下川正晴氏の新著「忘却の引き揚げ史 泉靖一と二日市保養所」(弦書房)を、この8月、ぜひ読んでほしいので紹介させていただきます
満州では多くの日本人女性が、ソ連兵によるレイプ、そしてその結果としての望まぬ妊娠という悲劇に襲われました。当時の日本国では、法律で堕胎は基本的に禁じられていました。しかし、当時医師たちは、彼女たちのために、引き揚げ港の博多、二日市保養所などで手術を実行することになりました。現地には高松宮殿下が医師や看護婦を激励に訪問され、そのこと自体が、事実上この手術を政府が承認していることを医師たちに伝えたのでした。本書で私は、高松宮殿下をはじめ皇族の方々が、戦争末期から引き揚げに至る事態においてかなりの現地情報を得ていたこと、引揚者の保護のために積極的に動かれていたことを知りました。
しかし、この時の救援運動に、後の文化人類学者で朝鮮半島育ちの泉靖一氏が大活躍していたことは本書を読むまで全く知りませんでした。インカ・アンデス文明の研究者としてしか知らなかった泉氏がと、その周囲の方々の努力と勇気、そしてその同胞救出の成果は、まさにこれほどの人間がいたことを日本人として誇りに思えるような存在です。
一例を挙げますが、昭和21年段階、北朝鮮からの引揚者が急増、彼らの多くは栄養不良で、特に幼少児たちは、米軍が配給する高粱やトウモロコシが受け付けられず、餓死者が続出していました。半島の混乱期でもあり、頼みの綱のソウル・博多間の通信も連合軍により遮断され、迅速な救援運動ができる状態ではありません。泉氏は直接事態を打開するために、密航の罪すらいとわず朝鮮半島に渡り、そこで米軍に逮捕されています。そのとき泉氏はピストルを突き付けられながらもこう答えました。
「戦争で負けるということは、こんなに悲しい情けないことか、ということをはじめて見て知った。同胞が死ぬか生きるかの瀬戸際の運命を背負って、裸同然で北朝鮮から南朝鮮へ逃げてくる。おぶわれて、たどり着く。歩けなくて、はってくる。薬と金があったら、この人たちの何人かが救われるのです。しかし今、ソウルの救済病院には一銭のお金もない。それを知っていて、黙って見殺しにできますか。もし貴下がその立場に立たれたら、やはり僕のようになさったでしょう。私は(朝鮮半島への)再渡航は罪になることも知って渡りました。どうぞ私に、どんな罪でも与えてください。潔く受けましょう。」(164ページ)
幸い、この米兵は泉氏の心情を理解し、そのまま釈放してくれたとのことです。本書には満州におけるさまざまな悲劇についてももちろん触れられていますが、私は177ページに掲載された、泉氏が執筆した引揚船の中で配布されたこの文書に深い感銘を受けました。これほど具体的、かつ、傷つけられた人々の心に素直に受け入れられる文章はなかなか書けるものではありません。
「不幸な御婦人方へ至急ご注意!
皆さん、ここまで御引き揚げになれば、この船は懐かしき母国の船でありますから、まずご安心ください。
さて、今日まで数々の嫌な思い出も御ありそうですが、茲で一度顧みられて、万一これまでに「生きんがために」または「故国に還らんが為に」心ならずも不法な暴力と恐怖により身を傷つけられたリ、又はその為、身体に異常を感じつつある方には、再生の祖国日本上陸の後、速やかにその憂悶に終止符を打ち、希望の出発を立てられるために乗船の船位へ、これまでの経過を内密に忌憚なく打ち開けられて、相談して下さい。
本会はかかる不幸なる方々のために船医を乗船させ、上陸後は知己にも故郷への知れない様に、博多の近く二日市の武蔵温泉に設備した診療所へ収容し、健全なる身体として故郷へご送還するようにして居りますから、臆せず、惧れず、ご心配なくただちに船医の許まで御申し出ください」
著者の下川正晴氏は、これまで朝鮮問題などで大変優れた仕事をされてきた方であり、私個人の想いを記させてもらえれば、このようなジャーナリストこそ、真のリベラリストというべき方です.
下川氏は、「ジャーナリズム」の反対語を「マンネリズム」と指摘しています。これは、毎年この8月を、空襲、原爆、沖縄戦、そして15日というテーマ(それぞれが重要であることは言うまでもないのですが)でだけしか語ろうとしない現在のジャーナリズムへの厳しい批判でもあります。また同氏は、日本統治下の朝鮮半島において製作された映画の数々を紹介してこられた方でもあり、その方面でもいつか一冊の本を書いていただきたく思います。
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忘却の引揚げ史《泉靖一と二日市保養所》 単行本(ソフトカバー) – 2017/7/21
下川 正晴
(著)
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戦後日本の再生は、ここから始まる。
いわゆる戦争問題は、本土大空襲、原爆、沖縄戦を中心に語られることが多い。さらに、戦後史の重要問題として、「敗戦後の引揚げ」があるが、この問題はほとんど研究対象にならず忘却されてきた。本書は、戦後最大の戦争犠牲者=引揚げ者の苦難のうち、大陸でソ連軍等から性暴行を受けた日本の女性たちを救護(中絶処置、性病治療)し、戦後を再出発させた人々に光をあてた労作。さらに、その中心人物で、〈災害人類学〉の先駆者・泉靖一を再評価する。
いわゆる戦争問題は、本土大空襲、原爆、沖縄戦を中心に語られることが多い。さらに、戦後史の重要問題として、「敗戦後の引揚げ」があるが、この問題はほとんど研究対象にならず忘却されてきた。本書は、戦後最大の戦争犠牲者=引揚げ者の苦難のうち、大陸でソ連軍等から性暴行を受けた日本の女性たちを救護(中絶処置、性病治療)し、戦後を再出発させた人々に光をあてた労作。さらに、その中心人物で、〈災害人類学〉の先駆者・泉靖一を再評価する。
- 本の長さ340ページ
- 言語日本語
- 出版社弦書房
- 発売日2017/7/21
- ISBN-104863291558
- ISBN-13978-4863291553
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商品の説明
著者について
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞西部本社、ソウル支局、論説委員等を歴任。韓国外語大学言論情報学部客員教授などを経て、近現代日本史、韓国、台湾、映画を中心に取材中。著書に『私のコリア報道』論文「終戦時の陸軍大臣・阿南惟幾、遺族が語る自決七〇年目の真実」ほかがある。
登録情報
- 出版社 : 弦書房 (2017/7/21)
- 発売日 : 2017/7/21
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 340ページ
- ISBN-10 : 4863291558
- ISBN-13 : 978-4863291553
- Amazon 売れ筋ランキング: - 357,248位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 537位日中・太平洋戦争
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年8月16日に日本でレビュー済み
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2024年3月22日に日本でレビュー済み
文中には「バンガロー(貸し別荘)」、「ヒューマニズム(人道主義)」、「ナショナル・ヒストリー(国民の物語)」、「スピリチュアル(霊的)」などなど、カタカナ英語表記に日本語訳が付されたものがたくさん出てきます。すごい違和感。このようにする理由がわかりません。カタカナの(偽)英語表現が氾濫する現代への配慮なのでしょうかね。そもそも、バンガローは「貸別荘」ではありませんよ。書籍の内容自体はすばらしいものがあるだけに、ときおりこれらで気が削がれるのが残念でした。
2018年12月19日に日本でレビュー済み
戦後に朝鮮半島や満州でソ連兵などに強姦され、望まない妊娠をしたまま引き揚げた女性を救済するため、法的には禁止されていた堕胎手術を実行した勇気ある医師と看護師。
この事実について、この本を読むまで全く知らなかった。政府としても、病院としても表沙汰にできない無い様だったからなのだろうか。
筆者の丹念な取材とその事実関係についての検証が延々と続き、また、「読み物」としては非常に読みづらい内容で途中から飛ばし飛ばしになってしまった。
しかし、歴史的価値のある書物だと思う。
この事実について、この本を読むまで全く知らなかった。政府としても、病院としても表沙汰にできない無い様だったからなのだろうか。
筆者の丹念な取材とその事実関係についての検証が延々と続き、また、「読み物」としては非常に読みづらい内容で途中から飛ばし飛ばしになってしまった。
しかし、歴史的価値のある書物だと思う。
2018年9月8日に日本でレビュー済み
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もっとよく知りたいと思うようになりました。ありがとうございます。
2018年10月20日に日本でレビュー済み
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本書によると、二日市保養所に関する記録は
ほとんど残っていないそうだ
しかし、元新聞記者だからなのか
非常に丹念な取材に基づき
引揚者達の苦難の歴史を伝えている
現代の価値観で判断してはいけないが
やはり、大東亜戦争当時を知らないため
「強姦による妊娠」のことを「不法妊娠」といい
「強姦被害者」のことを「特殊夫人」と呼んでいたことには
ちょっとビックリした
当時の感覚からすれば、普通の言葉遣いなのだろう
かなり読みにくい本で (難解なのではなく、文章構成が変)
最後まで読破するのに苦労したが
歴史というより物語風に書かれた名著『竹林はるか遠く』を補完する書籍として
また、ほぼ忘れ去られている二日市保養所を後世に伝える書籍として
一読の価値あり
ほとんど残っていないそうだ
しかし、元新聞記者だからなのか
非常に丹念な取材に基づき
引揚者達の苦難の歴史を伝えている
現代の価値観で判断してはいけないが
やはり、大東亜戦争当時を知らないため
「強姦による妊娠」のことを「不法妊娠」といい
「強姦被害者」のことを「特殊夫人」と呼んでいたことには
ちょっとビックリした
当時の感覚からすれば、普通の言葉遣いなのだろう
かなり読みにくい本で (難解なのではなく、文章構成が変)
最後まで読破するのに苦労したが
歴史というより物語風に書かれた名著『竹林はるか遠く』を補完する書籍として
また、ほぼ忘れ去られている二日市保養所を後世に伝える書籍として
一読の価値あり
2017年10月22日に日本でレビュー済み
「二日市保養所」という言葉を、『忘却の引揚げ史――泉靖一と二日市保養所』(下川正晴著、弦書房)で初めて知りました。
「福岡県筑紫郡二日市町(現在の筑紫野市)にあった二日市保養所は、温泉地にできた療養所ではない。敗戦後、満州や朝鮮北部などでソ連兵らによって性暴行被害を受けた女性たちの中絶手と治療が行われた場所だ。その数は400~500件だった、と元担当医師が証言している。1946(昭和21)年3月25日、厚生省引揚援護庁と在外同胞援護会(外務省の外郭団体)救療部によって開設され、翌年秋までに閉鎖された」。
「患者は主に満州、中国、北朝鮮からの引揚げ女子で、性暴行を受けて性病に感染したり、妊娠した女性たちだ。主に博多港からトラックで、一部は他の引揚げ地から来た。当時は優生保護法がなく、政府の許可が得られなかったが、在外同胞援助会救療部は妊娠中絶を断行した」。
「『人身御供』の事実があったことは、引揚者からの聞き取り調書『問診日誌』をみても明らかだ。上坪(隆)は言う。『日本人が集団を組んで引揚げる途中、『集団の安全のために』『みんなのために』というそれだけの理由で、その責任者の『命令』によって女性を外国兵や現地人にさしだし、獣欲に任せるケースが少なくなかった』」。ギ・ド・モーパッサンの『脂肪の塊』に通じる残酷極まる惨状です。
「彼女(山本高子)は市民団体『引揚げ港・博多を考える会』が発行した証言集に、逃避行の模様を詳細に書いた。『街には不穏な空気が流れ、時折、銃声が聞こえ、日本人の家を襲う人びとの声がしました。夜になると、ロシア兵が女性を求めて、戸を叩きます』」。
「問診日誌、8月6日。ソ連軍が攻めて来て、コメひとつぶ着替ひとつ持たず、逃げ込みました。そこで他の所から逃げて来た女と子どもと集団生活をしました。ここではソ連軍からアワの配給を受けていましたが、夜になると、3名くらいずつ懐中円筒やロウソクを持って回り、昼間に眼をつけておいた女を探し出し、一晩に10人ぐらいの女を連れて行き、暴行を加え、朝になると帰っておりました」。
「山口市の小林茂は北朝鮮から佐世保に引揚げた。当時11歳。父を戦地に送り出し、母と子どもたちだけだった。ソ連軍の占領。日本人は長屋に押し込められ、1年間、毎日のようにやってきたソ連兵は『マダムダワイ(女を出せ)』と大声で喚き発砲した。小林の証言。「抵抗する者は撃ち殺すんです。全部裸にされるんです。犬がさかっているような感じのね。男女間のセックスをしてるんです。次の人が待っとる。それで強姦しよるんです。それで、こん畜生、体を開かんなったらボンッと撃つんです、目の前で。それを引きずり出して次の・・・。(昼の日中でも?)そうです。雪の中でも、道路の中でもそうです」。
「ほっとした天内(みどり)が一人で校庭に出ると、どこからか朝鮮語の歌が聞こえてきた。校舎の陰から現れたのは、4、5人の少年兵だった。彼らが担いだ棒に、16歳ぐらいの少女が裸で逆さまにつるされていた。直感的に日本人だと思った。かすかなうめき声をあげ、長い髪が落ち葉の上を引きずられていく。『見てはいけないものを見た』。母には話せなかった」。「(収容所では)夜中になると、ソ連兵が現れ『マダムダワイ』と騒いだ。そのたびに、若い女性が叫び声を上げながら、連れて行かれた。翌朝、顔見知りの女性がいなくなっていたこともあった」。
「若槻(泰雄)は『ソ連兵の日本婦人への暴行は、すさまじいの一語に尽きる』と要約し、日満パルプ(満州敦化)の社宅では『170人の婦女子全員を監禁し、夜となく昼となく暴行の限りを尽くしたが、この際23人の女性は一斉に青酸カリによって自殺した』と記述。若槻が引用した文藝春秋編『されど、わが<満州>』は、医師の話では『10名に2、3名は舌を噛んで死んでいる』という新京(現在の瀋陽)での目撃談を載せている」。
一方、二日市保養所で献身的な活動を行った人々がいました。「泉(靖一)自身が戦後博多での活動について、自伝『遥かな山やま』で書いたのは、わずか4ページである。『私は、毎日毎日、埠頭で上陸してくる病人をかついだり、孤児の手をひいたり、栄養失調児のための収容所や、不法(=強姦)妊産婦の保養所の建設におおわらわだった。聖福寺の界隈は駅のすぐそばで、そのころ闇市にかこまれていた。喧嘩や盗難は日常の茶飯事であったが、人ごみのなかには活気があった。私は、雑踏のなかで、山も学問も忘れてどろどろになって働いた』。泉の寡黙で一貫した戦後体験談は、私たちの胸を打つ」。
被害者も加害者も常軌を逸した地獄のような世界に放り込まれるのが戦争です。昨今の「戦争ができる国」への動きは何としても阻止せねばと痛感しました。
「福岡県筑紫郡二日市町(現在の筑紫野市)にあった二日市保養所は、温泉地にできた療養所ではない。敗戦後、満州や朝鮮北部などでソ連兵らによって性暴行被害を受けた女性たちの中絶手と治療が行われた場所だ。その数は400~500件だった、と元担当医師が証言している。1946(昭和21)年3月25日、厚生省引揚援護庁と在外同胞援護会(外務省の外郭団体)救療部によって開設され、翌年秋までに閉鎖された」。
「患者は主に満州、中国、北朝鮮からの引揚げ女子で、性暴行を受けて性病に感染したり、妊娠した女性たちだ。主に博多港からトラックで、一部は他の引揚げ地から来た。当時は優生保護法がなく、政府の許可が得られなかったが、在外同胞援助会救療部は妊娠中絶を断行した」。
「『人身御供』の事実があったことは、引揚者からの聞き取り調書『問診日誌』をみても明らかだ。上坪(隆)は言う。『日本人が集団を組んで引揚げる途中、『集団の安全のために』『みんなのために』というそれだけの理由で、その責任者の『命令』によって女性を外国兵や現地人にさしだし、獣欲に任せるケースが少なくなかった』」。ギ・ド・モーパッサンの『脂肪の塊』に通じる残酷極まる惨状です。
「彼女(山本高子)は市民団体『引揚げ港・博多を考える会』が発行した証言集に、逃避行の模様を詳細に書いた。『街には不穏な空気が流れ、時折、銃声が聞こえ、日本人の家を襲う人びとの声がしました。夜になると、ロシア兵が女性を求めて、戸を叩きます』」。
「問診日誌、8月6日。ソ連軍が攻めて来て、コメひとつぶ着替ひとつ持たず、逃げ込みました。そこで他の所から逃げて来た女と子どもと集団生活をしました。ここではソ連軍からアワの配給を受けていましたが、夜になると、3名くらいずつ懐中円筒やロウソクを持って回り、昼間に眼をつけておいた女を探し出し、一晩に10人ぐらいの女を連れて行き、暴行を加え、朝になると帰っておりました」。
「山口市の小林茂は北朝鮮から佐世保に引揚げた。当時11歳。父を戦地に送り出し、母と子どもたちだけだった。ソ連軍の占領。日本人は長屋に押し込められ、1年間、毎日のようにやってきたソ連兵は『マダムダワイ(女を出せ)』と大声で喚き発砲した。小林の証言。「抵抗する者は撃ち殺すんです。全部裸にされるんです。犬がさかっているような感じのね。男女間のセックスをしてるんです。次の人が待っとる。それで強姦しよるんです。それで、こん畜生、体を開かんなったらボンッと撃つんです、目の前で。それを引きずり出して次の・・・。(昼の日中でも?)そうです。雪の中でも、道路の中でもそうです」。
「ほっとした天内(みどり)が一人で校庭に出ると、どこからか朝鮮語の歌が聞こえてきた。校舎の陰から現れたのは、4、5人の少年兵だった。彼らが担いだ棒に、16歳ぐらいの少女が裸で逆さまにつるされていた。直感的に日本人だと思った。かすかなうめき声をあげ、長い髪が落ち葉の上を引きずられていく。『見てはいけないものを見た』。母には話せなかった」。「(収容所では)夜中になると、ソ連兵が現れ『マダムダワイ』と騒いだ。そのたびに、若い女性が叫び声を上げながら、連れて行かれた。翌朝、顔見知りの女性がいなくなっていたこともあった」。
「若槻(泰雄)は『ソ連兵の日本婦人への暴行は、すさまじいの一語に尽きる』と要約し、日満パルプ(満州敦化)の社宅では『170人の婦女子全員を監禁し、夜となく昼となく暴行の限りを尽くしたが、この際23人の女性は一斉に青酸カリによって自殺した』と記述。若槻が引用した文藝春秋編『されど、わが<満州>』は、医師の話では『10名に2、3名は舌を噛んで死んでいる』という新京(現在の瀋陽)での目撃談を載せている」。
一方、二日市保養所で献身的な活動を行った人々がいました。「泉(靖一)自身が戦後博多での活動について、自伝『遥かな山やま』で書いたのは、わずか4ページである。『私は、毎日毎日、埠頭で上陸してくる病人をかついだり、孤児の手をひいたり、栄養失調児のための収容所や、不法(=強姦)妊産婦の保養所の建設におおわらわだった。聖福寺の界隈は駅のすぐそばで、そのころ闇市にかこまれていた。喧嘩や盗難は日常の茶飯事であったが、人ごみのなかには活気があった。私は、雑踏のなかで、山も学問も忘れてどろどろになって働いた』。泉の寡黙で一貫した戦後体験談は、私たちの胸を打つ」。
被害者も加害者も常軌を逸した地獄のような世界に放り込まれるのが戦争です。昨今の「戦争ができる国」への動きは何としても阻止せねばと痛感しました。
2020年4月7日に日本でレビュー済み
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終戦、敗戦で引揚げ、その様な女性たちに敵国男たちが容赦なく襲いかかる。強姦で妊娠し引揚げ、港に到着後、堕ろせない女性たちは療養所似入院し堕ろして、故郷に帰る。それまでの経過過程、産み落とした赤子の様が詳しく書かれている。現代でも、戦争でなくて紛争でも、力の弱い、被市鉢域の女達は占領した男たちには戦利品、容赦なく強姦、被害者の女達は性病にかかり、妊娠する。最後は病院に入院、始末する。