2020年1月31日にEUから離脱したイギリス。
離脱に向けて、昨年来、東京財団政策研究所のWebサイト上で積極的に論考を発表してきた著者。
その論考を中心に、その他の媒体で発表された論説などをまとめたのが本書。
一冊の本にするにあたって手を加えられており、ともするとバラバラに見えていた事象も筋の通ったものとして理解出来るようになっている。
とりわけ離脱派の誤算についての指摘は鋭く、また厳しい。経済規模を考えれば、EUを離脱してもEUの規制に従うのが合理的となるゆえ、現実には離脱前後で大きな変更がない可能性があり、その場合、むしろEUのルール形成に参加出来なくなるゆえにイギリスの立場は弱くなる。その他、EUの力を背景にイギリスとしての発言力を高めてきた側面もあり、今後はそのレバレッジが利かなくなるなど。
離脱派にも一定の理は合ったと思うが、本書に簡潔にまとめられた離脱までの顛末を見ても、少々安易だったのではないかと思わされる。
なお、バーコウ議長の議会運営が日本でも話題になったが、議会での議論は本書では必要最低限しか触れられていない。その他にも、おそらくもっと詳述したかったであろうテーマがあったと思われるが、そういうものも必要最低限に絞ることで、全体を見通しの良いものにすることに成功している。
書名どおり「EU離脱」について簡にして要を得た書として、まずは手に取りたい一冊である。
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EU離脱 (ちくま新書) 新書 – 2020/2/6
鶴岡 路人
(著)
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購入オプションとあわせ買い
2020年1月末ついにイギリスが正式にEU離脱へ……
これまでの経緯とこれからの課題がこの一冊でわかる!
2016年6月23日、イギリスにおけるEU残留の是非を問う国民投票での離脱派の勝利は、世界中に大きな衝撃をもたらしました。その後、保守党のメイ首相の下で行われたEUとの離脱交渉は混迷を極め、ジョンソン首相に交代。数度の延期の末、2020年1月末、ついに正式な離脱となりました。「紳士の国」「経済合理性で動く」といったイメージとは真逆のイギリスの迷走ぶり。なぜこんなことになったのか――。
本書では、イギリスとEUの両面からブレグジットの全体像をわかりやすく解説しています。イギリスが失うものとはなにか? 一枚岩になれないEUはどうなるのか? これまでの経緯とこれからの課題が見通せる、最速のブレグジット・ガイド。なお問題山積のヨーロッパの現在を最も正確に論じる一冊です。
【目次】
第一章 国民投票から離脱交渉へ
第二章 延期される離脱
第三章 ジョンソン政権による仕切り直し
第四章 「主権を取り戻す」から国家の危機へ
第五章 北アイルランド国境問題とは何だったのか
第六章 再度の国民投票、離脱撤回はあり得たのか
第七章 離脱後のEU・イギリス関係の選択肢
第八章 イギリスなきEU、EUなきイギリスの行方
終章 ブレグジットは何をもたらすのか
これまでの経緯とこれからの課題がこの一冊でわかる!
2016年6月23日、イギリスにおけるEU残留の是非を問う国民投票での離脱派の勝利は、世界中に大きな衝撃をもたらしました。その後、保守党のメイ首相の下で行われたEUとの離脱交渉は混迷を極め、ジョンソン首相に交代。数度の延期の末、2020年1月末、ついに正式な離脱となりました。「紳士の国」「経済合理性で動く」といったイメージとは真逆のイギリスの迷走ぶり。なぜこんなことになったのか――。
本書では、イギリスとEUの両面からブレグジットの全体像をわかりやすく解説しています。イギリスが失うものとはなにか? 一枚岩になれないEUはどうなるのか? これまでの経緯とこれからの課題が見通せる、最速のブレグジット・ガイド。なお問題山積のヨーロッパの現在を最も正確に論じる一冊です。
【目次】
第一章 国民投票から離脱交渉へ
第二章 延期される離脱
第三章 ジョンソン政権による仕切り直し
第四章 「主権を取り戻す」から国家の危機へ
第五章 北アイルランド国境問題とは何だったのか
第六章 再度の国民投票、離脱撤回はあり得たのか
第七章 離脱後のEU・イギリス関係の選択肢
第八章 イギリスなきEU、EUなきイギリスの行方
終章 ブレグジットは何をもたらすのか
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2020/2/6
- 寸法11 x 1.4 x 17.5 cm
- ISBN-10448007287X
- ISBN-13978-4480072870
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出版社より

鶴岡路人(つるおか・みちと)
1975年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部准教授。専門は現代欧州政治、国際安全保障。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院などを経てロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。在ベルギー日本大使館専門調査員、防衛研究所主任研究官、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。共編著に『EUの国際政治』(慶應義塾大学出版会)などがある。
商品の説明
著者について
1975年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部准教授。専門は現代欧州政治、国際安全保障。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院などを経てロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得。在ベルギー日本大使館専門調査員、防衛研究所主任研究官、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。東京財団政策研究所主任研究員を兼務。共編著に『EUの国際政治』(慶應義塾大学出版会)などがある。
著者について
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慶應義塾大学総合政策学部准教授。1975年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学大学院法学研究科、米ジョージタウン大学大学院で学び、英ロンドン大学キングス・カレッジ戦争研究学部で博士号(PhD)取得。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、防衛省防衛研究所主任研究官などを経て、2017年から現職。専門は現代欧州政治、国際安全保障。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年6月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年総選挙でジョンソン保守党が勝利したことで、北アイルランド問題に関する英・EUが合意に至り、遂に2020年1月末をもって英国はEU離脱を実現した。しかし、(延長されなければ)2020年末までの移行期間中にEUとの交渉が決着するのか予断を許さない。
2016年6月の英国民投票結果には英国民自身も驚いたのだろう。2017年の離脱通告までグダグダ時間をかけて見切り発車、通告後もEUとの交渉は遅々として進まなかった。日本のニュースでは、ただ揉めているようにしか見えなかったが、本書を読むと「政治が決断すればEU離脱なんて簡単にできる、は勘違い。英国の政治家たちですらEU離脱がこれほど難しいとは分かっていなかった」という。いわんや一般国民においてをや。
ブレグジットの旗印である「主権回復」が、「EUのルールに従わないということならば、通商条件を今まで通りにしろとは虫が良すぎる」(EUの主張)わけで、「バルニエの階段(p.188)」を参考に、落としどころを探るのだろう。仮にまとまらずに合意なし離脱になっても域外国になるだけのことだ(双方とも混乱は避けられないが)。
読者が最も不思議に思っていたのは、「北アイルランド国境問題がなぜあれほど争点となったのか」である。かつて北アイルランドでテロが頻発していたことは授業で習ったくらいだから、まさか「英国民がこの問題の存在を忘れていたわけではあるまい?」。それなのに、メイ政権の「安全策Backstop」(恒久的措置が整うまでの間、英国全土を暫定的に関税同盟に残す)は何だったのか。「離脱派が受け入れるわけがない!アホか?」と思っていたが、本書を読んで、「離脱通知直後にメイ首相が解散総選挙に打って出たが、保守党が過半数割れした結果、閣外協力として加わったDUP(北アイルランドの保守政党)の意向を無視できなくなったため、こんな安全策を出さざるを得なかった」という事情がやっと理解できた。
ブレグジットは、英・EUどちらも国際的な影響力低下が避けられず、双方が敗者となりそうだ(勝者は中露?)。また、筆者は、EU内の中小国・非ユーロ国は、ブレグジット後のEUでのドイツ&フランス枢軸を警戒せざるを得ない状況を指摘する。
現在は新型コロナに話題をとられているが、年末には一波乱あるかもしれないし、EU中小国・非ユーロ国の先行きも気になるところ。お薦めです。
2016年6月の英国民投票結果には英国民自身も驚いたのだろう。2017年の離脱通告までグダグダ時間をかけて見切り発車、通告後もEUとの交渉は遅々として進まなかった。日本のニュースでは、ただ揉めているようにしか見えなかったが、本書を読むと「政治が決断すればEU離脱なんて簡単にできる、は勘違い。英国の政治家たちですらEU離脱がこれほど難しいとは分かっていなかった」という。いわんや一般国民においてをや。
ブレグジットの旗印である「主権回復」が、「EUのルールに従わないということならば、通商条件を今まで通りにしろとは虫が良すぎる」(EUの主張)わけで、「バルニエの階段(p.188)」を参考に、落としどころを探るのだろう。仮にまとまらずに合意なし離脱になっても域外国になるだけのことだ(双方とも混乱は避けられないが)。
読者が最も不思議に思っていたのは、「北アイルランド国境問題がなぜあれほど争点となったのか」である。かつて北アイルランドでテロが頻発していたことは授業で習ったくらいだから、まさか「英国民がこの問題の存在を忘れていたわけではあるまい?」。それなのに、メイ政権の「安全策Backstop」(恒久的措置が整うまでの間、英国全土を暫定的に関税同盟に残す)は何だったのか。「離脱派が受け入れるわけがない!アホか?」と思っていたが、本書を読んで、「離脱通知直後にメイ首相が解散総選挙に打って出たが、保守党が過半数割れした結果、閣外協力として加わったDUP(北アイルランドの保守政党)の意向を無視できなくなったため、こんな安全策を出さざるを得なかった」という事情がやっと理解できた。
ブレグジットは、英・EUどちらも国際的な影響力低下が避けられず、双方が敗者となりそうだ(勝者は中露?)。また、筆者は、EU内の中小国・非ユーロ国は、ブレグジット後のEUでのドイツ&フランス枢軸を警戒せざるを得ない状況を指摘する。
現在は新型コロナに話題をとられているが、年末には一波乱あるかもしれないし、EU中小国・非ユーロ国の先行きも気になるところ。お薦めです。
2020年3月24日に日本でレビュー済み
劇的だったEU離脱の国民投票から3年半ほどを経て、ジョンソン政権によってついにEU離脱は行われた。
メイ政権、ジョンソン政権の混乱と、度重なる議会での衝突、そし難航する交渉の背景には何があったのか。
本書では、EU離脱をめぐっておきた事態と、全く終わっていない問題を描き出す。
まず最初に、議会での混迷が描き出されている。
交渉延期、合意なき離脱、再国民投票など、さまざまな立場が混迷し、メイ政権へは両側から攻撃が加えられている。そもそも国民投票も残留と離脱でほとんど差がなく、両者を共に満足させ、両者の意見を反映することの難しさはあったが、メイ政権は残留派48%への考慮が欠けていたと本書では指摘されている。
労働党についての言及は多くないが、コービンのEU懐疑的な立場が最後まで足を引っ張っていることは印象的であった。
本書で明確に指摘されるのは、イギリスが単にEU離脱をすることでは「主権を取り戻す」には全くならないということである。
EUにはEUの利益があり、イギリスに都合のいい規定だけを認めさせることなど全くできない(むしろより巨大なEUの方が交渉力も大きい)。
EU市場は物、サービス、資本、人の4つの自由移動は不可分(単一市場の一体性)であり、いいとこどりは許されない。また、例えば欧州司法裁判所の管轄を受けず、EUへの予算拠出を行わないのであれば、単一市場に残留することは出来ない。
EUを離脱してしまえば、EUを通じて発揮できていた影響力が失われる。EUに入るか否かにかかわらず、域内最強通貨を持つドイツの金融政策やマクロ経済政策には否応なく合わせざるを得なくなるのであり、それよりは欧州中央銀行でドイツと対等な立場で意見をぶつけて方向性への影響力を及ぼした方がいい、と判断されていたという指摘は重要であろう。
EUに加わらないノルウェーも、市場に参加するため、規制をすべて受け入れ、拠出金を払い、それでもルール決定には参与できないという地位に甘んじざるを得ない。シェンゲンやユーロ、拠出金のリベートなど、さまざまなオプト・アウトを優遇措置として獲得しているイギリスのEU内の地位は、他国からはむしろ羨望の的でさえあり、EU離脱はそのような恵まれた地位をみすみす捨てるものだとさえいえる。EUへの窓として、例えば日本はイギリスとの関係性を重視してきたが、それは転換されてしまうだろう。
仮に「合意なき離脱」をしたとしても、EUはイギリスの最近接の国・共同体であることには変わりはなく、経済的・政治的関係は緊密に築かざるを得ない。
ところが、有名な「バルニエの階段」で示されているように、イギリスが譲れないもの(人の自由な移動の終了、欧州司法裁判所管轄権の終了、等)に応じて築ける関係の度合いはそれぞれスイスやウクライナなどよりも弱いものにならざるを得ず、万が一FTA締結に失敗すれば、EUとイギリスの関係はEUと日本の関係よりも弱いものになってしまう。
国民投票時にはあまり議論されていなかったが重要な問題として、北アイルランド国境問題を本書では指摘している。
アイルランド和平ではアイルランドー北アイルランド間の往来を自由にすることがその基礎にあるが、そこがEU域外国境になってしまうと、関税や国境管理をそこで行わざるを得なくなってしまうのである。
メイ政権はそのため、イギリス全体を関税同盟に残すことでこの問題を回避しようとした(ただし安全規制などのさまざまな検査はやはり域外国境で必要となるので、これで問題が回避できるわけではない)。しかしこれは議会で受け入れられなかった。
ジョンソン政権は逆に、北アイルランドーブリテン島の間に実質的な境界を引き、北アイルランドを特別措置(実質的にEU内)にとどめ置き、ブリテン島から北アイルランドに動く際に関税や規制をかける(北アイルランド内で消費された場合には還付される)。
しかしこの措置は、北アイルランドを連合王国から切り離すようなもので、北アイルランドの分離とアイルランドの統合さえ誘発しうるものである(その次にはスコットランド独立が来うる)。
EU内での変化もある。
イギリスは独仏の政治統合推進に対抗する「物言う兄貴分」的な側面(イギリスは経済重視)があり、オランダやデンマーク、スウェーデンなどの小国としては危機感も抱いている。
また、ユーロからのオプト・アウトをとる大国が次はポーランドという状況であり、そうした状況の国への考慮が弱まるという懸念もある。
EU離脱必然論への批判(むしろ若い世代、知ってる時からEUがある世代は圧倒的に残留派で、離脱派にとってはこのタイミングがラストチャンスだったと指摘)から始まり、再国民投票での残留狙いは残留の際のコスト(これはもう様々に発生している)を考えていない、など、様々な箇所で鋭い指摘が多い。
本書に一つ難をいうのであれば、国民投票より前の話がほとんど書かれていない点であろう。キャメロンの国民投票策(結果としては大失策)がなぜ起きたのか、なぜ離脱派が力づいたのか、ジョンソンはもともと親EUだったのになぜ変節したのか、こういったことは日本からはあまり見えていないことも多いし、50ページほど増やしてでも解説してもらえるとさらに良かったように思うが、これは欲張りというものかもしれない。
全体としては、EU離脱の混迷が非常によく描き出され、また今後イギリスとEUが直面する困難についても考えさせてくれる好著である。
(細かい話だが、p246中ほどの「テムズ川沿いのイギリス」は「テムズ川沿いのシンガポール」の誤植であろう)
メイ政権、ジョンソン政権の混乱と、度重なる議会での衝突、そし難航する交渉の背景には何があったのか。
本書では、EU離脱をめぐっておきた事態と、全く終わっていない問題を描き出す。
まず最初に、議会での混迷が描き出されている。
交渉延期、合意なき離脱、再国民投票など、さまざまな立場が混迷し、メイ政権へは両側から攻撃が加えられている。そもそも国民投票も残留と離脱でほとんど差がなく、両者を共に満足させ、両者の意見を反映することの難しさはあったが、メイ政権は残留派48%への考慮が欠けていたと本書では指摘されている。
労働党についての言及は多くないが、コービンのEU懐疑的な立場が最後まで足を引っ張っていることは印象的であった。
本書で明確に指摘されるのは、イギリスが単にEU離脱をすることでは「主権を取り戻す」には全くならないということである。
EUにはEUの利益があり、イギリスに都合のいい規定だけを認めさせることなど全くできない(むしろより巨大なEUの方が交渉力も大きい)。
EU市場は物、サービス、資本、人の4つの自由移動は不可分(単一市場の一体性)であり、いいとこどりは許されない。また、例えば欧州司法裁判所の管轄を受けず、EUへの予算拠出を行わないのであれば、単一市場に残留することは出来ない。
EUを離脱してしまえば、EUを通じて発揮できていた影響力が失われる。EUに入るか否かにかかわらず、域内最強通貨を持つドイツの金融政策やマクロ経済政策には否応なく合わせざるを得なくなるのであり、それよりは欧州中央銀行でドイツと対等な立場で意見をぶつけて方向性への影響力を及ぼした方がいい、と判断されていたという指摘は重要であろう。
EUに加わらないノルウェーも、市場に参加するため、規制をすべて受け入れ、拠出金を払い、それでもルール決定には参与できないという地位に甘んじざるを得ない。シェンゲンやユーロ、拠出金のリベートなど、さまざまなオプト・アウトを優遇措置として獲得しているイギリスのEU内の地位は、他国からはむしろ羨望の的でさえあり、EU離脱はそのような恵まれた地位をみすみす捨てるものだとさえいえる。EUへの窓として、例えば日本はイギリスとの関係性を重視してきたが、それは転換されてしまうだろう。
仮に「合意なき離脱」をしたとしても、EUはイギリスの最近接の国・共同体であることには変わりはなく、経済的・政治的関係は緊密に築かざるを得ない。
ところが、有名な「バルニエの階段」で示されているように、イギリスが譲れないもの(人の自由な移動の終了、欧州司法裁判所管轄権の終了、等)に応じて築ける関係の度合いはそれぞれスイスやウクライナなどよりも弱いものにならざるを得ず、万が一FTA締結に失敗すれば、EUとイギリスの関係はEUと日本の関係よりも弱いものになってしまう。
国民投票時にはあまり議論されていなかったが重要な問題として、北アイルランド国境問題を本書では指摘している。
アイルランド和平ではアイルランドー北アイルランド間の往来を自由にすることがその基礎にあるが、そこがEU域外国境になってしまうと、関税や国境管理をそこで行わざるを得なくなってしまうのである。
メイ政権はそのため、イギリス全体を関税同盟に残すことでこの問題を回避しようとした(ただし安全規制などのさまざまな検査はやはり域外国境で必要となるので、これで問題が回避できるわけではない)。しかしこれは議会で受け入れられなかった。
ジョンソン政権は逆に、北アイルランドーブリテン島の間に実質的な境界を引き、北アイルランドを特別措置(実質的にEU内)にとどめ置き、ブリテン島から北アイルランドに動く際に関税や規制をかける(北アイルランド内で消費された場合には還付される)。
しかしこの措置は、北アイルランドを連合王国から切り離すようなもので、北アイルランドの分離とアイルランドの統合さえ誘発しうるものである(その次にはスコットランド独立が来うる)。
EU内での変化もある。
イギリスは独仏の政治統合推進に対抗する「物言う兄貴分」的な側面(イギリスは経済重視)があり、オランダやデンマーク、スウェーデンなどの小国としては危機感も抱いている。
また、ユーロからのオプト・アウトをとる大国が次はポーランドという状況であり、そうした状況の国への考慮が弱まるという懸念もある。
EU離脱必然論への批判(むしろ若い世代、知ってる時からEUがある世代は圧倒的に残留派で、離脱派にとってはこのタイミングがラストチャンスだったと指摘)から始まり、再国民投票での残留狙いは残留の際のコスト(これはもう様々に発生している)を考えていない、など、様々な箇所で鋭い指摘が多い。
本書に一つ難をいうのであれば、国民投票より前の話がほとんど書かれていない点であろう。キャメロンの国民投票策(結果としては大失策)がなぜ起きたのか、なぜ離脱派が力づいたのか、ジョンソンはもともと親EUだったのになぜ変節したのか、こういったことは日本からはあまり見えていないことも多いし、50ページほど増やしてでも解説してもらえるとさらに良かったように思うが、これは欲張りというものかもしれない。
全体としては、EU離脱の混迷が非常によく描き出され、また今後イギリスとEUが直面する困難についても考えさせてくれる好著である。
(細かい話だが、p246中ほどの「テムズ川沿いのイギリス」は「テムズ川沿いのシンガポール」の誤植であろう)
2023年1月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
過去を振り返るには良いだろう。ネタ元は、専門家なら容易に察しが付く。
とはいえ、著者はいつの間にか概念法学を振り翳す安全保障の専門家になってしまったようだ。概念法学では、複雑な現実は分析出来ないはずだが。
とはいえ、著者はいつの間にか概念法学を振り翳す安全保障の専門家になってしまったようだ。概念法学では、複雑な現実は分析出来ないはずだが。
2020年2月15日に日本でレビュー済み
本書によって、Brexitの時系列による経緯や制度および法的な側面を理解できたことは
有意義であった。なかなか、イギリスにおける状況を理解できる簡易な邦語の本が
なかったので貴重だ。
一番興味深かったのは、本書でページを多くが費やされている離脱派について
だった。つまり離脱派が虚偽を主張してきたということのみならず、本当に
離脱派が無理解であったために、2016年6月のBrexit決定後に混乱や誤算をもたらした
ということである。
離脱派はそもそも、イギリスがすでに、EUに体制が組み込まれていることを理解して
いなかったために(ヨーロッパ化)、容易にEUから離脱できると、
この点では本当に信じていたという。
BrexitはRegime Changeに相当する労力が必要であることを理解していなかった。
本年1月31日に離脱しても、各種交渉は未解決であり、Costはむしろこれから
本格的に発生する。
また、主権を取り戻すためのBrexitであったが、EUを通してイギリスが影響力を
確保していたという点を離脱派は理解しておらず、Brexit後、イギリスは、意図せざる結果で
影響力の低下に悩むことになるとも本書は指摘する。
それどころか、例えば企業は、EUの15%でしかない経済規模のイギリス独自の
規制よりも、EUの規制や基準に合わすことが合理的であるから、イギリスはEUの
規制に従わざるを得ない現実は何も変わらず、むしろEU外になったため、
規制に対する発言権はないままRule Takeしなければならないという離脱派の
意図とは正反対な結果をもたらすことになる。
何も変わらない以上に、主権の確保はBrexitにより悪化する。
さらには、国民投票後のイギリス政治の混乱は本書によると、イギリスでも
想定外であったという。
内閣は議会が生み出すイギリスの国制では、基本的にあり得ない、議会と内閣が
これほどまでに対立することは、個人的に本当に不思議だと、本書を読んで
特に感じた。
論理的に、Brexit派の問題を指摘する本書は、やや表現がきついと思われる点も
あったが、単に事実の描写にとどまらず、いかに問題が広範囲で、複雑
であることを明快に教えてくれ、説得力があった。
有意義であった。なかなか、イギリスにおける状況を理解できる簡易な邦語の本が
なかったので貴重だ。
一番興味深かったのは、本書でページを多くが費やされている離脱派について
だった。つまり離脱派が虚偽を主張してきたということのみならず、本当に
離脱派が無理解であったために、2016年6月のBrexit決定後に混乱や誤算をもたらした
ということである。
離脱派はそもそも、イギリスがすでに、EUに体制が組み込まれていることを理解して
いなかったために(ヨーロッパ化)、容易にEUから離脱できると、
この点では本当に信じていたという。
BrexitはRegime Changeに相当する労力が必要であることを理解していなかった。
本年1月31日に離脱しても、各種交渉は未解決であり、Costはむしろこれから
本格的に発生する。
また、主権を取り戻すためのBrexitであったが、EUを通してイギリスが影響力を
確保していたという点を離脱派は理解しておらず、Brexit後、イギリスは、意図せざる結果で
影響力の低下に悩むことになるとも本書は指摘する。
それどころか、例えば企業は、EUの15%でしかない経済規模のイギリス独自の
規制よりも、EUの規制や基準に合わすことが合理的であるから、イギリスはEUの
規制に従わざるを得ない現実は何も変わらず、むしろEU外になったため、
規制に対する発言権はないままRule Takeしなければならないという離脱派の
意図とは正反対な結果をもたらすことになる。
何も変わらない以上に、主権の確保はBrexitにより悪化する。
さらには、国民投票後のイギリス政治の混乱は本書によると、イギリスでも
想定外であったという。
内閣は議会が生み出すイギリスの国制では、基本的にあり得ない、議会と内閣が
これほどまでに対立することは、個人的に本当に不思議だと、本書を読んで
特に感じた。
論理的に、Brexit派の問題を指摘する本書は、やや表現がきついと思われる点も
あったが、単に事実の描写にとどまらず、いかに問題が広範囲で、複雑
であることを明快に教えてくれ、説得力があった。
2020年10月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
EUについての基礎知識が無ければ難しい本ですが、そこに気をつけて読めば、大変興味深くためになる本です。
2020年8月20日に日本でレビュー済み
ブレグジット決定の国民投票から先の離脱実現に至る約3年半について、EUとの離脱交渉が難航する中でイギリス国内で憲政危機に陥る様子を描きつつ、主に離脱に伴う経済や外交の各分野での負の側面を制度的に解説する良書。
2021年10月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
個人的にEU全般に疎く、理解を深めるために購読。
イギリスがEUを離脱することになった原因やヨーロッパ全般の基礎知識を学びたかったのですが…
内容はEUとイギリスの離脱交渉 イギリス内の合意形成の経緯がほとんど。
外交の実践例だと思います。
(無学すいません。)
ただ完全な初学者が何かの参考にするのは、少し難易度が高いと思います。
イギリスがEUを離脱することになった原因やヨーロッパ全般の基礎知識を学びたかったのですが…
内容はEUとイギリスの離脱交渉 イギリス内の合意形成の経緯がほとんど。
外交の実践例だと思います。
(無学すいません。)
ただ完全な初学者が何かの参考にするのは、少し難易度が高いと思います。