謎に包まれたイヴァンとの奇妙な共同生活は、
戦争という悲惨な現実から隔離された不思議なものだった。
閉ざされた生活の中で次第に変化していくオディールとイヴァンの心の動きを
丁寧に描いた作品。
豊かな自然と戦争との対比は、辛い現実を生きている本作の人物たちの
心の変化を浮き彫りにしていると思う。
子どもたちを守り気丈に振舞うオディールの不安定さ。
心の隙間にストレートに飛び込んでくるイヴァンの強引さ。
母であると同時に父でもあらねばならなかったオディールがイヴァンと出逢い
次第にそのしがらみから解き放たれていく。
既に実力を認められているエマニュエル・ベアールの存在感は抜群で、
理性と本能の間で揺れるオディールの表情、行動がどんどん変わっていく様はさすが。
母であると同時に女である。というオディールの人物像を鮮やかに見せている。
安定感もあり鮮度もある。すごい女優だと思う。
一方、これが映画初主演となるギャスパー・ウリエル。
荒っぽく大胆で言葉を知らない反面、ナイーブで傷つきやすい面を持っている。
オディールたちから頼りにされる存在である一方で幼さも感じさせる。
そのアンバランスな魅力はこの作品の象徴とも言えるかもしれない。
ギャスパーは繊細さと激しさを交互に見せ、つかみどころのない不思議な存在感を示した。
そしてオディールの息子フィリップを演じたグレゴワール・ルプランス・ランゲの目の強さが
フィリップの心のまっすぐさを体現していて印象的だった。
戦争の終わりを告げる二人の訪問者の訪れによって楽園での生活に終わりが訪れる。
戦争をベースにしながらも美しい自然とそこに偶然出逢った二人を描いているので悲惨さはなく、
また、映像の美しさに加えて音楽も情緒的なアコーディオンの音が美しく、
鑑賞後に深い余韻を残す作品となっている。
原題「LES EGARES 」は“道を踏み外した人”とか“迷い人”という意味。