著者はイスラエル系ユダヤ人であるオデッド・ガロー。本書は前半と後半に分かれ、前半はマルサスの『人口論』の人口増加から減少に人口転換した理由。後半は格差の謎をグレート・ジャーニーからの俯瞰的な視点で捉えるというユニークな内容だ。
マルサス理論には、以下の仮説は2つの前提がある。
1)ある集団の食料資源が増えると生存数も増す。
2)生活空間に限りがある場所ではどこでも、人口の増加は生活水準の低下をもたらす。
この2つの前提によって、入手可能な食料資源に適応する、というのがマルサスの『人口論』だ。
起源1万年前は推定240万人が地球に住んでいた。西暦元年には78倍となり、1億8,800万人、1,000年後に2億9,500万人、西暦1500年頃は5億人に迫り、工業化初期の19世紀初頭には10億人を突破する寸前となった。西ヨーロッパでは1870年から1920年に出生率が30〜50%下がるという人口転換を迎えた。
原因は、避妊方法の手段が増えたからではない。(古代エジプトでも誘発流産の手段はあった)マルサス理論からの人口減少という人口転換の理由は以下になる。
・平均寿命の急上昇による死亡率の低下によって、教育による利益がもたらされる期間が増加した。
・そのため、人的資本に投資し、出生率を下げる動機が強まった。
・技術の発展により、産業の発展における教育の需要の高まりから、労働力の供給源としての子供のニードも下がった。
・人口の都市への居住で、子供の養育費が増え、出生率を低下させた。
・女性の賃金の急増も、晩婚や出生率抑制につながった。男女の賃金格差の減少は、人的資本の投資利益率によって引き起こされた出生率の低下をさらに促進した。
地域間の格差は「労働生産性」の違いを反映している。例えば、2018年の農業従事者は一人あたりの生産性で比較すると、アメリカはエチオピアの147倍、ウガンダの90倍、ケニアの77倍、インドの46倍、中国の22倍、ブラジルの6倍にもなる。この差は、それぞれの国での耕作や収穫に使う技術とともに、農業技術者が持つ技術と受けてきた教育や訓練の成果が反映している。
また、人的資本の形成には「文化」と「地理」や「制度」の影響も大きい。とりわけ、未来志向の考え方、あるいは長期志向性は、経済の発展に重要な文化的な特性になる。
人間の多様性が生産性を促進したり阻害したりする。多様性が適度であればイノベーションに与える影響が大きく、繁栄を促進する。逆に多様性が争いを誘発し、繁栄に悪影響を及ぼす場合もある。
今から30年前に、ホモ・サピエンスが出現し、6万〜9万年前に大挙してアフリカ大陸をあとにした。人類がアフリカから離れれば離れるほど、社会の文化や言語、行動、身体の多様性が低くなった。この現象は「連続的創始者効果」と呼ばれている。ある島に青、黄、黒、緑、赤のオウムがいたとする。島を台風が襲い、遠く離れた島に赤いオウムが吹き飛ばされたとする。その島では赤いオウムの子孫だけになり、多様性は低くなる。
同じように、アフリカから一群が日本に到着し、その一群だけで繁栄したとすると、その人口集団は、故郷のアフリカの人々に存在していた多様性の一部しか持っていないことになる。
社会の多様性は相反する影響を経済にもたらしてきたが、多様性が繁栄にいちばんつながりやすい「スイートスポット」の水準が過去数世紀のあいだに上がってしまったことからも「格差」は拡大し続けてきた。
技術の発展と社会の安定は多様性の「スイートスポット」から生まれる。そして、さらに新しい技術への人的資本への教育投資が必要になる。となると、今の日本に必要なのは、多文化共生社会ということになる。
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格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか Kindle版
究極の謎を解き明かし、未来への指針を示す!
30万年近く前にホモ・サピエンスが誕生して以来、人類史の大半で人間の生活水準は生きていくのがぎりぎりだった。それが19世紀以降に突如、平均寿命は2倍以上に延び、1人当たりの所得は地球全体で14倍に急上昇したのはなぜか?この劇的な経済成長の鍵は“人的資本の形成”だったことを前半で説く。それを踏まえて後半では、なぜ経済的な繁栄は世界の一部にとどまり、今なお国家間に深刻な経済格差があるのかを検討する。
制度的・文化的・地理的要因に加え、“社会の多様性”が根源的な要因だったと論じる。人類史を動かす根本要因に着目した“統一理論”にもとづいて、究極の謎を解き明かした世界的話題作!
人類史の二つの謎
第1部 何が「成長」をもたらしたのか
最初の一歩/停滞の時代/水面下の嵐/蒸気エンジン全開!/停滞から成長へ/約束の地
第1部のまとめ――成長の謎を解く
第2部 なぜ「格差」が生じたのか
光と影/制度の痕跡/文化的な要因/地理が落とす影/農業革命の遺産/出アフリカ
第2部のまとめ――格差の謎を解く
30万年近く前にホモ・サピエンスが誕生して以来、人類史の大半で人間の生活水準は生きていくのがぎりぎりだった。それが19世紀以降に突如、平均寿命は2倍以上に延び、1人当たりの所得は地球全体で14倍に急上昇したのはなぜか?この劇的な経済成長の鍵は“人的資本の形成”だったことを前半で説く。それを踏まえて後半では、なぜ経済的な繁栄は世界の一部にとどまり、今なお国家間に深刻な経済格差があるのかを検討する。
制度的・文化的・地理的要因に加え、“社会の多様性”が根源的な要因だったと論じる。人類史を動かす根本要因に着目した“統一理論”にもとづいて、究極の謎を解き明かした世界的話題作!
人類史の二つの謎
第1部 何が「成長」をもたらしたのか
最初の一歩/停滞の時代/水面下の嵐/蒸気エンジン全開!/停滞から成長へ/約束の地
第1部のまとめ――成長の謎を解く
第2部 なぜ「格差」が生じたのか
光と影/制度の痕跡/文化的な要因/地理が落とす影/農業革命の遺産/出アフリカ
第2部のまとめ――格差の謎を解く
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2022/9/28
- ファイルサイズ19034 KB
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商品の説明
著者について
オデッド・ガロー
ブラウン大学経済学教授。ルーヴァン・カトリック大学およびポズナン経済大学から名誉博士号を授与される。
アカデミア・ユーロペアの外国人会員(名誉会員)。計量経済学会の選出フェロー。
「経済成長ジャーナル」の編集長を務める。
「統一成長理論」の創始者であり、人類史の全過程にわたる発展のプロセスの理解と、
停滞から成長への移行や世界規模の巨大な格差に根深い要因がいかなる役割を果たしたかの理解に貢献してきた。
さらに、人類の発展プロセスに適応や多様性や格差がどんな影響を与えたかの調査を他に先駆けて行ってきた。
この分野に捧げた生涯の研究成果とその洞察をさまざまな講演で発表してきたが、
本書(The Journey of Humanity)ではその知見のエッセンスを収載する。30か国で刊行予定の世界的話題作。
柴田 裕之
翻訳家。早稲田大学・Earlham College卒業。
訳書にジェレミー・リフキン『水素エコノミー』『ヨーロピアン・ドリーム』『限界費用ゼロ社会』(以上、NHK出版)、
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』(以上、河出書房新社)、
シェリー・ケーガン『「死」とは何か』(文響社)、フランス・ドゥ・ヴァール『ママ、最後の抱擁』(紀伊國屋書店)、ジェフリー・S・ローゼンタール『それはあくまで偶然です』(早川書房)、ジョージ・エストライク『あなたが消された未来』(みすず書房)、
スティーヴン・ケイヴ『「不死」の講義』(日経BP)、ニーアル・ファーガソン『大惨事(カタストロフィ)の人類史』(東洋経済新報社)などがある。
森内 薫
翻訳家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
訳書にエリザベス・ブラックバーン、エリッサ・エペル『テロメア・エフェクト』、マイケル・ボーンスタイン、デビー・ボーンスタイン・ホリンスタート『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』(以上、NHK出版)、
エレーヌ・フォックス『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)、ミノーシュ・シャフィク『21世紀の社会契約』(東洋経済新報社)、アネッテ・ヘス『レストラン「ドイツ亭」』(河出書房新社)などがある。
ブラウン大学経済学教授。ルーヴァン・カトリック大学およびポズナン経済大学から名誉博士号を授与される。
アカデミア・ユーロペアの外国人会員(名誉会員)。計量経済学会の選出フェロー。
「経済成長ジャーナル」の編集長を務める。
「統一成長理論」の創始者であり、人類史の全過程にわたる発展のプロセスの理解と、
停滞から成長への移行や世界規模の巨大な格差に根深い要因がいかなる役割を果たしたかの理解に貢献してきた。
さらに、人類の発展プロセスに適応や多様性や格差がどんな影響を与えたかの調査を他に先駆けて行ってきた。
この分野に捧げた生涯の研究成果とその洞察をさまざまな講演で発表してきたが、
本書(The Journey of Humanity)ではその知見のエッセンスを収載する。30か国で刊行予定の世界的話題作。
柴田 裕之
翻訳家。早稲田大学・Earlham College卒業。
訳書にジェレミー・リフキン『水素エコノミー』『ヨーロピアン・ドリーム』『限界費用ゼロ社会』(以上、NHK出版)、
ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』(以上、河出書房新社)、
シェリー・ケーガン『「死」とは何か』(文響社)、フランス・ドゥ・ヴァール『ママ、最後の抱擁』(紀伊國屋書店)、ジェフリー・S・ローゼンタール『それはあくまで偶然です』(早川書房)、ジョージ・エストライク『あなたが消された未来』(みすず書房)、
スティーヴン・ケイヴ『「不死」の講義』(日経BP)、ニーアル・ファーガソン『大惨事(カタストロフィ)の人類史』(東洋経済新報社)などがある。
森内 薫
翻訳家。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。
訳書にエリザベス・ブラックバーン、エリッサ・エペル『テロメア・エフェクト』、マイケル・ボーンスタイン、デビー・ボーンスタイン・ホリンスタート『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』(以上、NHK出版)、
エレーヌ・フォックス『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)、ミノーシュ・シャフィク『21世紀の社会契約』(東洋経済新報社)、アネッテ・ヘス『レストラン「ドイツ亭」』(河出書房新社)などがある。
登録情報
- ASIN : B0BD7RJNHF
- 出版社 : NHK出版 (2022/9/28)
- 発売日 : 2022/9/28
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 19034 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 352ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 144,484位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 6,514位歴史・地理 (Kindleストア)
- - 18,143位ビジネス・経済 (Kindleストア)
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4 星
「銃・病原菌・鉄」が好きな方には、おすすめ
なぜ人類はこの300年間で加速度的に豊かになったか?世界の国々には、なぜ経済格差があるのか?・地理と気候・病気の蔓延しやすさ・民族や文化・政治制度・社会の多様性などさまざまな切り口から迫った本、面白かったです!「出アフリカ」から近い地域(例:中東)ほど多様性が高く、遠い地域(例:南米)ほど同質的と証明されている。・農業中心の安定した時代:同質的な東アジアが発展・科学技術が急進歩した近代:欧州くらいの多様性がちょうど良いバランスと時代とともに世界の中心が変わった、という理論が新しかった!ほかにも、豊かな作物(小麦や米)が実る地域ほど、長期&未来志向が高い。地理や気候のバラつきが大きな民族ほど、損失回避傾向が弱く、リスクとりチャレンジ。犂を牛に引かせ農作業する地域ほど、男女平等意識が低い。といった研究も紹介されてて、興味深かったです。「銃・病原菌・鉄」や好きな方など、おすすめです。
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2023年12月17日に日本でレビュー済み
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2023年1月2日に日本でレビュー済み
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原題はThe Journey of Humanityなので、邦題はかなり意訳しているということになります。第1部はジャレド・ダイアモンドをはじめとするこの手の書籍が好きな人には既知の内容ばかりでしたが、第2部から独自性のある主張が増えてきて俄然面白くなってきました。人類が近代に入りマルサスの罠をどう乗り越え、その過程でなぜ後発だったヨーロッパ勢が世界の覇権を奪取するに至ったのか、スリリングな持論を展開しています。
2023年5月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
オデッド・ガロー『格差の起源』読了。
なぜ人類に格差が生じたのか。
それは成長があったからである。
現代のような格差は、成長速度の違いの結果として生じたものである。
故に本書は歴史を過去から辿りながら、成長について分析する。
これが第一部で、第二部は格差の起源を求めて、現在から過去へと遡っていく。
印象に残ったことを記しておく。
まず、現在の急速な成長は産業革命によって始まったものである。
それ以前の成長は、人々を豊かにするものではなかった。
産業革命前の人類社会は、食べて生活できるぎりぎりのところで存続していた。
そこに農業で技術革新があると確かに収穫量が増える。
収穫量が増えるといっときはその社会は豊かになる。
しかし、その豊かになった分だけすぐに人口が増えて、また元通りのぎりぎりの生活状態に押し戻されてきた。
これをマルサスの罠という。
しかも、農業社会は歴史的に変化を嫌ってきた。
変化にはリスクがつきものだからである。
だから中世までの農業社会は、権威主義的な権力と、変わらないことが価値であるという文化によって支配されてきたのである。
そこに、イギリスで産業革命が始まった。なぜイギリスだったのか。
それは、イギリスでは技術革新を嫌うギルド(自分たち職人の利益を損ねるから)の力が大陸と比べて弱く、かつ名誉革命に示されるように権威主義的な体制が揺らぎ、包括的体制が生じつつあったからである。
そういう条件がイギリスにあったことが大きいと著者は指摘する。
そして、産業革命が起こると、人は都市に集中するようになる。また、農耕社会の様に子供をたくさん産むのではなく、少ない子供に教育投資を行うようになる。
逆にヨーロッパ大陸では、農耕社会の働き手を維持するために、地主たちおよび王権は教育をさせないような政策を取る。
農業で安定していた国が、農業に特化した体制を築いていたがゆえに、産業革命以降の変化に適応できない、遅れる、という事態が生じたのである。
が、いずれにせよ、産業革命以降の少子化と教育投資によって、世界的にマルサスの罠が終焉し、いま我々が暮らす豊かな(食べて生きていくのにぎりぎりではない)社会が全世界的に登場することになった。
これが、成長の秘密である。
ここまでは非常に論旨も明快である。
しかし、第二部の格差の起源となると、歯切れが悪くなる。
格差を生む要因として、制度、文化、地理的要因等を上げる。
更に遡って、ホモサピエンスがアフリカにいた時の多様性が、出アフリカによって失われたことも要因とする。
著者は、2010~2018年の反映の国家間格差のうち、原因不明の部分の1/4は社会の多様性に原因があり、地理と気候に原因があるのは2/5、民族・文化の要因は1/5、政治制度の要因は1/10で説明できるという。
しかし、では多様性がありさえすれば繁栄できるのかといえば、そうとは限らない。
結局、多様性を持ちつつ、それを他の条件と合わせてスイートスポットで活用できた場合に繁栄するというのである。
となると、まあ何とでも言えることになってしまう。とても「格差の統一理論」なんてことは言えないように思える。
また、著者が地球温暖化等についても世界人口がピークアウトすると予測しつつ、非常に楽観的に捉えている点も気になった。
面白い指摘も多々ありつつも、納得感が得られないのが残念だ。
なぜ人類に格差が生じたのか。
それは成長があったからである。
現代のような格差は、成長速度の違いの結果として生じたものである。
故に本書は歴史を過去から辿りながら、成長について分析する。
これが第一部で、第二部は格差の起源を求めて、現在から過去へと遡っていく。
印象に残ったことを記しておく。
まず、現在の急速な成長は産業革命によって始まったものである。
それ以前の成長は、人々を豊かにするものではなかった。
産業革命前の人類社会は、食べて生活できるぎりぎりのところで存続していた。
そこに農業で技術革新があると確かに収穫量が増える。
収穫量が増えるといっときはその社会は豊かになる。
しかし、その豊かになった分だけすぐに人口が増えて、また元通りのぎりぎりの生活状態に押し戻されてきた。
これをマルサスの罠という。
しかも、農業社会は歴史的に変化を嫌ってきた。
変化にはリスクがつきものだからである。
だから中世までの農業社会は、権威主義的な権力と、変わらないことが価値であるという文化によって支配されてきたのである。
そこに、イギリスで産業革命が始まった。なぜイギリスだったのか。
それは、イギリスでは技術革新を嫌うギルド(自分たち職人の利益を損ねるから)の力が大陸と比べて弱く、かつ名誉革命に示されるように権威主義的な体制が揺らぎ、包括的体制が生じつつあったからである。
そういう条件がイギリスにあったことが大きいと著者は指摘する。
そして、産業革命が起こると、人は都市に集中するようになる。また、農耕社会の様に子供をたくさん産むのではなく、少ない子供に教育投資を行うようになる。
逆にヨーロッパ大陸では、農耕社会の働き手を維持するために、地主たちおよび王権は教育をさせないような政策を取る。
農業で安定していた国が、農業に特化した体制を築いていたがゆえに、産業革命以降の変化に適応できない、遅れる、という事態が生じたのである。
が、いずれにせよ、産業革命以降の少子化と教育投資によって、世界的にマルサスの罠が終焉し、いま我々が暮らす豊かな(食べて生きていくのにぎりぎりではない)社会が全世界的に登場することになった。
これが、成長の秘密である。
ここまでは非常に論旨も明快である。
しかし、第二部の格差の起源となると、歯切れが悪くなる。
格差を生む要因として、制度、文化、地理的要因等を上げる。
更に遡って、ホモサピエンスがアフリカにいた時の多様性が、出アフリカによって失われたことも要因とする。
著者は、2010~2018年の反映の国家間格差のうち、原因不明の部分の1/4は社会の多様性に原因があり、地理と気候に原因があるのは2/5、民族・文化の要因は1/5、政治制度の要因は1/10で説明できるという。
しかし、では多様性がありさえすれば繁栄できるのかといえば、そうとは限らない。
結局、多様性を持ちつつ、それを他の条件と合わせてスイートスポットで活用できた場合に繁栄するというのである。
となると、まあ何とでも言えることになってしまう。とても「格差の統一理論」なんてことは言えないように思える。
また、著者が地球温暖化等についても世界人口がピークアウトすると予測しつつ、非常に楽観的に捉えている点も気になった。
面白い指摘も多々ありつつも、納得感が得られないのが残念だ。
2022年10月9日に日本でレビュー済み
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第1部「何が「成長」をもたらしたのか」、第2部「なぜ「格差」が生じたのか」という二部構成。それぞれの表題で明らかなように、人類史における成長と格差の原因を解明しようというのが本書の目的である。
第1部では、マルサスの罠に嵌るが如く、長くの人びとの生活水準の向上が阻まれるなかで、18世紀後半の産業革命を経て、経済成長を人口増加の相殺効果から解放した、その要因を探る。
本書で明らかにされるところのその要因は驚くようなものではなく、だからこそ説得的であるとは思うが、若干肩透かしを食らった感はある。それは第2部も同様で、格差が生じた要因を明らかにしていくことになるが、これも驚愕するような事実なり説なりが提示されるわけではない。本書の帯には、「人類がアフリカを出たときから格差は始まっていた」という少し煽り気味な要約もあり、実際にそういう議論もなされているが、これも特にセンセーショナルな主張をしているわけではなく、結局は穏当なところに収まっている。
これまた帯には「経済学の常識を覆す統一理論の登場」とあり、手に取る際には結構期待したが、一読の感想は「そもそも理論と言えるほどの何かがあったのか」というものだった。読み物としては十分に面白く、また説明も説得的なものではあるものの、経済学の常識を覆すほどのインパクトのある本ではないと思う。
第1部では、マルサスの罠に嵌るが如く、長くの人びとの生活水準の向上が阻まれるなかで、18世紀後半の産業革命を経て、経済成長を人口増加の相殺効果から解放した、その要因を探る。
本書で明らかにされるところのその要因は驚くようなものではなく、だからこそ説得的であるとは思うが、若干肩透かしを食らった感はある。それは第2部も同様で、格差が生じた要因を明らかにしていくことになるが、これも驚愕するような事実なり説なりが提示されるわけではない。本書の帯には、「人類がアフリカを出たときから格差は始まっていた」という少し煽り気味な要約もあり、実際にそういう議論もなされているが、これも特にセンセーショナルな主張をしているわけではなく、結局は穏当なところに収まっている。
これまた帯には「経済学の常識を覆す統一理論の登場」とあり、手に取る際には結構期待したが、一読の感想は「そもそも理論と言えるほどの何かがあったのか」というものだった。読み物としては十分に面白く、また説明も説得的なものではあるものの、経済学の常識を覆すほどのインパクトのある本ではないと思う。
2023年1月5日に日本でレビュー済み
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改めて環境の悪化について歴史に照らして書いている。人間は愚かか?
感染症や食料問題は昔からあったことを改めて認識しました。哲学者の言葉も時代とともに移り変わって行った。
感染症や食料問題は昔からあったことを改めて認識しました。哲学者の言葉も時代とともに移り変わって行った。
2022年11月21日に日本でレビュー済み
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狩猟採集社会から農耕社会への転換、文化の多様性が技術の発展をもたらしたことが、人類のここ2世紀ほどでの急激に繁栄した理由との指摘は的確かと。各国の繁栄についても、データを駆使し丁寧に説明したあり、参考となった。文化を背景とした政治、社会などの違いが国家の格差を生み出しているということであった。マルサスの悲観的な「人口論」への批判(著者だけではないが)、限界などについても現実に即した諭旨が興味深かった。ただ若干難解な論理の展開があり、理解を深めるには併せて人類史の書籍も目を通すことをお薦めしたい。
2022年10月23日に日本でレビュー済み
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この本は、著者が過去約30年に渡り、経済成長・経済格差について深く考え考察し、一流の経済学雑誌に研究論文として発表してきた成果を、一般読者向けに書き下ろした著作である。すべてはOded Galorが独自に作り上げた統一理論(Unified Theory)とそれを裏付ける実証的証拠(empirical evidence)に基づいて書かれている。第一部では経済成長の源泉をとことんまで掘り下げ、成長の謎を解き明かし、第二部では格差の原因を人類の長い歴史に求め、その謎を解き明かしている。Oded Galorの深い洞察は、現代に生きる我々に開明的な知恵を与えてくれる。興味を持った読者は彼の原論文にチャレンジしてみるのはいかがなものだろうか。
2023年7月16日に日本でレビュー済み
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梱包が不安(初めてのレベル)