設定されたテーマ、レトリックの巧みさ、最後まで余すところなく書ききる筆力、どれをとっても一級品だった。特に前評判なども知らず、偶然目についたから買ったに過ぎないけれど、出会えてよかったと思う。
小説の良さは、このサハマンションのような「普段の生活からかけ離れた暮らし」に、瞬時に飛ばしてくれるところだと思う。その非日常的な時間こそが、人としての深みや未知の物事に対する想像力を育むんだろう。特に私たち日本人なんかは、ある程度衣食住も保証されていて、なおかつこのレビューを読んでるような人々はアマゾンで本を買おうかどうか悩むぐらいの余裕がある。そんな暮らしをしている私たちが読むサハマンションは、より一層磨きがかかる。
人には言えない様々な事情を抱えた人々が、逃げ込むように集まったサハマンション。そこでの暮らしぶりを描いた本作では、言いようのない救いの無さと、それでも救いを目指す希望の芽が共生する。
「ディストピアの底辺で助け合うことで、ユートピアを模索することは可能か」と帯に書いてあったが、まさにこの物語だった。
持たざるものは幸せになれるのか？
良心を社会は認めるか？
二人だけの恋愛を世界は許すか？
様々な価値観をマンションという集合住宅に住む人々それぞれに担わせ、一つの物語として書ききった著者の筆力は、信じられる。
活字離れが叫ばれて久しい。
小説を始めとした長い文章をそもそも読むことすらできないという人が増えているのは、とても残念だなあと強く思う。もったいない。
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