『あの犬が好き』と同じように、シャロン・クリーチが散文詩で紡ぐ物語。
主人公のアニーは１２歳。走ることと絵を描くことが好き。
アニーの目線で見た世界が、いきいきとリズミカルに描かれる。
散文詩の短いことばは、心の中に生まれ出でるままのそれのようで、
飾り気なく、純粋な思いに満ち満ちている。
タッタッ、タッタッという走るリズムが、全編を貫いて心地よい。
母のおなかで育まれる命の目覚しい変化。
その対極にあるかのような、おじいちゃんの老いゆく命。
だが、彼はよく生きた人だ。
老いには逆らえなくとも、自分の人生を果敢に生きた重みが
備わっているところが好ましい。
そのどちらをも、アニーは見つめ、愛す。
１００日間、ひとつのりんごを毎日描き続けるという美術の宿題。
ひとつのりんごと向き合うことで、アニーはりんごと対話し、
自分と対話することに気づいてゆく。
変化するりんごと、りんごで在り続ける本質の不変と。
そのことに思い至るとき、アニーは「命」の連鎖の不思議と重みに気づかされる。
挿絵は大好きな堀川理万子さん。
ページの隅で、アニーの走る姿が動く、動く。
そんな楽しい工夫も、読み終えて心に残る。
紛うかたなき命の物語。
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