斉藤光政『戦後最大の偽書事件「東日流外三郡史」』読了。
今年に入って、高橋克彦の陸奥四部作を立て続けに読んだ。
そこでは、津軽が東日流と書かれ、京の都に匹敵するくらいの栄華を誇っていたというような表現があり、これは高橋の完全な創作かと思っていたのだが、そこには『東日流外三郡史』という底本があったこと、しかも、この底本が今では偽書として否定されていることを知った。
その偽書であることを追及し続けた東奥日報社の記者のルポルタージュである。
東日流外三郡史とは、青森県五所川原市の和田喜八郎という炭焼き農家の屋根裏から1970年代に、こおり二つに詰められた古文書が落ちてきて(和田家文書と呼ばれる)、その中にあったとされるものである。
そこには、古代の大和王権から迫害された民が津軽に繫栄していたという歴史が書かれていた。
それが、80年代の古代史ブーム等によって注目されるようになる。そして、町おこしを狙う地方自治体が公式の資料として出版することにより、多くの人がこれを真書だと信じるようになった。
さらに、「邪馬台国は無かった」説を唱える昭和薬科大学教授の古田武彦が、自説を証明する一説が東日流外三郡史に書かれているということから、真書派の中心人物となり、偽書派との論争が繰り広げられた。
確かに内容は、よくこんな歴史を考え付くものだというほどに、異様であると同時に詳しい。
しかも、和田家文書は1000件を超える膨大な量がある。とても一人では偽造できないように思える。
加えて、その写真を見ると、本物の古文書に思えてくる。
しかし、著者が調査していくと、そのことごとくが、偽書であることが判明する。
例えば、和田家の天井裏には、こおりを二つも隠すほどのスペースが存在しない。というか、それ以上に、和田家は明治か大正に新築されており、昔から古文書が密かに隠されていたはずがない。
しかも、和田家文書は元本を喜八郎の祖父と父が書写したものだとされるが、祖父も父も文字が書けなかった。
さらに、和田家文書には「光年」「冥王星」「準星」といった20世紀に発見された科学用語が入っていたり、江戸時代には使われていなかった表現が使われていたりする。
筆跡も喜八郎のものと一致し、しかも、決定的なのは漢字の間違い箇所が共通しているのである。
たった、一人でこれほどの量の偽書が作れるのかという疑問だが、実は、昭和20年代から偽書づくりを開始しており、東日流外三郡史の前にもそれを小出しにしていたことを考えると、実に50年にわたって都合千点以上の偽書を作成してきた。これなら、可能である。
加えて、和田家文書には「神は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」という表現が頻出するのだが、偽書派はこれをもって福沢諭吉からの盗用だとみなしたが、和田喜八郎は後に福沢諭吉から和田家に宛てた礼状の写しなるものを公開する。そこには福沢が和田家から東日流外三郡史を借りていて大変参考になったというような趣旨が書かれている。こういう細工を凝らすことで、本物らしさを演出する仕組みがいたるところで見られるのである。
このようにして、東日流外三郡史の偽書性はほぼ証明され、今では、真書として扱う人はほとんどいない。
が、それにしても、偽の歴史を考えだし、しかもそれを古文書らしく見せかけて偽造する。それを50年以上もコツコツと続ける努力とは、いったいどのような才能なのだろう。
フェルメールの贋作画家メーヘレンの場合は、それが金になるという点で明確な動機があるのだが、喜八郎の場合も金になるとはいえ、古文書を売って儲けることはできない。調査されて偽書であることが証明されてしまうからだ。名誉欲と創作?意欲が大きな動機だったのだろうか。
いずれにせよ、不思議な事件ではある。
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戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」 (集英社文庫) 文庫 – 2019/3/20
斉藤 光政
(著)
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すべてがインチキだ!
「東日流外三郡誌」の真贋論争の中心にいた青年記者がその真相を暴く──
立花隆氏、呉座勇一氏など各界著名人たちに注目された迫真のルポルタージュ!
青森県五所川原市にある一軒の農家の屋根裏から、膨大な数の古文書が発見された。当初は新たな古代文明の存在に熱狂する地元。ところが1992年の訴訟をきっかけに、その真偽を問う一大論争が巻き起こった。この「東日流外三郡誌」を巡る戦後最大の偽書事件を、東奥日報の一人の青年記者が綿密な取材を重ね、偽書である証拠を突き付けていく──。事件後見えてきた新たな考察を加えた迫真のルポ。
カバーイラストは「機動戦士ガンダム」でおなじみの安彦良和氏描き下ろし!!
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カバーイラストは「機動戦士ガンダム」でおなじみの安彦良和氏描き下ろし!!
- 本の長さ464ページ
- 言語日本語
- 出版社集英社
- 発売日2019/3/20
- 寸法10.5 x 1.9 x 15.2 cm
- ISBN-104087458520
- ISBN-13978-4087458527
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- 出版社 : 集英社 (2019/3/20)
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- 言語 : 日本語
- 文庫 : 464ページ
- ISBN-10 : 4087458520
- ISBN-13 : 978-4087458527
- 寸法 : 10.5 x 1.9 x 15.2 cm
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2024年5月21日に日本でレビュー済み
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東日流外三郡誌に興味が有った訳でもなく
当時全く知らない事だったが「偽書事件」に興味をそそられ購入
読んでよかった
嘘と虚偽と邪悪と言い訳、、、有り体に言えば詐欺師、嘘つきの
追跡調査を物語として書いてある本書は
我々の身近に居る嘘つき、邪悪な人を知る上で、
昨今のフェイクニュース、陰謀論問題に対する心構えとして貴重な情報が得られる
本書は東日流外三郡誌に対するる学術的反論書ではなく
ルポを基にしたお話、物語、小説に近い作りの本なので
その辺の読んで知りたい情報の差には注意が必要かもしれません
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2022年3月22日に日本でレビュー済み
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報道してきた立場の当事者として詳しく状況が描かれており、非常に面白いのだが、
「起きたこと全部書き残しておこう」ということなのか、時系列に重要度の高低に関わらず細かく記述されているため、途中から読んでて疲れてくる
(読んでみないとその章の重要度は分からない)
この辺はドキュメンタリー方式の限界かもしれないなと思う
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2024年3月29日に日本でレビュー済み
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古史古伝といわれる書と同じ位置づけで名前をきいていたが、なんとも偽書確定の内容!
他の書の捉え方を考えさせられる本である!
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2024年1月12日に日本でレビュー済み
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東日流外三郡誌については、ブームの頃読んみ、「なんかうさんくさい」とは思いながらも信じ込み、忘れかけていましたが、本書を読んでその考察と、限りない偽書性を知り、目が覚めた感じです。
私は、偽書派に転じましたが、擁護派の意見等に、取材を拒否されたと思いますが、もう少し踏み込んでほしかったと思います。
私は、偽書派に転じましたが、擁護派の意見等に、取材を拒否されたと思いますが、もう少し踏み込んでほしかったと思います。
2023年10月13日に日本でレビュー済み
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この偽書騒動は実はNHKのテレビで初めて知ったと記憶する。それは1985年10月28日放送「ぐるっと海道3万キロ 北の海洋王国」だったか、1993年6月1日放送の「ナイトジャーナル」だったか? とにかく一度は青森の十三湖に行ってみたいなあ程度だった。
今回調べてみると、2019年6月13日、NHKBSの「ダークサイドミステリー」でこの「東日流外三郡誌」が採りあげられていた。その放送には著者の斎藤光政氏はもちろん、当時の「ぐるっと海道3万キロ 」の映像も流れ、その中で渦中の人物和田喜八郎さんの生前の映像も流れていた。
ノンフィクション作品としては抜群に面白く、450頁を超える紙数ながら無理なく読み終えた。合わせて戸来のキリスト伝説もその真相を知った。青森は1度行ったきりで、再び訪れてみたい。
今回調べてみると、2019年6月13日、NHKBSの「ダークサイドミステリー」でこの「東日流外三郡誌」が採りあげられていた。その放送には著者の斎藤光政氏はもちろん、当時の「ぐるっと海道3万キロ 」の映像も流れ、その中で渦中の人物和田喜八郎さんの生前の映像も流れていた。
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2021年4月5日に日本でレビュー済み
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"外三郡誌にかかわっただれもが、大なり小なり傷ついていた(中略)だが、われわれは前へ進まねばならなかった。"2006年発刊(2019年復刊)された本書は、訴訟事件を担当した事をきっかけに、東北で発見された謎の古文書に関わることになった新聞記者による長きにわたるルポタージュ。
個人的には、同じく偽文書『椿井文書』に関する本を最近読んだこともあり、本書も手にとってみました。
さて、そんな本書は青森に住む和田喜八郎が自宅を改装中に『天井裏から落ちてきた』と1975年に『発見した古文書』【東北地方には"古事記"や"日本書紀"には登場しない古代王朝があったのだ】とする東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)に、1992年の訴訟事件をきっかけに関わるようになった地元紙の記者である著者が、古文書の胡散臭さを嗅ぎ取りスクープ記事として掲載、必然的に【真贋論争に巻き込まれていった様子】が、まるで推理小説のような形式で丹念に描かれているのですが。
とは言え、書きながら矛盾しますが。仮に推理小説だとすれば、通常は最後まで真実は一体?とハラハラドキドキするものだと思いますが。著者が発見者、和田喜八郎が亡くなった後に自宅を訪問する場面で始まり、終わっている本書。『天井裏から落ちてきた』の始まりの経緯から【明らかに嘘】と明かされた上で、古文書は正しいとする人たちが次々と【チープな嘘を重ねて自滅していく】ので、はっきりいって、ハラハラドキドキはなく、終始『昭和のコント、お約束茶番劇』を延々と見せられているような【繰り返されるマンネリ感】がありました。
また、真贋論争の流れの中で。青森のキリストの墓、ムー大陸に『ノストラダムスの大予言』前安倍首相が東北安倍王族の末裔(!)と1990年代の好景気を背景にした【話題になったり、売れればなんでも】的なメディアによる懐かしいワードがどんどん出てくるので、例えば『天下一品のラーメン屋で、スープこってりを頼んだら【予想以上にこってり過ぎて】胃がもたれた』といった、ぐったり感が食後もとい読後にありました。("さらば、全ての東日流外三郡誌。"と、著者には本当にお疲れ様。と声をかけてあげたい)
1990年代にオカルトやスピリチュアルにハマった人、ムー愛読者の人、こってりラーメン好きにもオススメです。
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