サミュエル・ジョンソンは18世紀イギリス文学の大御所と呼ばれていて、特にボズウェルの書いた『サミュエル・ジョンソン伝』においてその名を馳せている。その彼が書いた唯一の小説がこの『幸福の探求』或いは『ラセラス』である。
『サミュエル・ジョンソン伝』において世界で幸福な人間は誰もいない、という趣旨の言葉を残しているが、その具体的な考察がここでなされている。そしてそのこともあり、この作品は確かに小説という体は為しているものの、物語的な動というものはあまりなく、エッセイ的なもの、あるいは教訓的なものという要素を持つ。
栄耀栄華な生活を送っていた王子が、その豪奢な生活に飽き、世間にでてその実態を見ようと、付き人と妹の姫とともに世間を回るが、結局会う人会う人、皆幸福ではない。性欲に耽っている人は勿論のこと、牧師、隠遁者、学者、宮廷貴族、家族、どれもこれも悩みを持っているというのである。ショーペンハウアー的な哲学が大いに取り込まれているものである、といえよう(こちらの方が書かれているのが先だが)。
私はショーペンハウアーの作品はかなり読み込んだのだが、それと関連してこの作品もかなり気に入っている。夏目漱石はあまりこの作品を評価していなかったみたいだが、描かれる人物の悩みというものは現実においても大いにあるだろうと考えられ、突飛なもの、正鵠を外しているものは見当たらない。王子や姫が提起する疑問点もレベルが高いし、それに対する描写もかなりうまい。
現代社会においてもこの作品において描かれている要素は大いにあてはまるもの、と考えれる。この前ネット上において仕事をやめたいと感じている人間が全体の7割である、と公表されたが、やはり幸福な人間というものは全くいないとはいかないにしても、かなり珍しいであろう。そのため本作は他人事ではない。そして本作の最大の欠点は、ではどうすれば幸福になるのか、ということが結局は示されなかったことにあるのではなかろうか。
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幸福の探求――アビシニアの王子ラセラスの物語 (岩波文庫) 文庫 – 2011/5/18
サミュエル・ジョンソン
(著),
朱牟田 夏雄
(翻訳)
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世間の波風の及ばない桃源郷のような〈幸いの谷〉で過ごす王子ラセラスは倦怠感を覚え、外の世界に憧れる。王子は妹ネカヤアらとともに谷を脱出し、広い世間に出てさまざまな人びとに出会い、真の幸福を探すのだが……。ボズウェルによる伝記でその名を知られる18世紀英国の傑物ジョンソン博士(1709-1784)が書いた唯一の小説。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2011/5/18
- ISBN-104003221443
- ISBN-13978-4003221440
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2011/5/18)
- 発売日 : 2011/5/18
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 256ページ
- ISBN-10 : 4003221443
- ISBN-13 : 978-4003221440
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上位レビュー、対象国: 日本
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2011年6月17日に日本でレビュー済み
サミュエル・ジョンソン唯一の小説だということで、
名ばかりは聞いていたので、手にとってみた。
何の不満も感じさせ得ないような桃源郷に住むラセラス王子が、
倦怠感を覚え、外界に強く思いを抱いて、従者たちを連れて、
旅行、見聞に行くというもの。
最初の頃の章では、期待させられるものがあり、若干の相望感がある。
こういうユートピアからの逸脱、ファンタジー的な要素を取り込んだ、
王子の冒険談というのは期待するところが大きい。
しかし、章が短すぎ、起こることが予定調和的で、「譚」にならない。
訪れるのもエジプト周辺で、幅がなく、なによりも、
「身体を動かして物事にあたる」という所作の描写が非常に乏しく、
いつの間にか事を成しているといった趣だ。
何より若い読者には感銘を与えることができると期待したい、
哲学、倫理、道徳観がお決まり過ぎていて、ひねりも毒気もなく、
登場人物たちがそれぞれ観念的に思考してしまっている。
このため、飛ばし読みという禁じてを使われる読者が多いと推測される。
漱石は「文にも論にも、さう敬服するものでもないが」と述べたそうだが、
この感想は素人でもわかる。
ジョンソンは小説にあらず、人柄に大いにある人物だそうで、
書簡文や評伝に大いに評価されているようである。
今回、この唯一の小説が岩波文庫に登場したのは、ひとえに岩波文庫コレクションの
一環としか見ることができないばかりか、
幅の広い読者が小説を楽しむ、ジョンソン初入門、とするには、
ちょっと、失望の方が大きいように思われる。
マニア、研究者、コレクターとして意義を求める人たちにしてみれば、本棚に収まり、
普通の感覚からしてみれば、古本屋行きが見えてくる。
近年、岩波は改版をされているので、もっと重要作品を順次手がけてくれることを強く望む。
名ばかりは聞いていたので、手にとってみた。
何の不満も感じさせ得ないような桃源郷に住むラセラス王子が、
倦怠感を覚え、外界に強く思いを抱いて、従者たちを連れて、
旅行、見聞に行くというもの。
最初の頃の章では、期待させられるものがあり、若干の相望感がある。
こういうユートピアからの逸脱、ファンタジー的な要素を取り込んだ、
王子の冒険談というのは期待するところが大きい。
しかし、章が短すぎ、起こることが予定調和的で、「譚」にならない。
訪れるのもエジプト周辺で、幅がなく、なによりも、
「身体を動かして物事にあたる」という所作の描写が非常に乏しく、
いつの間にか事を成しているといった趣だ。
何より若い読者には感銘を与えることができると期待したい、
哲学、倫理、道徳観がお決まり過ぎていて、ひねりも毒気もなく、
登場人物たちがそれぞれ観念的に思考してしまっている。
このため、飛ばし読みという禁じてを使われる読者が多いと推測される。
漱石は「文にも論にも、さう敬服するものでもないが」と述べたそうだが、
この感想は素人でもわかる。
ジョンソンは小説にあらず、人柄に大いにある人物だそうで、
書簡文や評伝に大いに評価されているようである。
今回、この唯一の小説が岩波文庫に登場したのは、ひとえに岩波文庫コレクションの
一環としか見ることができないばかりか、
幅の広い読者が小説を楽しむ、ジョンソン初入門、とするには、
ちょっと、失望の方が大きいように思われる。
マニア、研究者、コレクターとして意義を求める人たちにしてみれば、本棚に収まり、
普通の感覚からしてみれば、古本屋行きが見えてくる。
近年、岩波は改版をされているので、もっと重要作品を順次手がけてくれることを強く望む。
2014年1月9日に日本でレビュー済み
(星評価については常々変化するもの、あくまで読者の立場でしかないとのと考えから全て'5にしています。その点を含めて、ご参考ください)
ロンドンにあるドクター・ジョンソンズ・ハウスを訪れ、初めて手に取った1冊。
文章の構成は流れがなく私には読みづらかったが、短章のため読みこなすことが出来た。(これは日本語訳に拠るものか、作者が『英語辞典』編集者に拠るものかは不明。)
内容としては、金の価値観、人間の自己顕示欲の愚かさなどを提示し、理想とする方向性を問いかけているように感じられた。例えば、王女のお気に入りがピラミッドで誘拐された先での出来事について語る場面で、女たちが服装や食事の話ばかりするのを視野が狭くつまらないと感じる所があった。英国教育を受けた人達が根底に持つ異国民への姿勢や豊かな生き方などを指南しているかのようであった。これらが西洋哲学の一部と考えると読んでいても興味深い1冊だった。
ロンドンにあるドクター・ジョンソンズ・ハウスを訪れ、初めて手に取った1冊。
文章の構成は流れがなく私には読みづらかったが、短章のため読みこなすことが出来た。(これは日本語訳に拠るものか、作者が『英語辞典』編集者に拠るものかは不明。)
内容としては、金の価値観、人間の自己顕示欲の愚かさなどを提示し、理想とする方向性を問いかけているように感じられた。例えば、王女のお気に入りがピラミッドで誘拐された先での出来事について語る場面で、女たちが服装や食事の話ばかりするのを視野が狭くつまらないと感じる所があった。英国教育を受けた人達が根底に持つ異国民への姿勢や豊かな生き方などを指南しているかのようであった。これらが西洋哲学の一部と考えると読んでいても興味深い1冊だった。
2012年2月22日に日本でレビュー済み
ものすごく面白かったです。ジェイン・オースティンが「私はジョンソン博士のように概念をあつかっているんです」と自分の作品について述べているというのを知り読み始めましたが、本当にオースティンの作品に書かれているようなことがたくさん載っています。
表現が難しく(日本語訳がではなく、もともとの表現が難しいのだと思います、日本語はとてもよく訳されています)何度も同じ箇所を読み返しながら進んだので時間がかかりましたが、アビシニア(エチオピア)の何不自由ない王子が、幸せってなんだろう?どこに行けばあるんだろう?といろんな人を訪ねて質問します。
でも・・・みんな不満があるんですよね。みんなそれぞれに「ああすれば自分の人生ちがっていたかも」なんて過去を振り返るのです。
私が興味深かった場面は、町の皆が楽しそうに振舞っているので王子もそこにいって楽しげに語り合うけれども、実はちっとも楽しくない、じぶんの孤独を紛らわすためにあの連中とつきあっているのだ・・とつぶやく場面です。一緒についてきた詩人が「実は皆も同じで、孤独を紛らわすために楽しげに振舞っているとは考えないのですか?」と質問します。自分だけが寂しい、自分だけみんなと違う、みんな幸せそうだ・・なんていうのは、意外とそれぞれが悩んでいることかもしれない、ふっと物事から離れて冷静になる必要を教えてくれます。さすが教訓小説です。
最後の結末も、これが人生だなぁ・・としみじみ納得しました。
オースティンの作品のあの言葉は、この作品のここかも?などと考えるのが楽しかったです。岩波文庫は時々翻訳が難しいのですが、この翻訳は古いにもかかわらず分かりやすい日本語でした。解説も読み応えがあります。
表現が難しく(日本語訳がではなく、もともとの表現が難しいのだと思います、日本語はとてもよく訳されています)何度も同じ箇所を読み返しながら進んだので時間がかかりましたが、アビシニア(エチオピア)の何不自由ない王子が、幸せってなんだろう?どこに行けばあるんだろう?といろんな人を訪ねて質問します。
でも・・・みんな不満があるんですよね。みんなそれぞれに「ああすれば自分の人生ちがっていたかも」なんて過去を振り返るのです。
私が興味深かった場面は、町の皆が楽しそうに振舞っているので王子もそこにいって楽しげに語り合うけれども、実はちっとも楽しくない、じぶんの孤独を紛らわすためにあの連中とつきあっているのだ・・とつぶやく場面です。一緒についてきた詩人が「実は皆も同じで、孤独を紛らわすために楽しげに振舞っているとは考えないのですか?」と質問します。自分だけが寂しい、自分だけみんなと違う、みんな幸せそうだ・・なんていうのは、意外とそれぞれが悩んでいることかもしれない、ふっと物事から離れて冷静になる必要を教えてくれます。さすが教訓小説です。
最後の結末も、これが人生だなぁ・・としみじみ納得しました。
オースティンの作品のあの言葉は、この作品のここかも?などと考えるのが楽しかったです。岩波文庫は時々翻訳が難しいのですが、この翻訳は古いにもかかわらず分かりやすい日本語でした。解説も読み応えがあります。
2012年2月9日に日本でレビュー済み
ジェーン・オースティンも愛読した博覧強記のサミュエル・ジョンソン50歳の作品。人生の真理を追究する王子の旅の物語だが、家族、結婚、仕事、学問、生と死に関する考察は、今の時代においても新鮮な印象を受ける。人生の岐路に立った時、あるいは人生の先が見えた中年以上の人々にとっても、自分自身を見つめなおす手引書となるのではないだろうか。