本書は、親視点でロジカルに考察されスッキリと整理されており、「日本の教育・受験体制の俯瞰」「中学受験or高校受験」「日本の教育・受験体制の補完、もしくは中高一貫校を出し抜く英語教育(それは留学)」の3つの内容で構成されている。
特に、類書には見られない卓見だと思ったのは、英語留学は早過ぎると、適応能力が高過ぎて日本に戻った時に逆に英語を忘れる(日本語で再度上書きされる)ので、脳神経系が完成するゴールデンエイジ終了間際を狙うのが良いという指摘である。
その他の全体的な内容については、他の方の評を参考にして欲しい。
さて、評者は体験者として、かつて受験した子供側の視点で、本書で一番重要な核心部分を指摘したい。それは、中学受験or高校受験の項で1ページでさらりと書いてあるが、「当事者である子供が受験勉強を楽しめるか」である。残りはそれ以降の技術論である。
その証拠というか典型的な失敗例として、著者に倣い、コスパの超悪い子供だった評者のバックグラウンドを述べておく。
評者は母方の縁で大学までエスカレータ式の私立小学校に通っていたが、高学年になると父親が子供と相談もせずに外に出すと勝手に決め、四谷大塚や日進に通わされ、ついでに家庭教師まで付けられた。当時、中学受験は少数派(せいぜい親が開業医の子供ぐらい)で周囲は暢気に遊んでいたため、勉強が嫌で嫌でたまらなく、四谷大塚や日進の講師のテスト解説も右の耳から左の耳に抜けるような状態だった。
当然、私立も国立(これはくじ引きで)も落ち、近所の区立中学へ通う事になる。しかし地獄はここで終わらず、今度は「高校浪人したらどうする」の一点張りで、放課後に週3回ぐらいの授業の他、夏休みには2週間ぐらいの勉強詰めの合宿がある、かなりスパルタンな進学塾に行く事になる。一緒に通っていた同級生も途中で辞めたが、評者も中3の2学期ぐらいで心が折れて、勉強を全て投げ出した。
これまた当然、高校受験で早慶に落ちた(その年、私立御三家や国立は高校での募集が無かった)。幸い内申は良かったので、群制度の都立校に進んだ(実は海城には受かっていたのだが、当時はまだ頭角を現しておらず、都立校の滑り止めだった)。
で、次は大学受験なのだが、志望大学を選ぶ段階で、「抽象度の高い国際関係論ではなく、作戦・戦術や兵器・銃器等の抽象度の低い軍事分野の研究(幹部自衛官に成りたい訳ではないの防衛大学校はNG)」、もしくは「プログラミングではなく、ビデオゲームのルールやシステムを学問的に研究」している所を探したのだが、そんな大学は一切無く、日本の大学に絶望した。大学は学びたい学問や教授の所に行くのが理想なのだろうが、無い物は無いので、曽祖父の代からの親類縁者の殆どが行った東大、それも進振りで勉強したくないので文二(経済学部)を志望する事にした。都立高の授業にギリギリついて行ける程度だったので、当然浪人したが、駿台の授業は「目から鱗が落ちる感覚」の楽しさがあったので、何とか合格した。
そんな訳で東大では教養課程はまぁまぁ面白かったが、専門課程ではまったく興味の湧かない経済学部にはあまり寄り付かず、ノンゼミで卒論無しの大教室授業のみで卒業した。しかし、就職は「東大からその業界に行ったのは評者が3人目」ぐらいの状況だったので、どの企業でも望めばフリーパスみたいな状態で極めて楽だった。この点は、本書の冒頭部分の主張に合致している。
長々と書いたが、巷間、よく言われる「学生の時、もっと勉強しておけば良かった。」というのは評者には全く無い。むしろ逆で、無駄な勉強に時間を費やした、特に高校受験に費やした時間とエネルギーとそのストレスと苦痛は人生最大の無駄だと思っていて、今でも親を恨んでいる。子供の中学受験を考えている親は、一生子供に恨まれるリスクがある事を覚悟しておくべきだろう。
ここまで評者の失敗例を述べたが、逆方向の例を挙げると、或る時、東大のサークルの後輩で、都立高から現役で入った二人が「大学受験はRPGゲームの攻略のようで楽しかった」と会話していたのを聞いて、「そんな感じ方もあるのか」と目から鱗というか蒙が啓かれた感覚を覚えた事がある。また更に、評者の大学受験時にはギリギリ家庭用ゲーム機はまだ無かったので、その感覚も時代的な物かと考えていたら、偶然見つけた東大教授(評者より数歳年上)のコラムに「日進・四谷大塚で満点やトップを友達間で争って遊んでいた」というハイスコア争い(神々の遊び)のような記述があり、「自分の各パラメータを上げて目標を攻略して遊ぶ」感覚は時代とは関係無いと知って愕然とした。
結局は子供の意欲であり、それも勉強が目的達成のための義務ではなく、勉強自体を自然に楽しめるかが最重要(次善として点数を稼ぐ事を面白がれるか)である。著者のような「楽しい勉強」は身に付く(長期記憶に浸透する)が、評者のように必要性や義務感で学んでも、反復利用しなければ、すぐに抜けて忘れる(好感情による記憶への裏付けが無い)。その分、反復が必要になり、その反復で勉強が更に嫌いになるという悪循環が始まる!
では、どうすれば子供が受験勉強を楽しいと感じるかは、子供の資質と回りの状況次第なので、何とも言えない。親はそこを手探りで探す必要がある。
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コスパで考える学歴攻略法(新潮新書) Kindle版
子供の教育には多大な費用と時間を割かねばならない。家庭の限られたリソースを使って、いかに効果的に果実を得るか。中学受験と高校受験ではどちらがコストパフォーマンスがいいのか。身も蓋もないが、子供にはできれば一流大学を卒業し、高い年収を得られるやりがいのある仕事に就いてほしい。そんな親心に応えるべく、膨大なリサーチと実体験をもとに、子供が現代の学歴獲得競争で勝ち抜くための戦略を論じる。
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2022/11/17
- ファイルサイズ13058 KB
この本はファイルサイズが大きいため、ダウンロードに時間がかかる場合があります。Kindle端末では、この本を3G接続でダウンロードすることができませんので、Wi-Fiネットワークをご利用ください。
- 販売: Amazon Services International LLC
- Kindle 電子書籍リーダーFire タブレットKindle 無料読書アプリ
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【新潮社】藤沢数希 作品 | 原発廃絶が「正義」の今、改めて全電力のリスクと将来性を比較すると、意外な結論に!日本の命運を左右するエネルギー問題について冷静に論じた一冊。 | 結婚相手選びは株式投資と同じ。夫婦はゼロサムゲーム=食うか食われるかの関係にある。そんな男女の「損得勘定」と、適切な結婚相手の選び方を解き明かす。 | 中学受験と高校受験ならどっちが受かりやすくお得か?など、子供が学歴獲得競争で勝つため、親が知っておきたい実戦的「損益計算書」。 |
登録情報
- ASIN : B0BJ66P58K
- 出版社 : 新潮社 (2022/11/17)
- 発売日 : 2022/11/17
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 13058 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 163ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 2,514位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 18位新潮新書
- - 41位ノンフィクション (Kindleストア)
- - 60位教育学 (Kindleストア)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2023年12月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2024年5月15日に日本でレビュー済み
Kindle Unlimitedで読みました。
本書は、コスパという切り口で考えた時に、AとBならどちらが良いの?という比較論がメインです。
そのため、タイトルには攻略法とありますが、ゲームの攻略サイトのように最適解を示すものではありません。
具体的には、
・公立コースor中高一貫校
・大手受験塾or個人塾
・東大理系or国公立医学部
といった点について、コスパという観点から比較しています。
本書を読んで、中学受験は親も子も大変で、金銭だけの問題ではなく、時間や労力を必要とするものであることがよくわかりました。
特に印象に残ったのは、私立中高一貫校に子どもを通わせることに伴う費用と、その効果(どれだけ偏差値を上げられるか)という点です。正直、私立中高一貫ってこんなにコスパが悪いのかと思ってしまいました。膨大な労力をかけて、◯万円使い、最終的な大学の偏差値が△しか変わらないというのが事実なら、ちょっと考え直す必要があるかな。
本書は、コスパという切り口で考えた時に、AとBならどちらが良いの?という比較論がメインです。
そのため、タイトルには攻略法とありますが、ゲームの攻略サイトのように最適解を示すものではありません。
具体的には、
・公立コースor中高一貫校
・大手受験塾or個人塾
・東大理系or国公立医学部
といった点について、コスパという観点から比較しています。
本書を読んで、中学受験は親も子も大変で、金銭だけの問題ではなく、時間や労力を必要とするものであることがよくわかりました。
特に印象に残ったのは、私立中高一貫校に子どもを通わせることに伴う費用と、その効果(どれだけ偏差値を上げられるか)という点です。正直、私立中高一貫ってこんなにコスパが悪いのかと思ってしまいました。膨大な労力をかけて、◯万円使い、最終的な大学の偏差値が△しか変わらないというのが事実なら、ちょっと考え直す必要があるかな。
2023年5月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日本の教育における学歴攻略法の最適解はここにあり!そんな感じの本でした。
2023年4月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
受験の内容について最新の状況を踏まえつつ説明されています。
中学受験難関校の算数の難しさや、高校数学の学習量については同感です。
中学受験難関校の算数の難しさや、高校数学の学習量については同感です。
2023年4月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自分は今40歳だが、母校が推薦入試や旧AO入試の総合型選抜とやらの割合を増やしまくっているのに小さからぬ怒りを抱いており、また、昔大学職員をやっていたこともあって受験産業に興味があることもあり、少子化が進んだ現在の受験の状況を知ろうと思って購入した。Amazonレビューがやたらと高評価だったので期待したが、ほとんど知っている内容で、つまらなくはなかったが、特に面白くもなかった。週刊誌の学歴特集をピックアップしたネット記事を定期的に目にしている人であれば、本書は特に読んでも驚くような内容は書いてないように思う。ただ、小学校低学年のお子さんがいて、自分はあまりしっかりと受験勉強をしなかった、という人には、本書は基礎知識を得られるという点で有用かも知れない。
2023年10月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
中学受験用大手塾の費用、3年間で約300万円など詳しい費用が書かれてあり、参考になった。中学受験を考えている保護者にはぜひ読んでほしい。受験するこどもを競争馬に例えているあたりが面白い。結局、頭脳や成績は、遺伝子の部分もかなりあると思う。それも踏まえて、こどもの大学までの学費予算を見積りしてみたいと思った。
2023年3月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
面白く、ためになる本でした
教育に関して、大分悩まなくなると思います
大人の私も勉強する気が湧いてきます
教育に関して、大分悩まなくなると思います
大人の私も勉強する気が湧いてきます
2023年2月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
そもそも、小学校・中学校・高校・大学・大学院に行って何を勉強するのか、
それぞれがどのようにつながっているのか、自分自身がイマイチ理解していなかったことが分かった。
日本の教育の構成をやっと理解することができた。
自分が進路について考える時に知っておきたかった内容が盛りだくさん。
漫画や図解版で子供向けに出版してほしい。
それぞれがどのようにつながっているのか、自分自身がイマイチ理解していなかったことが分かった。
日本の教育の構成をやっと理解することができた。
自分が進路について考える時に知っておきたかった内容が盛りだくさん。
漫画や図解版で子供向けに出版してほしい。