英国秘密情報機関(SIS)00課の「ジェームズ・ボンド海軍予備役中佐」を主人公とするシリーズの記念すべき第1作。
シリーズは井上一夫訳の小説を全作読破しているし、イオン・プロダクションの映画もすべて観ている。もちろん本作も既読だが、新訳版が出ると知って無性に懐かしくなり、購入。久々にボンドの世界を堪能した。
ハードボイルド探偵小説の巨匠で作者イアン・ランカスター・フレミングの友人でもあるレイモンド・ソーントン・チャンドラーは、フレミングは『カジノ・ロワイヤル』を超える作品を書いていないと評している。
ところで、荒唐無稽と評されるシリーズだが、第二次世界大戦前にはロイター通信の特派員として活躍し、戦時中は海軍情報部(NID)に所属したフレミングの現実感覚を反映して、存外リアリティを備えている。
たとえば、「00課」という名称はともかくとして、戦前SISには破壊工作(D)課という部門が実在した。1940年にD課はSISから独立して特殊作戦執行部(SOE)となった。イアンの兄ロバート・ピーター・フレミングはSOEの一員としてノルウェー、ギリシャ、インドで活動した。1946年にSOEはSISに戻されて戦争計画局(DWP)になった。1953年にDWPは特殊政治行動(SPA)班になって、1970年代まで存続した。最近でもSIS総合支援科(GSB)が、陸軍特殊航空任務(SAS)連隊と海軍特殊舟艇部隊(SBS)の選り抜きからなるE中隊(通称「インクレメント」)を持っていることが明らかになっている。
シリーズでSIS長官は「M」と呼ばれている。フレミングの遺作『黄金の銃をもつ男』でMの本名が「マイルズ・メッサーヴィ海軍大将」だと明かされている。フレミングが『カジノ・ロワイヤル』を書き始めた1952年2月には、スチュワート・グレアム・ミンギス陸軍中将がSIS長官を務めたので、その頭文字を借用したのかもしれない。実際には、初代長官マンスフィールド・ジョージ・スミス=カミング海軍中尉が公文書に緑のインクで「C」と署名したことを踏襲して、歴代長官はCと名乗っている。
本作で敵役として登場し、以降、4作品でボンドと対峙するSMERSH(「スパイどもに死を」の略)も、実在した組織だ。ただし、フレミングが描いたような暗殺部門ではない。たしかにソ連国家保安機関には暗殺部門が存在したが、それはSMERSHではない。内務人民委員部(NKVD)の赤軍監視部門が1943年に独立してできたのがSMERSHで、少しでも共産党に反抗的な兵士を摘発すると「外国のスパイ」と決めつけて処刑したことからこの名がある。このことをフレミングは知らなかったか、知っていても「スメルシュ」という不気味な語感が気に入って敵役に採用したか、どちらかであろう。
『カジノ・ロワイヤル』の第1章でボンドは「電報を送るときは筆圧で下の用紙に筆記跡を残さないように用紙を綴りから剥ぎ取って書く」「2階にはエレヴェーターではなく階段で昇る」「デスクの抽斗に毛髪を挟んでおいて何者かが開けたら分かるようにする」「衣装戸棚のハンドルにタルカム・パウダーを薄く振りかけておいて何者かが触ったら跡が残るようにする」「トイレの水洗タンクの浮き球コックに傷をつけておいて水面と一致しているかどうか確かめる」といった用心深さを披露する。海軍情報長官(DNI)ジョン・ヘンリー・ゴドフリー海軍少将の副官を務めて、現場の工作員の経験のなかったフレミングだが、NIDから米国の英国保全調整部(BSC)に出向して、BSCがカナダのオンタリオ湖北岸に開設していた第103特殊訓練学校(通称「キャンプX」)で工作員心得を研修する機会はあった。また、1942年9月にNID直属の特殊情報部隊(通称「レッド・インディアンズ」。のちに第30コマンドゥ、特殊工兵部隊、第30強襲部隊と改称された)を編成して、特殊作戦の知識も有していた。
本作の悪役は「ル・シッフル」。ソ連内務省(MVD)からフランスのアルザス労働者組合(SODA)に地下会計係として送り込まれたという設定だ。「世界で最も邪悪な男」「大いなる獣666」などと呼ばれた神秘学者アライスター・クローリーがモデルだといわれる。1941年5月10日夜にナチ党副総統ルドフル・ヴァルター・リヒァルト・ヘスがBf110でスコットランドのグラスゴー郊外に不時着したとき、その真意をめぐって騒動が起きた。ヘスが占星学と魔法に傾倒していると知ったフレミングは、デヴォン州トーキーに隠棲していたクローリーをヘスの尋問に起用するように進言。この進言は容れられず、クローリーの一件書類は記録保管所に収められた。だが、クローリー自身はこのときNIDと関係ができて、連合国の勝利に自分が貢献したと主張している。ナチスの鉤十字に対抗して勝利のVサインを考案したのは、自分だという。ぎょろ目で覚醒剤ベンゼドリンを常用するサディストというル・シッフルの特徴は、クローリーと一致する。
本作の舞台「ロワイヤル・レゾー」はフランスの大西洋岸の架空の避暑地だ。「ソンム川の河口近くにある。それも、ピカルディ―北西の海岸からブルターニュ地方の断崖――これはル・アーヴルまで続いている――にいたる平坦な沿岸地域が延びはじめる手前に位置し」と書かれている。ここからはソンム県にあるように読める。だが、ボンド宛の電報ではセーヌ・アンフェリユール県と書かれている。さらに、第10作『女王陛下の007』で、国道1号線を北上するボンドは、「モントルイユへ5マイル、ロワイヤル・レゾーへ10マイル、ル・トゥーケ・パリ・プラージュへ15マイル」というミシュランの案内標識を通過する。モントルイユを過ぎて、町のすぐ北にあるエタプル=パリ街道を渡ると、ロワイヤル・レゾーのへの曲がり角が左側に現れる。この記述からは、ロワイヤル・レゾーは、ル・トゥーケのすぐ南の海岸、おそらくステラ・プラージュの近く、パ・ド・カレー県のソンムの北に位置することになる(映画版『カジノ・ロワイヤル』では舞台設定はモンテネグロに変更された。そして、実際のロケはフランスでもモンテネグロでもなくチェコの温泉町カルロヴィ・ヴァリのグランドホテル・プップを「ホテル・スプランディ―ド」に改装して行われた)。
フランス軍参謀本部第二局の「ルネ・マティス」と米中央情報局(CIA)の「フェリックス・ライター」の応援を得たボンドは、ル・シッフルに立ち向かう。フェリックス・ライターのフェリックスは、フレミングの友人アイヴァー・フェリックス・C・ブライスのミドル・ネームから、またライターはシカゴの不動産王の孫でやはり友人だったトーマス・「トミー」・ライターのラスト・ネームからとっている。
SIS本部からはS課の「ヴェスパー・リンド」が助手として派遣される。ヴェスパーのモデルはマリア・クリスティーナ・ジャニナ・スカルベックだろう。ポーランドの伯爵家に生まれたクリスティーナは、幼いころ父親に「ヴェスパー」と呼ばれていたという。戦時中には特殊作戦執行部(SOE)工作員として活躍して叙勲された。カイロでSOEの同僚エドワード・「テッド」・ハウと友人になった。クリスティーナは1946年に英国に帰化してクリスティーン・グランヴィルと改名したが、自分の才能を活かせる仕事に恵まれなかった。1947年にカイロを訪れて、ケムズリー・ニュース・グループの特派員になっていたハウと偶然再会し、フレミングの名前を紹介された。フレミングに求職の手紙を書いて、ロンドンのシャーロット街の「ベルトレリ・レストラン」で対面した。
MVDに正体を知られたボンドは、ロワイヤル・レゾーの街中で襲われる。赤いカメラ・ケースを提げた男と青いカメラ・ケースを提げた男が近づいてきて、後者が青いケースをいじくっているうちに大爆発が起こるのだ。街路樹の陰にいたボンドは九死に一生を得るが、2人は肉片と化してしまう。誤爆ともとれる一件だが、実はMVD工作員たちは赤いケースは爆弾で、青いケースは発煙弾だと吹き込まれており、爆弾を炸裂させてボンドを葬ってから、煙幕を張って逃げろと命じられていた。だが、そのブルガリア人たちは、先に煙幕を張ってから爆弾を投げつけた方が成功の確率が高いのではないかと考えて、その通りにしようとした。実際には赤も青も爆弾で、つまりMVDはボンドを爆殺してから実行犯を始末するよう仕組んでいたのだ。敵の冷酷さを強調するエピソードだが、これはNKVDが1942年2月14日にアンカラのアタチュルク通りでトルコ駐在ドイツ大使フランツ・ヨーゼフ・ヘルマン・ミヒャエル・マリア・フォン・パーペンを暗殺しようとして実際に使った手口だ(小説と同様の理由で失敗している)。
SODAの資金を流用して売春宿を経営していたル・シッフルは、売春禁止法を制定されて資金を焦げ付かせたために、カジノ・ロワイヤルのバカラで一発逆転を目論む。ボンドはル・シッフルに辛勝して賭け金4000万フランを巻き上げる。1941年6月初めにゴドフリーに随行して渡米する途中、中立国ポルトガルに寄ったフレミングは、リスボン近郊のカジノ・エストリルに乗り込んだ。フレミング自身の回想によると、ここでドイツ人スパイにシュマン・ド・フェールで勝負を挑んだが、負けてしまった。ゴドフリーの回想はちょっと違っていて、フレミングの相手はただのポルトガル人実業家だったという(映画版『女王陛下の007』ではボンドが「テレサ・ディ・ヴィチェンツォ伯爵夫人」と出会う場所がロワイヤル・レゾーからこのエストリルに変更されている)。
カジノ・ロワイヤルでの大勝負に同席した米国人実業家「ジュニアス・デュポン」は、第7作『ゴールドフィンガー』にも登場する。
4000万フランの奪還を目論むル・シッフルが、ヴェスパーを人質にとる。ル・シッフルとヴェスバーを追跡するボンドは、罠にかかって捕らわれてしまう。座面をくりぬいた椅子にくくりつけられて絨毯たたきで男性器を打擲され、小切手の隠し場所を問い詰められる。戦時中フランス領モロッコでは、マンドリンの弦を陰嚢に巻き付けて切断する「パッセ・ア・ラ・マンドリン」という拷問が行われて、フレミングの同僚も犠牲になったという。
皮肉なことに、ル・シッフルはSMERSHの殺し屋に粛清されて、ボンドとヴェスパーは九死に一生を得る。だが、ボンドは殺し屋にナイフで右手の甲にスパイの頭文字「щ」と刻まれてしまう。
ボンドは病院でマティスに、自分が00の称号を得るきっかけになった米国での暗殺工作を語る。ニュー・ヨークのロックフェラー・センターのRCAビル36階にあった日本領事館にいた暗号解読の専門家を、300メートル離れた隣のビルから狙撃したのだ。実際にはRCAビルの3603号室には旅券管理事務所(PCO)に偽装したBSCのオフィスがあって、フレミングはそこに出向していた。BSCの1階下には日本総領事館があり、BSC部長ウィリアム・サミュエル・スティーヴンソンやフレミングたちはそこに午前3時に忍び込み、金庫を破って暗号書を持ち出し、盗撮して元に戻したという。その体験をフレミングは本作に活かしたわけだ。
実はMVDとのダブル・エージェントであったヴェスパーが、ボンドへの愛情とSMERSHへの恐怖の板挟みになって自殺。その事実を本部に報告するボンドは、「あの女はくたばったからね」と吐き捨てる。だが、『女王陛下の007』で、その後毎年ロワイヤル・レゾーの小さい教会にあるヴェスパーの墓を参るのを欠かさなかったことが明かされている。
第2作『死ぬのは奴らだ』で、太腿の皮膚を右手の甲に移植して傷跡を消したと述べられている。
Kindle 価格: | ¥715 (税込) |
獲得ポイント: | 7ポイント (1%) |
続刊をお見逃しなく
シリーズ購読に登録する
シリーズ購読について
購読は、シリーズの続刊を対象としています [1-Click® で今すぐシリーズ購読に登録する]にクリックすることで、AMAZON KINDLEストア利用規約に同意したものとみなされ、発売日にAmazonがお客様の選択した支払い方法、または登録されているその他の支払い方法に、予約注文受付期間中のAmazon.co.jpでの最低販売価格(予約注文受付期間なく販売される商品については、発売日の価格)(税込)を請求することに同意したものとみなされます。シリーズ購読はキャンセルされるまで、または連載が終了するまで継続されます。お客様はいつでも、アカウントサービスの「メンバーシップおよび購読 」からシリーズ購読をキャンセルすることができます。
購読は、シリーズの続刊を対象としています
1-Click®でシリーズ購読に登録する
最新刊の発売日に配信されます
どの商品を購入することになりますか?
[シリーズ購読]は連載中のシリーズで今後発売される続刊を対象としています。ご登録いただいた時点で既に発売開始している商品はシリーズ購読に登録しても自動配信の対象とはなりません。また、本シリーズ購読は、一話毎に販売している商品は対象としておりません。
続刊の価格はどうやってわかりますか?
予約注文ができるようになると同時に価格が設定されます。予約商品の価格保証が適用される商品は、予約注文受付期間中のAmazon.co.jpでの最低販売価格[ (税込)が適用されます]。なお、予約注文受付期間なく販売される商品については、発売と同時に価格が設定されます。続刊以降の価格、および、お客様がシリーズ購読をキャンセルまたは連載が終了するまでにお客様にお支払いいただく総額については、事前に確定することができません。続刊以降の価格は、確定し次第、メールにてご案内いたします。
シリーズ購読はいつまで続きますか?
シリーズ購読は、お客様がシリーズ購読をキャンセルするまで、連載が終了するまで、またはシリーズ購読のサービス提供終了まで継続します。予約注文またはシリーズ購読はいつでもキャンセルできます。
各商品の購入代金の請求はいつですか?
代金の請求は商品が発売され、ダウンロード可能になるまで行われません。また、代金の請求はお客様の選択した支払い方法、または登録されているその他の支払い方法により、自動的に行います。代金の請求日、すなわち商品の発売日は、事前に確定することができません。確定し次第、メールにてご案内いたします。
[シリーズ購読]は連載中のシリーズで今後発売される続刊を対象としています。ご登録いただいた時点で既に発売開始している商品はシリーズ購読に登録しても自動配信の対象とはなりません。また、本シリーズ購読は、一話毎に販売している商品は対象としておりません。
続刊の価格はどうやってわかりますか?
予約注文ができるようになると同時に価格が設定されます。予約商品の価格保証が適用される商品は、予約注文受付期間中のAmazon.co.jpでの最低販売価格[ (税込)が適用されます]。なお、予約注文受付期間なく販売される商品については、発売と同時に価格が設定されます。続刊以降の価格、および、お客様がシリーズ購読をキャンセルまたは連載が終了するまでにお客様にお支払いいただく総額については、事前に確定することができません。続刊以降の価格は、確定し次第、メールにてご案内いたします。
シリーズ購読はいつまで続きますか?
シリーズ購読は、お客様がシリーズ購読をキャンセルするまで、連載が終了するまで、またはシリーズ購読のサービス提供終了まで継続します。予約注文またはシリーズ購読はいつでもキャンセルできます。
各商品の購入代金の請求はいつですか?
代金の請求は商品が発売され、ダウンロード可能になるまで行われません。また、代金の請求はお客様の選択した支払い方法、または登録されているその他の支払い方法により、自動的に行います。代金の請求日、すなわち商品の発売日は、事前に確定することができません。確定し次第、メールにてご案内いたします。
ジェームズ・ボンド・シリーズ を購読しました。 続刊の配信が可能になってから24時間以内に予約注文します。最新刊がリリースされると、予約注文期間中に利用可能な最低価格がデフォルトで設定している支払い方法に請求されます。
「メンバーシップおよび購読」で、支払い方法や端末の更新、続刊のスキップやキャンセルができます。
エラーが発生しました。 エラーのため、お客様の定期購読を処理できませんでした。更新してもう一度やり直してください。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
007/カジノ・ロワイヤル【白石朗訳】 ジェームズ・ボンド・シリーズ (創元推理文庫) Kindle版
世界で最も有名なスパイ、ジェームズ・ボンド
スパイ小説の金字塔、007初登場となる伝説の作品を新訳で贈る
イギリスが誇る秘密情報部で、ある常識はずれの計画がもちあがった。ソ連の重要なスパイで、フランス共産党系労組の大物であるル・シッフルを打倒せよ。彼は党の資金を使いこんで窮地に追いこまれ、高額のギャンブルの儲けで一挙に挽回しようとしていた。それを阻止し嘲笑の的に仕立てて破滅させるために、秘密情報部からカジノ・ロワイヤルにジェームズ・ボンドが送りこまれる。冷酷な殺人をも厭わない、ダブル0の称号――007のコードをもつ男。巨額の賭け金が動く緊迫の勝負の裏で密かにめぐらされる陰謀。007初登場作を新訳でリニューアル。
解説=杉江松恋
スパイ小説の金字塔、007初登場となる伝説の作品を新訳で贈る
イギリスが誇る秘密情報部で、ある常識はずれの計画がもちあがった。ソ連の重要なスパイで、フランス共産党系労組の大物であるル・シッフルを打倒せよ。彼は党の資金を使いこんで窮地に追いこまれ、高額のギャンブルの儲けで一挙に挽回しようとしていた。それを阻止し嘲笑の的に仕立てて破滅させるために、秘密情報部からカジノ・ロワイヤルにジェームズ・ボンドが送りこまれる。冷酷な殺人をも厭わない、ダブル0の称号――007のコードをもつ男。巨額の賭け金が動く緊迫の勝負の裏で密かにめぐらされる陰謀。007初登場作を新訳でリニューアル。
解説=杉江松恋
- 言語日本語
- 出版社東京創元社
- 発売日2019/8/23
- ファイルサイズ1179 KB
- 販売: Amazon Services International LLC
- Kindle 電子書籍リーダーFire タブレットKindle 無料読書アプリ
まとめ買い
シリーズの詳細を見る-
最初の3冊¥ 1,93519pt (1%)
-
5冊すべて¥ 3,73037pt (1%)
まとめ買い
このシリーズは全5冊です。
-
最初の3冊¥ 1,93519pt (1%)
-
5冊すべて¥ 3,73037pt (1%)
上のボタンを押すと注文が確定し、Kindleストア利用規約に同意したものとみなされます。支払方法及び返品等についてはこちら。
このまとめ買いには3冊が含まれます。
このまとめ買いには1-5冊のうち5冊が含まれます。
エラーが発生しました。
この本を読んだ購入者はこれも読んでいます
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- ASIN : B07TZJVY1V
- 出版社 : 東京創元社 (2019/8/23)
- 発売日 : 2019/8/23
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 1179 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 260ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 186,025位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2019年9月21日に日本でレビュー済み
レポート
Amazonで購入
30人のお客様がこれが役に立ったと考えています
役に立った
2022年6月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ヴェスパーの描写に関心を持ちます。映画女優との比較や007の思いなど。続きはどうなるのか?
2019年12月27日に日本でレビュー済み
拳銃は38口径のコルト・ポリス・ポジティブ、車はチョーク付きのベントレー、連絡は暗号文の電報。採取した指紋はプラン式電送写真で。秘密兵器は出てこない。1953年に書かれたので時代を感じてしまうのはしかたがない。
それにしても、女性の服装とか挙措について、病的なまでの描写はfetishismと思うことしばしばである。麦藁帽子を被っているのは、陽射しが強い場所なのだろう。海水浴を楽しんでいたり。暑い気候の中で物語がすすんでゆく。
フェリックス・ライターと落ち合った時に、ようやく’Mine's Bond--James Bond.’の台詞。
ここで飲まなくてもいいと思うんだけれど、'Three measures of gordon's, one of vodka, half a measures of Kina Lillet. Shake it very well until it's ice-cold, then add a large thin slice of lemon peel. と注文する。
素性もわからないヴェスパー・リンド嬢とおしゃべりしながら、子牛の腎臓肉のプレーンソテーのリンゴ添えだの、キャビアと擂りつぶした固ゆで卵の白身と黄身と玉葱のみじん切りを山と積まれたトーストにのせてだの、レバーのパテだの、シャンパンだの、野いちごに生クリームをかけてだの、という極めつけの高脂血症メニュー。食事の描写がやや冗長。
イギリスは食い物にこだわりがある。D.H.ロレンスは『エトルリアの故地』で地元の娘さんが作った料理について不味いと書いてるよ。もっとも食事の描写に興味津々なのは私だけかもしれない。
この台詞には吹いた。
Vesper:'People are island, they don't really touch. However close they are, they're really quite separate. Even if they've been married for fifty years.'
Bond:‘Let's’ join up and make a peninsula, Now directly we've finished the strawberries.'
ジェームズ・ボンドは映画のように格好よくないです。以前、スパイ関係のノンフィクションを読みましたが、ちょっとした連絡ミスや、ターゲットとしている人物との思わぬすれ違い、こんなはずじゃなかった〜! などで失敗することが多々あるのです。そのあたりを著者は経験からうまく描写しています。
井上一夫訳を読んだのは10年前、映画を観たあとに読んだので、映画のイメージを拭いきれずに読んでいた。今回はイメージも見事に消し飛んでいる。新訳はやはり読みやすい。
それにしても、女性の服装とか挙措について、病的なまでの描写はfetishismと思うことしばしばである。麦藁帽子を被っているのは、陽射しが強い場所なのだろう。海水浴を楽しんでいたり。暑い気候の中で物語がすすんでゆく。
フェリックス・ライターと落ち合った時に、ようやく’Mine's Bond--James Bond.’の台詞。
ここで飲まなくてもいいと思うんだけれど、'Three measures of gordon's, one of vodka, half a measures of Kina Lillet. Shake it very well until it's ice-cold, then add a large thin slice of lemon peel. と注文する。
素性もわからないヴェスパー・リンド嬢とおしゃべりしながら、子牛の腎臓肉のプレーンソテーのリンゴ添えだの、キャビアと擂りつぶした固ゆで卵の白身と黄身と玉葱のみじん切りを山と積まれたトーストにのせてだの、レバーのパテだの、シャンパンだの、野いちごに生クリームをかけてだの、という極めつけの高脂血症メニュー。食事の描写がやや冗長。
イギリスは食い物にこだわりがある。D.H.ロレンスは『エトルリアの故地』で地元の娘さんが作った料理について不味いと書いてるよ。もっとも食事の描写に興味津々なのは私だけかもしれない。
この台詞には吹いた。
Vesper:'People are island, they don't really touch. However close they are, they're really quite separate. Even if they've been married for fifty years.'
Bond:‘Let's’ join up and make a peninsula, Now directly we've finished the strawberries.'
ジェームズ・ボンドは映画のように格好よくないです。以前、スパイ関係のノンフィクションを読みましたが、ちょっとした連絡ミスや、ターゲットとしている人物との思わぬすれ違い、こんなはずじゃなかった〜! などで失敗することが多々あるのです。そのあたりを著者は経験からうまく描写しています。
井上一夫訳を読んだのは10年前、映画を観たあとに読んだので、映画のイメージを拭いきれずに読んでいた。今回はイメージも見事に消し飛んでいる。新訳はやはり読みやすい。
2020年6月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ロシアのスパイをカジノで破産させるべくイギリスのスパイが送り込まれ・・・というお話。
007シリーズ記念すべき第一作。敵のスパイを破滅させる為、カジノで戦いを挑むという少し変わった感じのスパイ小説だと思いました。
著者のフレミングが実際に諜報機関で働いていたという事で、自らの体験を元にカリカチュアした感じのスパイ小説を書いてみよう思ったのでしょうか。
解説にある通り、ジェームス・ボンドもかなり俗物として敢えて設定したとの事で、通俗的になる様に書いても単なる通俗小説にならず、華麗になった所にフレミングの筆力を感じました。
短いながらも読みごたえのある作品。機会があったら是非。
蛇足ですが、シリーズの他の作品の新訳にしてほしいです。
007シリーズ記念すべき第一作。敵のスパイを破滅させる為、カジノで戦いを挑むという少し変わった感じのスパイ小説だと思いました。
著者のフレミングが実際に諜報機関で働いていたという事で、自らの体験を元にカリカチュアした感じのスパイ小説を書いてみよう思ったのでしょうか。
解説にある通り、ジェームス・ボンドもかなり俗物として敢えて設定したとの事で、通俗的になる様に書いても単なる通俗小説にならず、華麗になった所にフレミングの筆力を感じました。
短いながらも読みごたえのある作品。機会があったら是非。
蛇足ですが、シリーズの他の作品の新訳にしてほしいです。
2019年9月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ミスター・スティーヴン・グリシャム、白石朗さんによる新訳がリリースされたと聞いて、「007/カジノ・ロワイヤル "Casino Royale"」(イアン・フレミング 創元推理文庫)を読んでみることにしました。遥か昔に井上一夫さんの訳で読ませていただきましたが、前半の<バカラ>シークェンス以外は忘れてしまっていました。<遥か昔>、Mならば「無理もない」と言って許してくれるでしょう(笑)
導入部、アクション、そして<バカラ>、後半はアクションによる<苦難>、ジェイムズとヴェスパーの<道行き>と大きくその構成は分かれています。
<バカラ>のゲーム性については、沢木耕太郎「波の音が消えるまで」を読んでいただくこととして、夜毎、違法バカラのために新宿に通いつめていた友人によると、そこでは一晩で数百万単位の<波>が打ち寄せ合うゲームが繰り返されていたと聞いています。聞いた話ですよ(笑)本当に、まったく。この物語の<バカラ>もまた、今読んでもとてもスリリング、エキサイティングですね。登場人物、ル・シッフルの造形に負うところが大きいと思います。
アクションによる<苦難>は、単純にディック・フランシスを想起しました。彼には、イアン・フレミングのオリジンが継承されていたのですね。とても感慨深い。そして、その<苦難>の後、ジェイムズはフランスの諜報部員、ルネ・マティスとの長い会話を通して滔々と自分自身を語り始めます。チャンドラーの「プレイバック」に於いてマーロウに語りかけるヘンリー・クラレンドン四世のように語っているのだと思います。
そして、長すぎる、女々しいとすら思えるような<道行き>の後のヴェスパーの告白には、グレアム・グリーンの「ヒューマン・ファクター」を読み終えた時のような、深い<哀しみ>が押し寄せてきました。<血を流す心>、幕切れはまごうかたなくダシール・ハメットです。とってもハードボイルドでした。
イアン・フレミングは新旧を問わず英国の作家たちに影響を与え、逆に米国のハードボイルド・スクールからその「反映」を貰っていたことが伺えます。ジェイムズ・ボンドと言えば、映画の中における彼の姿を想起してしまいがちですが、その原作においては人間的な陰りを帯びたヒーローとして認識できます。比べることはできません。どちらのジェイムズもジェイムズです。
"Yes.My name is Bond, James Bond"(笑)
導入部、アクション、そして<バカラ>、後半はアクションによる<苦難>、ジェイムズとヴェスパーの<道行き>と大きくその構成は分かれています。
<バカラ>のゲーム性については、沢木耕太郎「波の音が消えるまで」を読んでいただくこととして、夜毎、違法バカラのために新宿に通いつめていた友人によると、そこでは一晩で数百万単位の<波>が打ち寄せ合うゲームが繰り返されていたと聞いています。聞いた話ですよ(笑)本当に、まったく。この物語の<バカラ>もまた、今読んでもとてもスリリング、エキサイティングですね。登場人物、ル・シッフルの造形に負うところが大きいと思います。
アクションによる<苦難>は、単純にディック・フランシスを想起しました。彼には、イアン・フレミングのオリジンが継承されていたのですね。とても感慨深い。そして、その<苦難>の後、ジェイムズはフランスの諜報部員、ルネ・マティスとの長い会話を通して滔々と自分自身を語り始めます。チャンドラーの「プレイバック」に於いてマーロウに語りかけるヘンリー・クラレンドン四世のように語っているのだと思います。
そして、長すぎる、女々しいとすら思えるような<道行き>の後のヴェスパーの告白には、グレアム・グリーンの「ヒューマン・ファクター」を読み終えた時のような、深い<哀しみ>が押し寄せてきました。<血を流す心>、幕切れはまごうかたなくダシール・ハメットです。とってもハードボイルドでした。
イアン・フレミングは新旧を問わず英国の作家たちに影響を与え、逆に米国のハードボイルド・スクールからその「反映」を貰っていたことが伺えます。ジェイムズ・ボンドと言えば、映画の中における彼の姿を想起してしまいがちですが、その原作においては人間的な陰りを帯びたヒーローとして認識できます。比べることはできません。どちらのジェイムズもジェイムズです。
"Yes.My name is Bond, James Bond"(笑)