井伏鱒二著『ジョン万次郎漂流記』を読み終え、同じような体験をした吉村昭著『アメリカ彦蔵』(1999年刊行)を読むことにした。
本書のあとがきで吉村さんは、「この小説は彦蔵を主人公にしてはいるが、漂流民のことを書くものである」と書いていた。
彦蔵の資料は多くあるが、「名もなき数十人の漂流民の一人一人を調査に力を傾けたが、それが容易ではなく、今までこれほど手こずったことはない」とも記していた。
評者は、これほど多く漂流民が存在したことを知り、何故だろうと疑問を持ってしまったのです。
その理由のひとつが、幕府の「大船建造の禁」にあり、外洋向きの船がなかったことにあるだろうと思った。
海外の船は甲板があるから「樽」に例えるなら、和船は甲板はないから「桶」のように造船されていて、大波にたいして脆弱な構造であった。
漂流民が多く救助されたのは、十九世紀になって鯨油の需要が多くなり、アメリカの捕鯨船が多く日本近海で活動していたこのに起因するのだろう。
彦蔵は寺子屋で二年ほど手習いをしただけの少年だったが、出会ったアメリカ人たちに好かれた。
聡明で素直な気質が好かれる要因だったのだろう。
出会った何人ものアメリカ人も彦蔵には幸運だったようである。
もっとも世話になっいたのがサンダースという人であり、彦蔵は父親のように慕っていた。
世話になったサンダースとワシントンに行った折に、第14代大統領フランクリン・ピアースを彦蔵を紹介し、彦蔵は大統領と握手している。
例外的な人物としてあげるなら上院議員のウィリアム・エム・グウィンだろう。
国務省の秘書としてグウィンが推薦するからとワシントンまで彦蔵を連れて行くことになったが、グウィンの飾もの的に扱われれただけで彦蔵は嫌気がさしてサンフランシスコへ帰ることにした。
グウィンは自慢するためだけに彦蔵を連れてホワイトハウスへ行き、第15代大統領ジェームズ・ブキャナンに紹介されて彦蔵は大統領と握手した。
彦蔵はアメリカ大統領と握手したのは二度目であった。
大富豪のグウィンが彦蔵の給料から買い与えた服や靴や食事代を差し引き、たった20ドルだけ彦蔵に渡したので、こんなアメリカ人もいるのだと彦蔵は驚いている。
サンダース夫人の勧めで洗礼を受けた彦蔵は、洗礼が日本へ帰国する障害となり、アメリカ国籍を受けることにした。
オールコックの勧めで日本総領事の通訳になり帰国した彦蔵は、攘夷の吹き荒れる血生臭い日本で過ごす危険を避けるため再びアメリカに行くことにしてサンフランシスコに着いた。
リード氏の勧めでアメリカ軍艦の倉庫補給監理官の任命を受けて正式なアメリカ官吏になったらどうか、とサンフランシスコのケリー氏に相談すると良いとアドバイスした。
昔親身になって世話になったケリー氏の事務所を訪れた彦蔵は、ケリー氏の手配で推薦状を持って南北戦争の中ワシントンへ向う。
ボルチモアのサンダース宅を訪れ、サンダース夫婦を喜ばせた。
ワシントンに行くが南北戦争で日本に軍艦が行くこともなく監理官の任命は出来ないが、神奈川領事館付通訳官に任命されたのはシーワド国務長官の計らいだった。
シーワドは、帰国する彦蔵に、第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンに会わせてくれた。
リンカーン大統領は優しい目をして「日本のような遠い地からよく来ましたね」と言いながら彦蔵と握手した。
幕末から明治という激動する日本の姿を縦軸でなくアメリカ彦蔵の眼で横軸で見ることができた本書は、吉村昭さんの徹底的な取材と資料を漁る実録として傑作中の傑作だと思いながら550頁の大作を感慨深く読み終えました。
<追記>
咸臨丸がアメリカへ向う送別の折に、ジョン万次郎とアメリカ彦蔵とが会話を交わしていることも本書で知ることが出来た。
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アメリカ彦蔵 (新潮文庫) 文庫 – 2001/7/30
吉村 昭
(著)
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嘉永三年、十三歳の彦太郎(のちの彦蔵)は船乗りとして初航海で破船漂流する。アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策により帰国を阻まれ、やむなく渡米する。多くの米国人の知己を得た彦蔵は、洗礼を受け米国に帰化。そして遂に通訳として九年ぶりに故国に帰還し、日米外交の前線に立つ──。ひとりの船乗りの数奇な運命から、幕末期の日米二国を照らし出す歴史小説の金字塔。
- 本の長さ576ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2001/7/30
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101117411
- ISBN-13978-4101117416
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- 出版社 : 新潮社 (2001/7/30)
- 発売日 : 2001/7/30
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 576ページ
- ISBN-10 : 4101117411
- ISBN-13 : 978-4101117416
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
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2020年2月6日に日本でレビュー済み
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このような人物がいたことは知りませんでした。
2024年4月13日に日本でレビュー済み
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漂流だけでも激動なのに
アメリカから幕末激動の日本に帰ってきた
彦蔵、奇跡と激動の人生物語、素晴らしかったです
アメリカから幕末激動の日本に帰ってきた
彦蔵、奇跡と激動の人生物語、素晴らしかったです
2022年10月11日に日本でレビュー済み
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本当にこんな人がいたのかと驚き、彦蔵の人間力にもまた驚かされます。読み応えのある素晴らしい本です。
2015年4月24日に日本でレビュー済み
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本書ではいろんな漂流者が出てきます。ジョン万次郎も少しだけ出てきます。不幸な漂流者は後世に名を残すこともなかったが、13歳で漂流者となった船乗りの子、彦太郎(後の彦蔵)はその幸運と本人の努力の甲斐もあってアメリカ人に大切にされました。
三人のアメリカ大統領と面会したり、南北戦争に遭遇したり、戊辰戦争でグラバーとともに活動したりしています。
幕末の著名人(坂本龍馬や西郷隆盛など)とはちがって、漂流さえしなければ絶対に表舞台には出てこなかったはずの船乗りの子の物語もおもしろいですね。
それにしてもアメリカに連れてこられたたくさんの清国人はゴールドラッシュのためだったのでしょうか?
奴隷として連れてこられたとは書かれていませんが。
三人のアメリカ大統領と面会したり、南北戦争に遭遇したり、戊辰戦争でグラバーとともに活動したりしています。
幕末の著名人(坂本龍馬や西郷隆盛など)とはちがって、漂流さえしなければ絶対に表舞台には出てこなかったはずの船乗りの子の物語もおもしろいですね。
それにしてもアメリカに連れてこられたたくさんの清国人はゴールドラッシュのためだったのでしょうか?
奴隷として連れてこられたとは書かれていませんが。
2020年12月7日に日本でレビュー済み
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前半は13歳の彦蔵が漂流者として生死をさまよう様が克明に描かれて時間を忘れて読めた。後半は通訳者として日本に帰国するも、自分がアメリカ人なのか日本人なのか苦悩する旨は、まさに日系人や帰国子女が悩むIdentity Crisisを地で行くものであり、自身の体験ともオーバーラップして共感するところが多かった。名著です。
2014年8月23日に日本でレビュー済み
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アメリカ人は、総じて善人(慈悲の心厚い)であり、攘夷に猛り時流に流される日本人は、狂人(外国人&日本人の通訳を殺害)的な構図になっているが、『東の太陽、西の新月―日本・トルコ友好秘話「エルトゥールル号」事件』を読むと、日本人も捨てたもんじゃないよねって気になる。
英語に通じていることで重宝がられたが、冷静に考えてみると多くの外国人と日本人に利用されて生きてきただけのことで、自分が今でも坊主船に乗って漂い流れているような気がする(543P)とあるが、彦蔵(ジョセフ・ヒコ)の功績は大きい(幕末という時期だけに)。
日本に帰国することを熱望しながらも、出来なかった(幕府の政策により)漂流民にも、語られなくとも、そこには、様々なドラマがある。
明治も、時が経つにつれ、外国文化に冒され(毒され)、日本古来の文化・伝統を忘れ去っていく所は、物悲しさを感じる。
英語に通じていることで重宝がられたが、冷静に考えてみると多くの外国人と日本人に利用されて生きてきただけのことで、自分が今でも坊主船に乗って漂い流れているような気がする(543P)とあるが、彦蔵(ジョセフ・ヒコ)の功績は大きい(幕末という時期だけに)。
日本に帰国することを熱望しながらも、出来なかった(幕府の政策により)漂流民にも、語られなくとも、そこには、様々なドラマがある。
明治も、時が経つにつれ、外国文化に冒され(毒され)、日本古来の文化・伝統を忘れ去っていく所は、物悲しさを感じる。
2020年6月15日に日本でレビュー済み
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南北戦争、明治維新の両方を体験した唯一の日本人の壮大な叙事詩。
吉村昭の漂流も是非読んでほしい。
吉村昭の漂流も是非読んでほしい。