本書は、シンガポールの全体像を伝えようとする入門書である。
このシリーズは、数ページごとにテーマを決めて書く形式なので、知りたいところだけつまみ食いで読むことができる一方、全体通しての視点というのは弱めである(編者がどういう章を設けるか、というところで制御はできるが、複数執筆者の分担なので、長い紙面を割いて議論するということはできない)。読者各自が知りたいトピックスを知る、という点から見れば、本書の形式はメリットの方が大きいだろう。
ガイドブックにも出ていそうな文化の話、ビジネス書で出てくる経済の話だけでなく、政治や社会情勢(格差とか住宅政策とか)が出ているのが良い点である。
シンガポールの8割はHDB団地という公共団地に住んでいる(99年リースの形で購入するしかない)。土地収用法があり、開発は国家がほぼ自由に行えるので、ある意味で柔軟な開発が行われてきた(ただし最近では若者による反対運動なども起きるようになっている)。
文化面で興味深いのは、民族ごとに細かく分かれた政策をとる(行く学校も違う)点であろうか。民族の差異は貧富の格差にもつながっている。公共団地ではない、高級住宅に住める人の割合は民族でかなり違う。団地は棟のレベルで民族多様性が保たれるように政府が制御している。
教育は、すべての人の能力を引き出せるよう、公的レベルでかなり充実しており、また貧しい人には奨学金なども手厚い(とはいえ、富裕層は保育園の時点でいい場所に預けて差をつけたりしている)。建前上「頑張ればだれでも成功できる」であり、そのためセーフティーネット、社会福祉は非常に薄い。ジニ係数もかなり高い水準にある。介護については「家族が面倒を見る」が原則とされており、老人ホームなどに預けるのは極めて限定的である。
少子高齢化が進む中、こうした状況を支えているのは海外からの出稼ぎ労働者である。最低賃金などの労働保障はなく、格安でこき使われている移民は多い。格安の外国人家事労働者に家事育児介護を委ねる家庭も多い。こうした人たちは雇い主の家に住み込んで働き、雇い主の意向に大きく左右される極めて不安定な身分で、虐待・性的暴行なども頻発して問題となった。女性の社会進出を支える裏で、このような問題を抱えていることは、きちんと見ておく必要があるだろう。
一点だけ気になったのは、宗主国イギリスの話題を徹底して避けているように感じられる点である。
わずか3年の日本統治時代については、前後の時期も含めると3章も割いて批判的に記述しているのに対し、日本撤退後も再び戻ってきて居座り、150年近く続いたイギリスの植民地支配時代について(ラッフルズに触れる傍らで背景として出てはいるが)1章も割り当てられておらず、批判といえる批判もわずかしかないのは、かなり違和感がある構成である。日本を貶めたいという意図があるわけでないのならば、よほどイギリスの悪は隠蔽したいのだと勘繰られても仕方がないように思える。
最後の点だけは気になったが、全体としてはシンガポールについて、ガイドブック的ではなく知るのに格好の一冊だと思う。
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シンガポールを知るための65章【第5版】 エリア・スタディーズ17 Kindle版
国際的にも重要な地位を占めるに至った小さな都市国家シンガポール。本書は、日本の第一線で活躍する研究者をはじめとする、知見も経験も豊富な執筆者によって紹介する、絶好のシンガポール入門書。コロナ禍での経済危機、ロックダウン等、最新の状況も収録。
- 言語日本語
- 出版社明石書店
- 発売日2022/3/10
- ファイルサイズ55102 KB
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商品の説明
著者について
北九州市立大学法学部政策科学科教授(国際関係論、東南アジア地域研究専攻)
国際関係学(修士)、法学(博士)
[主要業績]
『多民族国家シンガポールの政治と言語――「消滅」した南洋大学の25年』(明石書店、2013年)
『シンガポールの基礎知識――アジアの基礎知識2』(めこん、2016年)
『東南アジアのNGOとジェンダー』(明石書店、2004年〔共編著〕)
『現代アジア研究第1巻―越境』(慶應義塾大学出版会、2008年〔共編著〕)
『日本の国際政治学第3巻―地域から見た国際政治』(有斐閣、2009年〔共著〕)
『謎解き散歩シンガポール』(KADOKAWA、2014年〔本田智津絵との共著〕)
『東南アジア現代政治入門(改訂版)』(ミネルヴァ書房、2018年〔共編著〕)
『マラッカ海峡――シンガポール、マレーシア、インドネシアの国境を行く』(北海道大学出版会、2018年〔編著〕)
『20世紀の東アジア史 III 各国史(2)東南アジア』(東京大学出版会、2020…
国際関係学(修士)、法学(博士)
[主要業績]
『多民族国家シンガポールの政治と言語――「消滅」した南洋大学の25年』(明石書店、2013年)
『シンガポールの基礎知識――アジアの基礎知識2』(めこん、2016年)
『東南アジアのNGOとジェンダー』(明石書店、2004年〔共編著〕)
『現代アジア研究第1巻―越境』(慶應義塾大学出版会、2008年〔共編著〕)
『日本の国際政治学第3巻―地域から見た国際政治』(有斐閣、2009年〔共著〕)
『謎解き散歩シンガポール』(KADOKAWA、2014年〔本田智津絵との共著〕)
『東南アジア現代政治入門(改訂版)』(ミネルヴァ書房、2018年〔共編著〕)
『マラッカ海峡――シンガポール、マレーシア、インドネシアの国境を行く』(北海道大学出版会、2018年〔編著〕)
『20世紀の東アジア史 III 各国史(2)東南アジア』(東京大学出版会、2020…
登録情報
- ASIN : B09XQ5XSFK
- 出版社 : 明石書店; 第5版 (2022/3/10)
- 発売日 : 2022/3/10
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 55102 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 449ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 61,055位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 3,711位社会・政治 (Kindleストア)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年3月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
長期滞在が決まったタイミングで購入。
日本人として知っておくべき歴史や住む上で役立つローカルな情報まで、盛りだくさんの本です。ボリュームはあるので時間に余裕がある時に一気に読むと良いのでは?と思います。
また、コロナ後の最新の情報が載っていることもあり、かなり信頼できる資料です。
日本人として知っておくべき歴史や住む上で役立つローカルな情報まで、盛りだくさんの本です。ボリュームはあるので時間に余裕がある時に一気に読むと良いのでは?と思います。
また、コロナ後の最新の情報が載っていることもあり、かなり信頼できる資料です。
2022年11月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
政治経済の形を「堅苦しく」キチンとレポートしている。
読む気が無くなるのがマイナスポイント。せっかくよく調べてるのに読ませる気がないのはなあ。学者の書き方。
読む気が無くなるのがマイナスポイント。せっかくよく調べてるのに読ませる気がないのはなあ。学者の書き方。
2021年12月18日に日本でレビュー済み
本書は65のテーマに対して、有識者が分担執筆していますので、情報の深さと、記述の広がりにおいて、確かな記載が続きます。第5版とあるように、ベースの著作の良さを残しながら、常に最新の情報を盛り込んで改訂されているからこそ、記載情報に信頼がおけるのです。版を重ねること自体が品質保証ですね。
シンガポールの歴史や文化、風土や社会、ビジネスなど、ありきたりのガイドブックでは到底書かれていない深さが本書の特徴でしょう。逆に言えば、そこまで詳しく知る必要の無い方には本書は少し難しく感じさせるほどの情報量を披露していました。
一般的なガイドブックですと、表層的な知識やお土産もの、買い物、グルメの情報が多く占めます。その一方で、大切な政治、社会、経済などの背景の歴史はあまり触れられていませんので、物足りなく感じていました。本書はその点、圧倒的な深さと広がりを持っており、シンガポールという国を知る上で最適な書籍ではないでしょうか。
親戚家族がシンガポールに住み、5年間勤務してきました。政治・経済・文化・社会などの幅広い分野でのシンガポールの姿を知りたいと思い、本書を読了しました。
何時の日にか、シンガポールを再訪したいと思っています。コロナ禍でなかなかその思いは果たせませんが。
第12章の「食文化」にまず関心を持ちました。68ページあたりに詳しく記載してありますが、華人のメニューやマレー料理、南インド料理や北インド料理など、多彩な味覚を楽しめます。物価も現時点の相場に改訂されていますし、コロナ禍での感染予防対策にも言及されていました。
全体の中では、第14章「言語と階層」、第26章「シンガポールで働く日本人」、第42章「対日関係」などを知ることで、赴任していた親戚の生活のイメージが掴めました。ガイドブックでは到底知ることのできない奥深さです。
忘れてはいけない人物「リー・クアンユー」「リー・シェンロン」についてもその生涯を簡単に理解できたわけで、類書にない事典的な使用も可能でした。
シンガポールの歴史や文化、風土や社会、ビジネスなど、ありきたりのガイドブックでは到底書かれていない深さが本書の特徴でしょう。逆に言えば、そこまで詳しく知る必要の無い方には本書は少し難しく感じさせるほどの情報量を披露していました。
一般的なガイドブックですと、表層的な知識やお土産もの、買い物、グルメの情報が多く占めます。その一方で、大切な政治、社会、経済などの背景の歴史はあまり触れられていませんので、物足りなく感じていました。本書はその点、圧倒的な深さと広がりを持っており、シンガポールという国を知る上で最適な書籍ではないでしょうか。
親戚家族がシンガポールに住み、5年間勤務してきました。政治・経済・文化・社会などの幅広い分野でのシンガポールの姿を知りたいと思い、本書を読了しました。
何時の日にか、シンガポールを再訪したいと思っています。コロナ禍でなかなかその思いは果たせませんが。
第12章の「食文化」にまず関心を持ちました。68ページあたりに詳しく記載してありますが、華人のメニューやマレー料理、南インド料理や北インド料理など、多彩な味覚を楽しめます。物価も現時点の相場に改訂されていますし、コロナ禍での感染予防対策にも言及されていました。
全体の中では、第14章「言語と階層」、第26章「シンガポールで働く日本人」、第42章「対日関係」などを知ることで、赴任していた親戚の生活のイメージが掴めました。ガイドブックでは到底知ることのできない奥深さです。
忘れてはいけない人物「リー・クアンユー」「リー・シェンロン」についてもその生涯を簡単に理解できたわけで、類書にない事典的な使用も可能でした。
2021年11月15日に日本でレビュー済み
2016年に上梓された「第4版」の改訂版が、この2021年10月に登場の「第5版」。最新刊らしく、新型コロナウイルスに関連するトピックも少なからず登場する。今回「第4版」と比較しながら読んだわけではないので、「第5版」でどの程度の改定がなされたのかを具体的に指摘はできないが、歴史や社会や外交や産業といった基本的な部分は同じと思えるし、読んだ印象・感想も「第4版」と共通する事柄が多い。私は「第4版」にもレビューを書いているので、その内容とダブる事を再度ここで述べる事は避ける。
この「第5版」で最も興味深かったのは、「政治」をとり上げた第6部。「観光地」としてのシンガポールしか知らない多くの日本人は、この国に対して「開放的でリベラル」なイメージを持つ人が少なくないだろう。しかし実際にはこの国は独立以来、人民行動党(PAP)のほぼ一党独裁と言って良い状態にあり、野党が国会で議席を確保する事自体が容易ではなかった。また、今でもシンガポールのメディアは政府の厳しい規制の下にあり、日本でも親しまれている新聞「ストレイト・タイムズ」やTV局「CNA」も例外ではない。結果、政府批判や政府に都合の悪い報道を報道機関自体が自粛する状態になり(P.146)、2021年の「報道の自由度ランキング」でシンガポールは世界180か国中なんと160位という不名誉な位置にある(P.147)。この国が「独裁国家」である事は、1965年生まれという若い国家が短期間で世界の主要国の地位を確保するのに有利に働いた事は確かで(そのあたりの事情も本書では詳しく述べられている)、私たち日本人が外野からその「良し悪し」を単純に判定できる事柄ではない。ただ、独立から60年近くが経ち、この国も「成熟国家」になりつつあって、一昔前のような昇竜の勢いが失われつつある。「俺たちの国、今までのままで良いの?」という危機感と疑問がシンガポールの人々の間で芽生え始めているようなのだ。
結びの第65章「2020年総選挙」では、これまで鉄壁を誇ってきたPAPの一党独裁体制のほころびが読み取れる。かつては国会の全議席を独占した事もあるPAPが、この選挙では得票率を10%近く落とし、代わりに野党の労働者党(WP)が計10議席を得るという快進撃をした(P.324)のである。この結果には私自身も非常に驚いたが、長きに亘って「野党の存在」など全く歯牙にもかけなかった(そんな必要もなかった)PAPが、この「衝撃的」な結果を受けて何かしらの変化を見せるのか否かは、シンガポールの今後を占う要素の一つとして要注目のポイントだろう。
長年「成長」のほとんど見られない日本を尻目に発展を続け、2007年には1人あたりGDPで日本を抜き去ったばかりか、今や2万ドル以上の差をつけている(P.52)シンガポール。しかし、順風満帆に思えたこの国にも今や様々な「壁」が立ちはだかっている事を感ずる。単なる「観光ガイドブック」的な切り口に飽き足らず、この国の「今まで」と「これから」を多面的に知りたいという方に、ぜひご一読をお勧めしたい刺激的で優れた1冊である。
この「第5版」で最も興味深かったのは、「政治」をとり上げた第6部。「観光地」としてのシンガポールしか知らない多くの日本人は、この国に対して「開放的でリベラル」なイメージを持つ人が少なくないだろう。しかし実際にはこの国は独立以来、人民行動党(PAP)のほぼ一党独裁と言って良い状態にあり、野党が国会で議席を確保する事自体が容易ではなかった。また、今でもシンガポールのメディアは政府の厳しい規制の下にあり、日本でも親しまれている新聞「ストレイト・タイムズ」やTV局「CNA」も例外ではない。結果、政府批判や政府に都合の悪い報道を報道機関自体が自粛する状態になり(P.146)、2021年の「報道の自由度ランキング」でシンガポールは世界180か国中なんと160位という不名誉な位置にある(P.147)。この国が「独裁国家」である事は、1965年生まれという若い国家が短期間で世界の主要国の地位を確保するのに有利に働いた事は確かで(そのあたりの事情も本書では詳しく述べられている)、私たち日本人が外野からその「良し悪し」を単純に判定できる事柄ではない。ただ、独立から60年近くが経ち、この国も「成熟国家」になりつつあって、一昔前のような昇竜の勢いが失われつつある。「俺たちの国、今までのままで良いの?」という危機感と疑問がシンガポールの人々の間で芽生え始めているようなのだ。
結びの第65章「2020年総選挙」では、これまで鉄壁を誇ってきたPAPの一党独裁体制のほころびが読み取れる。かつては国会の全議席を独占した事もあるPAPが、この選挙では得票率を10%近く落とし、代わりに野党の労働者党(WP)が計10議席を得るという快進撃をした(P.324)のである。この結果には私自身も非常に驚いたが、長きに亘って「野党の存在」など全く歯牙にもかけなかった(そんな必要もなかった)PAPが、この「衝撃的」な結果を受けて何かしらの変化を見せるのか否かは、シンガポールの今後を占う要素の一つとして要注目のポイントだろう。
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