この本は恐らく、小川さやか「
チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学
」を読んでからでないと、本当の意味での興味深さは多分わからないだろう。
重慶大厦(チョンキンマンション)は香港の九龍油尖旺区尖沙咀地区のネイザンロード(彌敦道)に面して建つ、1960年代に開発された複合ビルである。
この本の原本は2011年で10年後の2021年に翻訳されたので、時代の隔絶の感が否めない。2010年までは、香港がまだ1997年に中国に返還されたばかりで、まだ明確に二国制度が生きていた頃だったからだ。丁度取り締まりが厳しくなり始めた頃とはいっても、現地の警察も当局からの指示があっても緩やかなところがあって、麻薬や暴力沙汰でもない限り、このチョンキンマンションに介入することはほとんどしていない。
(1)建物内の物価の安さ
(2)途上国の多くの人が簡単に香港に入ってこられること
(3)南中国が巨大な製造業の拠点として出現したこと
(1)については、ここの宿泊施設も驚く程安い。詳細はこの本を読まれるか、小川さやか氏の著書を読んで欲しい。
(2)については、香港のゆるやかな査証規則がある。香港は査証無しで14日、30日、あるいは90日間の滞在が許される(現在は厳しくなっているかは調べてないので、割愛)。
(3)これについては、香港のすぐ北に位置し、経済特区に指定されている深圳があることからもわかる。
深圳市はファーウェイ、テンセント、BYD、ZTE、DJI、伝音科技など、著名な中国企業が本社を構えているのだ。「中国のシリコンバレー」とも呼ばれた都市である(まあ悪名も高いが)。電子機器や家電、携帯電話(スマホ)などが生産され、はたまたそれを安く仕入れたり、インフォーマルな方法で、アフリカや中東、東南アジアなどの海外に輸出されている貿易商(これも密輸もどきのインフォーマルであるが)も多数いる。
そのチョンキンマンションはその「ゲットー」とも言えるところがあって、現地の中国人からも悪印象を与えていたところである。これほどであっても、中国マフィア(三合会)とかは過去いたと思われるが、現在は介入もしていない様だ。これがとても不思議である。
Youtubeで「チョンキンマンション」で検索すると、その激安宿に泊まってみたといった動画や、そこの建物内を撮影した動画が伺えるが、1990年代の電気街だった秋葉原以上のカオスっぷりと言えば通じるだろうか?(私は1998年頃、東京に転勤で滞在していたこともあり、それを思い出した)
都市経済にはマージナル(境界)を隔てると、異界になるという領域が必ず生まれ、それはある建物だったり、ある場所だったり、ある島だったりと色々な理由により、隔たれた「闇」を持った場所を必ず生むのである(この辺は栗本慎一郎氏の受け売り)。
この本は非常に多くのインタビューから書き起こされているので、退屈な面もあるが、非常に多くの海外の人々の人生であるとか、波乱万丈な経歴だったりが語られているので、ちょっと会社で叱られて凹んでいる人には読ませたい本ではある。目の前で家族が殺されて、命がけで密航して香港で安い賃金で働いている人、店の金を持ち逃げした人、コカイン中毒になってしまった人、まあ色々といる。
インフォーマルな経済領域は、人類学者にとって非常に多くの啓発要素があり、かつての未開民族のフィールドワークで有名になった文化人類学は、グローバル経済化した現在にとっては、海外ビジネスをする人にとっては「経済人類学」こそもっと学ばなくてはいけないだろう。
私は、こんな領域で仕事をしている人間ではないが、企業も一つのマージナル(境界)性を持っていて、「企業文化」や「企業習俗」も立派に人類学者にとってはフィールドワークのターゲットになり得る。トヨタ王国なんかもそれであろう。
ハッキリ言えば、この本は万人向きではない。インタビューも片言の言葉で書かれていることに苦言を呈するレビューがあったが、中国語そのものが「そういう言語」であることを忘れてはいけない。中国語(日本人が上手に翻訳しているから気づかないかもしれないが)は、直訳すると日本人にとっては片言で「無礼」な言語であると知っておかないといけない。
この本が出てから12年も経ち、コロナ政策、本土介入によって香港で当局との暴動などを得て、状況はかなり違っているかもしれないので、その辺は皆さんが調べて欲しい。
この本は読み切るのに4か月かかった(その前後に仕事の多忙に引っ張られたせいである)。まあ読む際は小川さやか氏の著書の参考文献として読んだ方が良い。
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チョンキンマンション: 世界の真ん中にあるゲットーの人類学 単行本 – 2021/2/22
ゴードン・マシューズ
(著),
宮川陽子
(翻訳)
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『チョンキンマンションのボスは知っている』著者・小川さやか氏推薦!
世界有数のメトロポリス、香港。グローバル経済、文化の中枢を担う大都会の一角に、ひとつの巨大な雑居ビル、チョンキンマンション(重慶大厦)がある。17階建てのそのあやしげなビルには、毎日100か国以上の人びとが行き交う。なぜ世界中のバックパッカーや商人たちは、チョンキンマンションをめざすのか。そこでどんな取引がなされているのか。長年にわたり現場に通い続けた人類学者が丹念に描く、もうひとつのグローバリゼーション。
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- 本の長さ416ページ
- 言語日本語
- 出版社青土社
- 発売日2021/2/22
- 寸法13.2 x 2.9 x 19 cm
- ISBN-104791773543
- ISBN-13978-4791773541
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登録情報
- 出版社 : 青土社 (2021/2/22)
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- 言語 : 日本語
- 単行本 : 416ページ
- ISBN-10 : 4791773543
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2023年7月15日に日本でレビュー済み
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2021年5月21日に日本でレビュー済み
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香港の魔窟といえば九龍城が古くは有名であったが、本書は「チョンキンマンション」を舞台に繰り広げられる新自由主義とグローバリズムのせめぎあいを描いた文化人類学に基づく異文化研究書。
超大企業が世界で覇権を握るためにあらゆる戦略、戦術ときには陰謀を巡らせるのではなく、中国本土とアフリカの結節点で多くの南アジア人が商売の仲介で生業を立て、アフリカ商人たちとまさに「民間交易場」をそれなりの秩序を持って運営されていることが(多少、饒舌に)書き込まれる。
交易品は本書が書かれた時点では携帯電話がメインで衣料品、宝石加工など個人輸入、それも自力で持ち込める量が限界だったようだが、スマホにとってかわられ携帯の売買は衰退したうえに、香港での人権運動の高まり、コロナ禍の追い打ちによって今現在どうなっているのか?がぜひ読んでみたい。いや、行ってみたい!
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2021年11月17日に日本でレビュー済み
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チョンキンマンションの実態を多角的に表現しており文化人類学の進歩に貢献していると思います。
ただ、文章が冗長で繰り返し同じことが述べられているため、簡潔さに欠けると感じました。
ただ、文章が冗長で繰り返し同じことが述べられているため、簡潔さに欠けると感じました。
2022年4月2日に日本でレビュー済み
翻訳の文章がとても読みづらく、入力ミスもあり、内容に集中できません。
内容が興味深いだけにとても悔しいです。
出版する前にチェックできない事情でもあったのか、不思議に感じます。
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