ガリレオは望遠鏡のなかに木星を観ていた。
空虚な宇宙空間のなかにぽつんと浮かぶ惑星。
宇宙はどこまでいっても、ただ永遠につづく、
その先には何もない――神などいるはずもない、
望遠鏡という光学機器のまえでは、そうとしか
言いようがない。いまでは当たり前のような認識だが、
400年もまえ、そんな認識をもつ男が隣近所にいる
というだけで寒気がしたことであろう。
そんな血も涙もない悪魔は磔だ火あぶりだーー
天上には(無ではなくむしろ)神がおられる、
これほどアットホームなこともあるまい。
逆にいえば、ガリレオの孤独の底知れぬ寂しさが
私たちの姿そのものであるかもしれない。
科学とはそもそも何だろうか。ありきたりの答えはいらない。
光速は一定、これも神なのか、時間は何を規準に計るものなのか。
――いわゆる「時間論」からは、何も、私たちの問題を先へ進めるものが見いだせないと思う。
(ハイデガーのものもふくめて、そこから私たちを救うものが育つだろうか――その再帰的自己触発としての根源的時間性は時間論の究極の姿だと思うが、そこにも――あるいはそれを理解する私たちの態勢にもすでに――近代的懐疑論の陰が漂っていないだろか。)
私たちは究極的に科学よって救われる本性をもたない。
テイラーにとって、世俗ということを
どう捉えるかが問題なのだろう。
――現代が世俗の時代などと分かったふりをするでない。
上巻2章で、デカルトが取りあげられていいる。
我ありとという孤立を甘受したデカルトが「高邁」をいい、
それがカントの「尊厳」の感覚とそれほおど遠くない(164頁)
というテイラーの鋭さ。
下巻ではヌスバウムの『愛の知識』が論じられるところも興味深い。
彼女の主著を翻訳してほしい。名古屋大学出版局の有志よ!
バタイユ、フーコー、デリダがニーチェを源流とする点も繰り返し定番のように指摘される。
たぶんそこに、『悲劇の誕生』でいうディオニュソスを想定しつつ
「ニヒリズム」の変種を見ているのだと思う。――そこからは救うものが育たないと。
ニーチェは晩年このディオニュソス的な(ある意味、ドイツ・ロマン派的な)視点を
克服したと思われる(バーナド・ウィリアムズ、ジャック・ブーヴレスを参照)。
私にとってもっとも印象的なのは、やはり、でホプキンスの詩が
たくさん引用されている20章「回心」である。
とてもいい詩句の選択で、
おもわずベケットの初期の絶望を絵に描いたような詩群を思い出した。
彼はその鬱屈を劇や小説のなかで和解したのだろうか。
ホプキンスの詩句、
それをどう形容したものだろうか。
ハイデガーのトラークル論の官能的な孤絶感といえるのかどうか、
それはいちど読んだら忘れられるものではないが、
それを読み返したくなった。
本書はほんとうに、そういう真摯な瞬間の「反復(捉え返し)」に誘ってくれる
まれな著作である。
訳語の「実存」は、どう理解したものか、私はそのつど、
「生活」「生存」「存在」くらいに言い換えながら読んだ。
(「実存」という言葉は、「エクリチュール」という語と同じように
使うのも使っているのを見るのも、いまでは、気恥ずかしい。)
(実存とはそもそもキルケゴールがキリスト者としての生き方を
指す言葉として使ったはずだ。それをハイデガーがキルケゴールへの
あてつけかどうか知らないが、「実存論的」だの「実存範疇」だのいって
この語を使ったのが「つまづき」の始まりではないのか?)
「シニフィエ」は英語と仏語では意味が逆になる。
「シニフィアン」ではないのかと思われるが
原書がないので何ともいえない。
それでも、とても読みやすい翻訳で
訳者の方々には感謝します。
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世俗の時代【下巻】 単行本 – 2020/6/10
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ノヴァ・エフェクト後の哲学——。現代人が陥った精神的苦境の根本にあるものとは何か。「生きる意味」や「自分らしさ」の探求、スピリチュアルなものの流行は、「世俗化」といかに関係するのか。壮大な歴史的展望のもとに宗教・思想・哲学の曲折に満ちた展開を描き出す記念碑的大著、ついに邦訳。
【受賞】
・第56回「日本翻訳出版文化賞」
【書評】
・『アステイオン』(96号、2022年5月、評者:島田英明氏)
・『図書新聞』(2021年1月9日号、第3478号、評者:田中智彦氏)
・読売新聞(2020年12月27日付、読書欄特集「読書委員が選ぶ『2020年の3冊』」、評者:苅部直氏)
“…… 最後の体系的哲学者と思われるテイラーの代表作。近代社会における世俗化の過程を幅ひろくたどり、宗教の意味を問い直す。……”(第10面)
・『週刊読書人』(2020年9月18日号、第3357号、評者:福間聡氏)
【目 次】
凡 例
第Ⅳ部 世俗化の物語
第12章 動員の時代
第13章 本来性の時代
第14章 今日の宗教
第Ⅴ部 信仰の条件
第15章 内在的枠組み
第16章 交差圧力
第17章 ディレンマ1
第18章 ディレンマ2
第19章 近代の不穏な前線
第20章 回 心
エピローグ 数多くの物語
訳者あとがき / 注 / 索 引
【上巻目次】
はじめに / 凡 例
序 章
第Ⅰ部 改革の仕事
第1章 信仰の防波堤
第2章 規律訓練社会の出現
第3章 大いなる脱埋め込み
第4章 近代の社会的想像
第5章 観念論の亡霊
第Ⅱ部 転換点
第6章 摂理に基づく理神論
第7章 非人格的秩序
第Ⅲ部 ノヴァ・エフェクト
第8章 近代の不安
第9章 時間の暗い深淵
第10章 広がる不信仰の宇宙
第11章 19世紀の軌跡
注
【受賞】
・第56回「日本翻訳出版文化賞」
【書評】
・『アステイオン』(96号、2022年5月、評者:島田英明氏)
・『図書新聞』(2021年1月9日号、第3478号、評者:田中智彦氏)
・読売新聞(2020年12月27日付、読書欄特集「読書委員が選ぶ『2020年の3冊』」、評者:苅部直氏)
“…… 最後の体系的哲学者と思われるテイラーの代表作。近代社会における世俗化の過程を幅ひろくたどり、宗教の意味を問い直す。……”(第10面)
・『週刊読書人』(2020年9月18日号、第3357号、評者:福間聡氏)
【目 次】
凡 例
第Ⅳ部 世俗化の物語
第12章 動員の時代
第13章 本来性の時代
第14章 今日の宗教
第Ⅴ部 信仰の条件
第15章 内在的枠組み
第16章 交差圧力
第17章 ディレンマ1
第18章 ディレンマ2
第19章 近代の不穏な前線
第20章 回 心
エピローグ 数多くの物語
訳者あとがき / 注 / 索 引
【上巻目次】
はじめに / 凡 例
序 章
第Ⅰ部 改革の仕事
第1章 信仰の防波堤
第2章 規律訓練社会の出現
第3章 大いなる脱埋め込み
第4章 近代の社会的想像
第5章 観念論の亡霊
第Ⅱ部 転換点
第6章 摂理に基づく理神論
第7章 非人格的秩序
第Ⅲ部 ノヴァ・エフェクト
第8章 近代の不安
第9章 時間の暗い深淵
第10章 広がる不信仰の宇宙
第11章 19世紀の軌跡
注
- 本の長さ502ページ
- 言語日本語
- 出版社名古屋大学出版会
- 発売日2020/6/10
- 寸法15.7 x 3.2 x 21.7 cm
- ISBN-104815809895
- ISBN-13978-4815809898
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商品の説明
著者について
【著 者】
チャールズ・テイラー(Charles Taylor)
1931年、カナダ生まれ。オックスフォード大学にて博士号(哲学)取得。マギル大学などで教鞭をとり、現在、同大学名誉教授。政治哲学をはじめ、自己論・道徳論・言語論・宗教論などの分野において研究を積み重ねてきた哲学者であり、テンプルトン賞、京都賞などを受賞。本書『世俗の時代』(2007年)は、『ヘーゲル』(1975年)、『自我の源泉』(1989年)に続く第三の主著として位置づけられる。ほかの著作に、『今日の宗教の諸相』(2002年)、『実在論を立て直す』(共著、2015年)など。
【監訳者】
千葉 眞(ちば しん 担当:第13章)
1949年生まれ。プリンストン神学大学にてPh.D.(政治倫理学)取得。国際基督教大学教養学部教授・特任教授を経て、現在は同大学名誉教授、平和研究所顧問。
著訳書:
『現代プロテスタンティズムの政治思想』(新教出版社、1988年)
『ラディカル・デモクラシーの地平』(新評論、1995年)
『アーレントと現代』(岩波書店、1996年)
『デモクラシー』(岩波書店、2000年)
『「未完の革命」としての平和憲法』(岩波書店、2009年)
『連邦主義とコスモポリタニズム』(風行社、2014年)
アーレント『アウグスティヌスの愛の概念』(訳、みすず書房、2002年)
ラクラウ/ムフ『民主主義の革命』(共訳、ちくま学芸文庫、2012年)ほか
【訳 者】
石川 涼子(いしかわ りょうこ 立命館大学国際教育推進機構准教授、担当:第12章)
梅川 佳子(うめかわ よしこ 中部大学人文学部講師、担当:第14章)
高田 宏史(たかだ ひろふみ 岡山大学大学院教育学研究科准教授、担当:第15~17章)
坪光 生雄(つぼこ いくお、一橋大学大学院社会学研究科特任講師、担当:第18~20章、エピローグ)
(所属等は初版第1刷発行時のものです)
チャールズ・テイラー(Charles Taylor)
1931年、カナダ生まれ。オックスフォード大学にて博士号(哲学)取得。マギル大学などで教鞭をとり、現在、同大学名誉教授。政治哲学をはじめ、自己論・道徳論・言語論・宗教論などの分野において研究を積み重ねてきた哲学者であり、テンプルトン賞、京都賞などを受賞。本書『世俗の時代』(2007年)は、『ヘーゲル』(1975年)、『自我の源泉』(1989年)に続く第三の主著として位置づけられる。ほかの著作に、『今日の宗教の諸相』(2002年)、『実在論を立て直す』(共著、2015年)など。
【監訳者】
千葉 眞(ちば しん 担当:第13章)
1949年生まれ。プリンストン神学大学にてPh.D.(政治倫理学)取得。国際基督教大学教養学部教授・特任教授を経て、現在は同大学名誉教授、平和研究所顧問。
著訳書:
『現代プロテスタンティズムの政治思想』(新教出版社、1988年)
『ラディカル・デモクラシーの地平』(新評論、1995年)
『アーレントと現代』(岩波書店、1996年)
『デモクラシー』(岩波書店、2000年)
『「未完の革命」としての平和憲法』(岩波書店、2009年)
『連邦主義とコスモポリタニズム』(風行社、2014年)
アーレント『アウグスティヌスの愛の概念』(訳、みすず書房、2002年)
ラクラウ/ムフ『民主主義の革命』(共訳、ちくま学芸文庫、2012年)ほか
【訳 者】
石川 涼子(いしかわ りょうこ 立命館大学国際教育推進機構准教授、担当:第12章)
梅川 佳子(うめかわ よしこ 中部大学人文学部講師、担当:第14章)
高田 宏史(たかだ ひろふみ 岡山大学大学院教育学研究科准教授、担当:第15~17章)
坪光 生雄(つぼこ いくお、一橋大学大学院社会学研究科特任講師、担当:第18~20章、エピローグ)
(所属等は初版第1刷発行時のものです)
登録情報
- 出版社 : 名古屋大学出版会 (2020/6/10)
- 発売日 : 2020/6/10
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 502ページ
- ISBN-10 : 4815809895
- ISBN-13 : 978-4815809898
- 寸法 : 15.7 x 3.2 x 21.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 565,914位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 3,967位哲学 (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2023年9月5日に日本でレビュー済み
下巻を流し読みしての雑感で途中で頓挫。
様々な登場人物やトピックが出てきますので読む人によって
興味の対象は変わると思いました。
■雑感
・旧/新/ポストデュルケームと区分していて説明している
・自己権威化と「神は死んだ」あとの説明と成熟さとの関係
・ニーチェなど包括的な歴史を鑑みて記述されている節があり
・セラピーの必要性と医療セクターの強化など
・文化や社会の女性化が進行している
・ニューエイジが登場
独特の回りくどい冗長的な文章ですが重要なことも
サラリと出てきたりして見逃せない本であることは確かだと思います。
様々な登場人物やトピックが出てきますので読む人によって
興味の対象は変わると思いました。
■雑感
・旧/新/ポストデュルケームと区分していて説明している
・自己権威化と「神は死んだ」あとの説明と成熟さとの関係
・ニーチェなど包括的な歴史を鑑みて記述されている節があり
・セラピーの必要性と医療セクターの強化など
・文化や社会の女性化が進行している
・ニューエイジが登場
独特の回りくどい冗長的な文章ですが重要なことも
サラリと出てきたりして見逃せない本であることは確かだと思います。
2022年10月12日に日本でレビュー済み
本作によりテイラーは、宗教分野のノーベル賞とも言われるテンプルトン賞を受賞。宗教間の対話が求められ、「ポスト世俗」が議論される今、重要な作品。