宮城県の片田舎で悪い虫に取り憑かれてしまった少女たちの事件を解決するべく奔走するイケてない男子&女子の右往左往物語、第二巻。
物語の方はテスト休み期間に入ったにも関わらず高校に追試を受けに来た羽汰が幼馴染の瀬川相手に卑屈その物の態度で接している場面から。幼馴染と対等な関係で在りたいと願う瀬川を「瀬川はクラスメイトみんなを友だち扱いするタイプだろ」の一言でキレさせた羽汰だったが、同じクラスの冴えないぼっち組だと思っていた姫宮が美術部の顧問・犬山から入部の誘いを受けたと聞いて仰天。更には自分の知らない所で源朱里という不思議な同級生と付き合い始めたと聞いていつしか疎外感を覚える様に……
虫憑きという「変化球」を切り口にしているとはいえ、やっている事は「等身大の思春期群像を描く」といういかにもガガガ文庫らしい作品だな、というのが読み終えての第一印象。その上で今回は「自分の人生を生きる」というテーマにフォーカスしてきた感じだっただろうか?
構成の方は短編3本からなる短編連作形式。ただし、プロローグでヒロインの姫宮が遭遇した展望台で一人星を見る少女・源朱里を全てのエピソードに絡めてくるという工夫を凝らしている。
上にも書いた通り虫憑きというフックは用意してあるのだけど、描かれているのは非常にオーソドックスな、なんとなればNHKで昔放送していた「中学生日記」並みに等身大の思春期に他ならない。異様なフェロモンで周りの男子を魅了して止まず、その結果男子だけでなく女子の感情すら乱し、自らの孤立化を招く羽目に陥った若菜や女子サッカー部の期待の星ながらも何故かプレーの途中で起きる唐突な気力の喪失現象に悩まされる蜂谷とその個人マネージャーの畝木。
確かに怪現象は起きるのだけど、事件解決に取り組んだ羽汰や姫宮を通じて読者が目にするのは浮く事を恐れるが故にクラスの中心的な女子グループに混ざりながらも本心では「個性を認めて欲しい」と願う若菜の渇望であったり、チームメイトであった中学時代の負傷が発端の期待と不安が入り混じった事からある種の共依存的関係に陥ってしまった蜂谷と畝木の捻じれた関係であったりと実に「どこにでも・誰にでもあり得る話」なのである。その意味においては極端な「ぼっち」や「リア充」といったキャラ付けを施した登場人物が中心となるガガガ文庫から刊行される他の青春モノと比べてもより等身大性を強調した作風になっている。
その等身大性がより強調されるのは三本目のプロローグに出てきた少女・朱里を巡るエピソードであろうかと。この話、確かに中心にいるのは朱里ではあるのだけど同時に羽汰と姫宮という「似た物同士」と思われた二人に決定的な差がある事を読者に示す展開にもなっている。一本目のエピソードでもキーとなる登場人物であった美術部顧問の犬山から羽汰が「俺と姫宮は同じだから分かり合える、なんて思ってるんだろう?」とその卑屈さ故の同輩的認識を容赦なく指摘される場面など、ドキリとさせられる読者も多いのではないだろうか?似た物同士だから「いつまでも繋がっていられる」と信じ込もうとするいじましい心性を突き付けられて心穏やかでいられる方もそう多くは無いだろう。
そんな共通性に依存した羽汰と対置されるキャラクターがこの巻の象徴とも言える星と語り合う少女・朱里になる。「津波てんでんこ」という東北の民に受け継がれてきた言葉が思い出される切っ掛けとなった東日本大震災での被災経験から「人はどこまで行っても一人ぼっち」という孤独感を抱える様になった朱里のキャラクターにはちょっと感動させられた。中年にもなれば嫌でもそんな事は今更言われるまでも無い事であるし、改めてそんな「孤独」を絶望的に捉えてしまう思春期というのを見せ付けられると「人間そんな事にも傷付いてしまうのか」と思春期特有の脆さを鮮やかに描いてみせた作者に拍手の一つも送りたくなる。
この話自体は星マニアの朱里と虫マニアの姫宮という何の共通性も無い二人が共に寄り添い、歩み続ける姿を見せ付けられた羽汰が抱え続けてきた卑屈さから抜け出すエピソードとして物語の大きなキーポイントになっていた印象を受けた。「自分には他人と対等に立つための何も無い」という諦観から抜け出して他人に置いて行かれない為に自分の意志でもって自分の人生を歩もうとする……ひどく青臭くはあるが純粋に「成長」を描いている点において嫌味は全く無い。まさに青春モノの王道と言っても過言では無いだろう。
そして同時にこの三つ目のエピソードに関して言えば作者が描き出そうとしたのは思春期の心性だけだろうか、という疑問すら湧く。今世紀に入ってから少しずつ色を強め、東日本大震災という「国難」を境に一気に世を覆い尽くした様なある種の排他主義。「日本人である」「男性である」という生来獲得したアイデンティティ上の共通点にのみ縋って「異なる存在とは相容れない」と排除的な態度を取って憚らない歪んだ認知、そんな物までこのエピソードは映し出そうとしてるのではないかという気がする。
無論、作者がそんな意図を込めたかどうかは分からないわけだが、明滅のリズムが同種同士で次第に同調していくホタルの特性や、そんなホタルの特性を利用するかのように他のホタルの明滅リズムを偽装して呼び寄せては捕食するベルシカラーホタルの魂に取り憑かれたニート青年、分かり合えないという絶望を乗り越えて完全には分かり合えないままでも共に寄り添って歩もうとする朱里と姫宮の姿を見せ付けられると世情に対する作者なりのメッセージが込められているのでは……と深読みするのを止められない。
どこにでもいる等身大の思春期少年・少女たちの脆さを抱えた心情を丁寧に描き出し、卑屈さの塊だった様な主人公の苦い目覚めとその成長に向けての一歩目を描いたストレート過ぎる青春モノとしてその青臭さを大いに堪能させられ、同時に「青春モノ」としての枠に留まらないある種のメッセージ性すら感じ取らせて貰った二巻。大いに満足させられたし、「自分の人生」を歩み始めた羽汰が三巻でどんな姿を見せてくれるかを大いに楽しみにしたいと期待もまた大きく膨らんだ一冊であった。
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むしめづる姫宮さん 2 (ガガガ文庫) Kindle版
やりたい事。友達の事。そして星は輝いて。
姫宮凪には、友達がいない。
それは、自分を恥ずかしい人間と思っているから。
有吉羽汰には、友達がいない。
それは、人に与える何かを持っていないと思っているから。
でも、本当にそうなのかな。
ふたりは、ふたりにしか出せない光を持っている。
ある日クラスから孤立したギャル。
やる気が持続しない女子サッカー部員。
そして、夜にひとり、星と会話する少女。
虫を引き寄せる少年少女たちの悩みが、彼らをちょっぴり大人にしていく。
少しの背伸びが、いずれ背伸びじゃなくなるように――。
星降る夜におくる、ヒトと虫の魂が織りなす、とある青春の物語。
※「ガ報」付き!
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
姫宮凪には、友達がいない。
それは、自分を恥ずかしい人間と思っているから。
有吉羽汰には、友達がいない。
それは、人に与える何かを持っていないと思っているから。
でも、本当にそうなのかな。
ふたりは、ふたりにしか出せない光を持っている。
ある日クラスから孤立したギャル。
やる気が持続しない女子サッカー部員。
そして、夜にひとり、星と会話する少女。
虫を引き寄せる少年少女たちの悩みが、彼らをちょっぴり大人にしていく。
少しの背伸びが、いずれ背伸びじゃなくなるように――。
星降る夜におくる、ヒトと虫の魂が織りなす、とある青春の物語。
※「ガ報」付き!
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
- 言語日本語
- 出版社小学館
- 発売日2020/1/22
- ファイルサイズ11034 KB
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商品の説明
内容(「BOOK」データベースより)
姫宮凪には、友達がいない。それは、自分を恥ずかしい人間と思っているから。有吉羽汰には、友達がいない。それは、人に与える何かを持っていないと思っているから。でも、本当は、ふたりにしか出せない光を持っている。ある日クラスから孤立したギャル。やる気が持続しない女子サッカー部員。そして、夜にひとり、星と会話する少女。虫を引き寄せる少年少女たちの悩みが、彼らをちょっぴり大人にしていく。少しの背伸びが、いずれ背伸びじゃなくなるように―。星降る夜におくる、ヒトと虫の魂が織りなす、とある青春の物語。 --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
登録情報
- ASIN : B083WDQ9J8
- 出版社 : 小学館 (2020/1/22)
- 発売日 : 2020/1/22
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 11034 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 384ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 585,267位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 1,596位ガガガ文庫
- - 52,319位ライトノベル (Kindleストア)
- - 152,234位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.8つ
5つのうち4.8つ
6グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年1月26日に日本でレビュー済み
レポート
2人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2020年1月23日に日本でレビュー済み
作者言うところの虫と青春をテーマとした小説。
2巻は1話完結型の中編3本が共通のテーマで繋がり一冊となっている。
主人公有吉羽汰に宿ったものは、
昨今の大人気ストーリーモノの主人公のように能力の獲得によって突然大活躍できるようなものではなく、
その卑屈さは今もって彼の行動を阻害し続けるが、
虫憑きをともに祓う関係の虫少女・姫宮の変化やそれぞれの物語を通して、
ある行動をとる。
今回も人の中にある願望が虫の生態と重なり合い、
様々な出来事が起きる。
カマキリ、ハチ、ホタル。
虫の生態から鍵を得て事件を解き明かしていく様は半ば探偵小説のような味わいもあり、
それぞれの中編にきちんと答えが用意されているのでスカっと出来る部分もある。
卑屈な羽汰の存在は必ずしも読者全てに受け入れられるものではないだろうが、
それでも少年の多感な心が様々な出来事と出会った時何をするのか、
次第に主人公に感情移入する気持ちが沸いてきた。
今巻1冊を通した共通テーマを考えるだけでも楽しめたし、
多くの方に手に取って頂きたいと思う。
蛇足
あとがきに書かれた作者の言にあるが、
一読者の私もあの頃に戻りたいと思ったことは一度もない。
快活だった少年期の明るさは青年期に途絶えた。
ただ、
経験した救われなかった思いも、それはそれで青春だったのだとこの本を読みながら思った。
2巻は1話完結型の中編3本が共通のテーマで繋がり一冊となっている。
主人公有吉羽汰に宿ったものは、
昨今の大人気ストーリーモノの主人公のように能力の獲得によって突然大活躍できるようなものではなく、
その卑屈さは今もって彼の行動を阻害し続けるが、
虫憑きをともに祓う関係の虫少女・姫宮の変化やそれぞれの物語を通して、
ある行動をとる。
今回も人の中にある願望が虫の生態と重なり合い、
様々な出来事が起きる。
カマキリ、ハチ、ホタル。
虫の生態から鍵を得て事件を解き明かしていく様は半ば探偵小説のような味わいもあり、
それぞれの中編にきちんと答えが用意されているのでスカっと出来る部分もある。
卑屈な羽汰の存在は必ずしも読者全てに受け入れられるものではないだろうが、
それでも少年の多感な心が様々な出来事と出会った時何をするのか、
次第に主人公に感情移入する気持ちが沸いてきた。
今巻1冊を通した共通テーマを考えるだけでも楽しめたし、
多くの方に手に取って頂きたいと思う。
蛇足
あとがきに書かれた作者の言にあるが、
一読者の私もあの頃に戻りたいと思ったことは一度もない。
快活だった少年期の明るさは青年期に途絶えた。
ただ、
経験した救われなかった思いも、それはそれで青春だったのだとこの本を読みながら思った。
2020年1月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
東北という舞台と時代性をうまく作品に織り込んできていました。そのため作品内の少年少女の感情に強い説得力がありました。
出だしに宮沢賢治の「星めぐりの歌」を持ってくるという心憎いやり方で魅せられました。
一巻で宮沢賢治の世界を連想した感想でしたが、まさにというもの。星めぐりの歌は有名ですから、もう出だしの詞で私の中であの歌が流れ、宮沢賢治のあの優しく独特な世界がイメージできました。そして、その空気のまま物語の世界にひきこまれて、最後まで読み終わりました。
今回は、虫に憑かれた3つの中編からなる物語で、不器用ながらも生きている少年少女たちの優しい世界が描かれています。
派手さはないものの、少しづつ姫宮や羽汰が成長して前に向かって歩いています。
一方で、オトナがもつ建前とは違う残酷な本音もさらりと描かれていて、作者さんの冷静な視点と、優しさを信じたい心が描かれているように思えて興味深いです。
地味で目立つものがない子がそれでも自分なりの生き方と歩き方をしている様を描いたよいジュブナイルで、私はポンポン成功するような青春作品より、こっちのほうが児童文学ぽくて好みですね。続きが気になる終わりかたでしたし、登場人物たちの心や関係もまだヨチヨチあるきで、大きな変化はこれからというもの。じっくり描いたシリーズとして頑張って欲しいなと思う作品です。
出だしに宮沢賢治の「星めぐりの歌」を持ってくるという心憎いやり方で魅せられました。
一巻で宮沢賢治の世界を連想した感想でしたが、まさにというもの。星めぐりの歌は有名ですから、もう出だしの詞で私の中であの歌が流れ、宮沢賢治のあの優しく独特な世界がイメージできました。そして、その空気のまま物語の世界にひきこまれて、最後まで読み終わりました。
今回は、虫に憑かれた3つの中編からなる物語で、不器用ながらも生きている少年少女たちの優しい世界が描かれています。
派手さはないものの、少しづつ姫宮や羽汰が成長して前に向かって歩いています。
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地味で目立つものがない子がそれでも自分なりの生き方と歩き方をしている様を描いたよいジュブナイルで、私はポンポン成功するような青春作品より、こっちのほうが児童文学ぽくて好みですね。続きが気になる終わりかたでしたし、登場人物たちの心や関係もまだヨチヨチあるきで、大きな変化はこれからというもの。じっくり描いたシリーズとして頑張って欲しいなと思う作品です。