまいました。彩雲のような光が銀河にフェードしていくシーンや、記憶やドアや歴史についてのちょっとした言葉などが、イメージの枠組みを序盤からさりげなく示していたように思います。

よくわからない、でもいいものを見たと思った映画でしたが、そのよくわからないことは決してストレスではなくて、日常的に認識している世界の壁を一時的に外側に押し広げて、新たなスペースを発見させるような感慨をもたらすものでした。

病院を出て郊外の草原を歩くゴーストとか、美しいシーンもいくつかありましたし、管弦楽的な音楽も印象的な映画でした。
2人のお客様がこれが役に立ったと考えています
レポート 常設リンク