漫画作品「河畔の街のセリーヌ」(日之下あかめ)から。専ら,作中で引用された「要録」と訳者解説を読了です。
エピクテトス哲学の教義の骨格は,自身の力の及ばない外的世界への隷属の否定と,力の及ぶ内的世界における意志の絶対的な自由の希求です。教義としてはそのような重厚な骨格を持ちながらも,哲学理論の生半可な議論に時間を空費することを戒め,それよりも哲学を実践することの重要性を説きます。
それだけあって,骨格に肉付けされた個々の教えは,驚く程シンプルかつ実践的です。「人生談義」の題のとおり,本書を財産や地位のような外的世界への拘泥を戒め,いま為すべきことを為す力を得るための格言集として読むこともできるでしょう――「今こそ自分のことを大人として,進歩しつつある者として生きる価値のあるものだと考えるのだ。そして,君に最善と思われるものはすべて不可侵の法であるとするのがよい。」(p. 401)
ただし,現代と異なる死生観や人々の集合的意識には注意が必要です。この点については,訳者による解説が必読です。後年パスカルから徹底批判された「君は好きなときに出ていくことが出来る」は,その前段の「人生においてなにひとつ困難なことはないのだ」なども併せ,注意深く読む必要があると考えます。
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エピクテトス 人生談義 (下) (岩波文庫 青 608-2) ペーパーバック – 2021/2/18
國方 栄二
(翻訳)
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「もし君が自分のものでないものを望むならば、君自身のものを失うことになる」。ローマ帝国に生きた奴隷出身の哲人エピクテトスは、精神の自由を求め、何ものにも動じない強い生き方を貫いた。幸福の条件を真摯にさぐるストア派哲学者の姿が、弟子による筆録から浮かび上がる。下巻は『語録』第三・四巻、『要録』等を収録。(全二冊)
- 本の長さ504ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2021/2/18
- 寸法10.5 x 2 x 14.8 cm
- ISBN-104003360842
- ISBN-13978-4003360842
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2021/2/18)
- 発売日 : 2021/2/18
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 504ページ
- ISBN-10 : 4003360842
- ISBN-13 : 978-4003360842
- 寸法 : 10.5 x 2 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 36,024位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 31位その他の西洋思想関連書籍
- - 31位古代・中世・ルネサンスの思想
- - 233位岩波文庫
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2021年2月28日に日本でレビュー済み
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「君は読書を何のためにしようとするのか。読書を気晴らしか、なにかの学識を得るためだけにするのであれば、君はとるに足らないあわれな人間だということになる。だが、読書をしかるべき目的に向けるのであれば、それは心の平安を得ること以外の何であろうか。また、もし読書が君に心の平安をもたらさないのであれば、それは何の役に立つのだろうか。」(p242-3) この本はまさに、気晴らしのためのものでも、学識を得るためのものでもありません。周囲のことや、名誉や地位、お金、そんなことには煩わされることなく、しっかり自分を自分として生きるために必要なことが沢山書かれています。この本を読んでいるとき、もしも「何しているの?」と聞かれたら、「本を読んでいる」ではなく「人生を変えている」と言いたくなるような良書です。
2023年2月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
思うようにならない物事はすべて自由ではないとか。
何ともならない場合は何かの奴隷であるとか。
自由に関する考察が衝撃を与えました。
そこでも今で言う社会心理学の外的帰属を中心に。
外界の影響をコントロールして。
自由を得る試みがあります。
内容のすべてに結論がないという謎の考察で。
クリティカルシンキングが得意な人は。
かなり好きになるかと。
区切りが多くて。
この章はこういうこと。
というまとめ方が良くて。
論文というより丁寧な弁証法で。
なぜかこの時代の哲学の一派は。
今の世で言う成功や富を肯定しておらず。
名誉や地位まで否定しまくっています。
同じ学派の皇帝も反省をしていたり。
同時代の貴族や富裕層も。
何かしら困っているという。
謎の世界が見えました。
古代人と現代人の考えていることは違いますね。
何ともならない場合は何かの奴隷であるとか。
自由に関する考察が衝撃を与えました。
そこでも今で言う社会心理学の外的帰属を中心に。
外界の影響をコントロールして。
自由を得る試みがあります。
内容のすべてに結論がないという謎の考察で。
クリティカルシンキングが得意な人は。
かなり好きになるかと。
区切りが多くて。
この章はこういうこと。
というまとめ方が良くて。
論文というより丁寧な弁証法で。
なぜかこの時代の哲学の一派は。
今の世で言う成功や富を肯定しておらず。
名誉や地位まで否定しまくっています。
同じ学派の皇帝も反省をしていたり。
同時代の貴族や富裕層も。
何かしら困っているという。
謎の世界が見えました。
古代人と現代人の考えていることは違いますね。
2023年7月22日に日本でレビュー済み
凡例
『語録』(承前)
3
おしゃれについて
進歩しようとする人は何について訓練しなければならないか、および、われわれは最も大事なことをおろそかにしていること
優れた人の対象となるものは何であり、とりわけ何を目的として訓練せねばならないのか
劇場で見苦しいほど逆上せあがった人に対して
病気のために学校を去る人に対して
雑録
エピクロス派であった自由人都市の総督に対して
心像に対してはどのように訓練をするのか
裁判のためにローマへ行こうとするある弁論家に対して
◆どのように病気に耐えるべきか
雑録
訓練について
孤独とは何か、どのような人が孤独なのか
雑録
なにごとも慎重におこなうべきこと
交際は慎重にせねばならないこと
摂理について
知らせによって混乱してはならないこと
一般の人の態度と哲学者の態度はどのようなものか
すべての外的なものから利益を得ることができること
軽率に哲学の講義を始めようとする人びとに対して
キュニコス派の思想について
演示するために読書したり議論したりする人びとに対して
われわれの力が及ばないものに執着してはならないことについて
計画したことを達成できなかった人びとに対して
困窮を恐れる人びとに対して
4
自由について
交際について
何と何を交換すべきか
平静に暮らすことに熱心になっている人びとに対して
けんか好きで野獣のような性格の人たちに対して
同情されることを苦にする人びとに対して
恐れを抱かないことについて
急いで哲学者の体裁をよそおう人びとに対して
心変わりして恥知らずになった人びとに対して
何を軽蔑すべきか、何において優れているべきか
清潔について
注意することについて
自分のことを軽々しく話す人びとに対して
断片
『要録』
訳注
解説 エピクテトスの思想
参考文献
索引(人名/事項
『語録』(承前)
3
おしゃれについて
進歩しようとする人は何について訓練しなければならないか、および、われわれは最も大事なことをおろそかにしていること
優れた人の対象となるものは何であり、とりわけ何を目的として訓練せねばならないのか
劇場で見苦しいほど逆上せあがった人に対して
病気のために学校を去る人に対して
雑録
エピクロス派であった自由人都市の総督に対して
心像に対してはどのように訓練をするのか
裁判のためにローマへ行こうとするある弁論家に対して
◆どのように病気に耐えるべきか
雑録
訓練について
孤独とは何か、どのような人が孤独なのか
雑録
なにごとも慎重におこなうべきこと
交際は慎重にせねばならないこと
摂理について
知らせによって混乱してはならないこと
一般の人の態度と哲学者の態度はどのようなものか
すべての外的なものから利益を得ることができること
軽率に哲学の講義を始めようとする人びとに対して
キュニコス派の思想について
演示するために読書したり議論したりする人びとに対して
われわれの力が及ばないものに執着してはならないことについて
計画したことを達成できなかった人びとに対して
困窮を恐れる人びとに対して
4
自由について
交際について
何と何を交換すべきか
平静に暮らすことに熱心になっている人びとに対して
けんか好きで野獣のような性格の人たちに対して
同情されることを苦にする人びとに対して
恐れを抱かないことについて
急いで哲学者の体裁をよそおう人びとに対して
心変わりして恥知らずになった人びとに対して
何を軽蔑すべきか、何において優れているべきか
清潔について
注意することについて
自分のことを軽々しく話す人びとに対して
断片
『要録』
訳注
解説 エピクテトスの思想
参考文献
索引(人名/事項
2022年8月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本下巻にある『要録』は『語録』同様、アリアノスが残したものであるが、こちらはストア主義を学習するための、いわばハンドブックを意図したものである。私なりにストア主義の要点をまとめてみたのだが、やはり教育のために用意された『要録』からの引用が多くなった。
【ストア主義の要約】
ミシェル・フーコーの推薦もありコレージュ・ド・フランスの教授であったピエール・アド(1922‐2010)は、ストア派の特徴を次の四つに集約している(ドナルド・ロバートソン(2010)『認知行動療法の哲学―ストア派と哲学的治療の系譜』(2022)金剛出版 p.88‐9)。
1.全は一である。孤立した個体など存在せず、あらゆるものはより大きな全体の一部であり、宇宙は時空間全体として捉えられるという意識。
2.唯一の善は道徳的善である。私たちにとって唯一重要な事柄は、私たち自身がコントロールしているもの、意志を伴う行為、決定、意図などであり、それらは外的事象とは対照的なものである。
3.人類の兄弟愛。人間は知恵と美徳へ向かう意志と能力をもつため、それ自体で価値のある存在である。それゆえ、私たちは人類みなを家族、兄弟姉妹とみなすべきである。
4.〈いま・ここ〉。ストア派のコントロールの範囲は今この瞬間に限られており、それゆえ、〈いま・ここ〉にのみ注意が向けられている。
1.生きる技術
上記のアドのまとめは、生き方としての哲学としてのものだが、私はストア主義を生きるための技術として捉えてみたい。ストア主義の格言として最も有名なものは、「人びとを不安にするのは、事柄ではなく、事柄についての思いである。『要録』5 (下) p.364」であろう。心理療法家なら真っ先に飛びつきたくなるテーゼである。本書には「生き方に関わる技術(『語録』(上) p.99)」が満載である。
ただし、このテーゼは下記の「コントロールの二分法」と「心像」を抑えておかないと、とんでもない誤解を生んでしまう。思いを変えれば、不安など何とでもなるという誤解である。
2.コントロールの二分法
『要録』は「物事のうちで、あるものはわれわれの力の及ぶものであり、あるものはわれわれの力の及ばないものである。『要録』1 (下) p.360」で始まる。つまり、世の中は変えられるものと、変えられないものがあるということだ。
また、キリスト教の世界でも同じ格言がうたわれている。それは「ニーバーの祈り」と呼ばれる。このようにキリスト教の中にもストア主義は含まれているし、広く西洋文化の中にストア主義は生きていたのである。ニーバーとは、プロテスタント神学者ラインホルド・ニーバー(1892–1971)のことで、1940年代の作と言われる。
・神よ、変えることのできるものについて、
・それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
・そして、識別する知恵を与えたまえ。
識別する知恵とは、変えることのできるものと、変えることのできないものを識別する知恵のことである。まさにコントロールの二分法である。
3.心像
では変えられるものとは何か。先の「事柄についての思い」もその一つだが、ストア主義では「心像」と呼ぶ。ストア派の「心像」という概念は、現在では「表象」と言えばよいだろう。例えば、感情、記憶、予測、観念、夢などのことである。これがコントロールのターゲットとなる。「だから、心像に注意するのだ。『語録』(下) p.240」
4.訓練の基本原則
ストア派の訓練は、現代の心理学からしても理にかなっている。対象は心像なので、「すべての注意を精神に集中するのだ。『要録』41 (下) p.394」となる。そして『語録』2巻18章は、「いかにして心像と戦うべきか」とあり、ここでは時間をかけて好ましい習慣を徐々に形成し安定化せよと言い。また、ソクラテスを登場させて、彼のような賢人に範をとれと言う。
5.無関心への誤解
ストイックという言葉は現在では、「いやな感情を抑え、我慢強く耐える」という意味で使われている。そもそもこの理解が間違っている。精神分析なら「知性化」や「合理化」などの防衛機制のひとつと考えるかもしれない。
ストア主義を難解にしているのは、「無関心(indifference)」の使い方にある。通常不快とされる経験は本質的に良いものでも悪いものでもない。避けられたり、抑圧されたりするべきものではなく、訓練された無関心のもとで把握されるべきものである。
「不愉快な心像に対しては、ただちにこう言うように訓練するがいい。お前は心像だが、けっして外観どおりのものではないだろう。『要録』1 (下) p.361」と、自分の主観的な心像を疑えということなのである。さらに言えば、〈いま・ここ〉にのみ集中せよということでもある。われわれは今しか生きることができないのであり、過去は永遠にここから去っており、未来はまだここには到着していないのだから。
訓練された無関心は物事に動じないという印象を与えるので、ストア主義は無感情を奨励していると誤解を生むことがある。「私は彫像のように無感情であるべきではなく、むしろ神を敬(うやま)う者として、息子として、兄弟として、父として、市民として、生まれながらの関係と生まれた後に得た関係を保つのでなければならない。『語録』(下) p.29」とあるように、人類の兄弟愛を大切にしている。
以上がストア主義から学んだ生きるための技術である。本書はこれだけに留まらず、読む人それぞれに合った生きる技術を提供してくれるだろう。
【ストア主義の要約】
ミシェル・フーコーの推薦もありコレージュ・ド・フランスの教授であったピエール・アド(1922‐2010)は、ストア派の特徴を次の四つに集約している(ドナルド・ロバートソン(2010)『認知行動療法の哲学―ストア派と哲学的治療の系譜』(2022)金剛出版 p.88‐9)。
1.全は一である。孤立した個体など存在せず、あらゆるものはより大きな全体の一部であり、宇宙は時空間全体として捉えられるという意識。
2.唯一の善は道徳的善である。私たちにとって唯一重要な事柄は、私たち自身がコントロールしているもの、意志を伴う行為、決定、意図などであり、それらは外的事象とは対照的なものである。
3.人類の兄弟愛。人間は知恵と美徳へ向かう意志と能力をもつため、それ自体で価値のある存在である。それゆえ、私たちは人類みなを家族、兄弟姉妹とみなすべきである。
4.〈いま・ここ〉。ストア派のコントロールの範囲は今この瞬間に限られており、それゆえ、〈いま・ここ〉にのみ注意が向けられている。
1.生きる技術
上記のアドのまとめは、生き方としての哲学としてのものだが、私はストア主義を生きるための技術として捉えてみたい。ストア主義の格言として最も有名なものは、「人びとを不安にするのは、事柄ではなく、事柄についての思いである。『要録』5 (下) p.364」であろう。心理療法家なら真っ先に飛びつきたくなるテーゼである。本書には「生き方に関わる技術(『語録』(上) p.99)」が満載である。
ただし、このテーゼは下記の「コントロールの二分法」と「心像」を抑えておかないと、とんでもない誤解を生んでしまう。思いを変えれば、不安など何とでもなるという誤解である。
2.コントロールの二分法
『要録』は「物事のうちで、あるものはわれわれの力の及ぶものであり、あるものはわれわれの力の及ばないものである。『要録』1 (下) p.360」で始まる。つまり、世の中は変えられるものと、変えられないものがあるということだ。
また、キリスト教の世界でも同じ格言がうたわれている。それは「ニーバーの祈り」と呼ばれる。このようにキリスト教の中にもストア主義は含まれているし、広く西洋文化の中にストア主義は生きていたのである。ニーバーとは、プロテスタント神学者ラインホルド・ニーバー(1892–1971)のことで、1940年代の作と言われる。
・神よ、変えることのできるものについて、
・それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
・そして、識別する知恵を与えたまえ。
識別する知恵とは、変えることのできるものと、変えることのできないものを識別する知恵のことである。まさにコントロールの二分法である。
3.心像
では変えられるものとは何か。先の「事柄についての思い」もその一つだが、ストア主義では「心像」と呼ぶ。ストア派の「心像」という概念は、現在では「表象」と言えばよいだろう。例えば、感情、記憶、予測、観念、夢などのことである。これがコントロールのターゲットとなる。「だから、心像に注意するのだ。『語録』(下) p.240」
4.訓練の基本原則
ストア派の訓練は、現代の心理学からしても理にかなっている。対象は心像なので、「すべての注意を精神に集中するのだ。『要録』41 (下) p.394」となる。そして『語録』2巻18章は、「いかにして心像と戦うべきか」とあり、ここでは時間をかけて好ましい習慣を徐々に形成し安定化せよと言い。また、ソクラテスを登場させて、彼のような賢人に範をとれと言う。
5.無関心への誤解
ストイックという言葉は現在では、「いやな感情を抑え、我慢強く耐える」という意味で使われている。そもそもこの理解が間違っている。精神分析なら「知性化」や「合理化」などの防衛機制のひとつと考えるかもしれない。
ストア主義を難解にしているのは、「無関心(indifference)」の使い方にある。通常不快とされる経験は本質的に良いものでも悪いものでもない。避けられたり、抑圧されたりするべきものではなく、訓練された無関心のもとで把握されるべきものである。
「不愉快な心像に対しては、ただちにこう言うように訓練するがいい。お前は心像だが、けっして外観どおりのものではないだろう。『要録』1 (下) p.361」と、自分の主観的な心像を疑えということなのである。さらに言えば、〈いま・ここ〉にのみ集中せよということでもある。われわれは今しか生きることができないのであり、過去は永遠にここから去っており、未来はまだここには到着していないのだから。
訓練された無関心は物事に動じないという印象を与えるので、ストア主義は無感情を奨励していると誤解を生むことがある。「私は彫像のように無感情であるべきではなく、むしろ神を敬(うやま)う者として、息子として、兄弟として、父として、市民として、生まれながらの関係と生まれた後に得た関係を保つのでなければならない。『語録』(下) p.29」とあるように、人類の兄弟愛を大切にしている。
以上がストア主義から学んだ生きるための技術である。本書はこれだけに留まらず、読む人それぞれに合った生きる技術を提供してくれるだろう。