啓発的な内容が豊富で、大変読み応えがありました(約620ページ、丁寧に楽しみながら読んで私の場合ほぼ1ヶ月)。専門外のディレッタント(理系の研究者ではあります)としての私の感想を一口にまとめると、「丁寧に読みさえすれば、非常に面白い、目を見開かされる、そして消化しきれない部分も参考書として後に役に立ちそうな本」。アマゾンの書評の中には、専門書か素人向けかの区別が不明で中途半端、といった負の評価も見受けました。私には「それこそがまさに大変有難い点」でした。
たとえば「次々に出てくる新しいキーワード、これらを順々に把握して読んでいきやすい本か?」という観点。理系のキーワードは大抵長いカタカナ語(またはPCR的略語)で、原語はローマ字の合成語です。残念ながら素人向けの多くの教養書では、長いカタカナ語(又はローマ字略語、どちらにせよ「顔がない」)が書かれているだけですから、それらが増えてくると読者の眠気を生じ、そこが「飛ばし読みの始まり地点」になります。ところが本書では、語源が、ギリシャ語やラテン語由来の接頭接尾語の説明も含めて、丁寧に説明されているため読者が専門用語それぞれに対する正しい位置付けとイメージを持つことができ、それらに親しみながら読み進んで行けるのです。
著者がいかに「内容の内容」まで読者に伝えたいと願っているか、それがここからも伝わってきます –––そしてそれを願っていた素人も実は多いのです。これは説明の丁寧さのほんの一例でしたが、大掴み内容で伝わってくるのは、
理系的な要素としては、いかに藻類が多様性に富み初期の生物進化を推進してきておりその理解が学問的に重要であるか(それなのに日本ではまだ連携が。。。)
社会的要素としては、資源としての重要性 ––– 従来は遠い昔の藻類由来の資源だより、未来は地球上でそのとき生きている藻類がエネルギー資源にも使えそうという方向。
ちなみにこの社会的要素については(より最近出版の)ルース・カッシンガー著「藻類」(和訳は本書の著者)と合わせて読みました。こちらは「理学的より工学的、社会的」「日本人の感性よりアメリカ人の感性」。「学者ではなくサイエンスライターのルポ風」。両者は対照的、かつ補完的と感じます。
構成という意味では、度々脱線して細部に立ち入ってもいます。いわば「ほら、この顕微鏡でこれも覗いてごらんなさい」が多い。急いで読みたい読者にとっては欠点かも知れません。しかし時間を「知」のために惜しまないつもりで丁寧に読んでみると、(全部でなくてもその多くが)藻類の多様性の面白さについて何らかの新しい目開きを与えてくれる、そういう対象を選んで丁寧に説明しているのだと分かります。地球の歴史の雄大さの話と絡めた顕微鏡的視点の重要性の話もあります。また著者の広い教養(歴史、文学)と豊かな表現力も、比喩や癒しとして楽しめました。
私が本書を知ったもとは、著者の研究室で発見されたなぞの藻類(動植物の、いわばあいのこの)「ハテナ」に興味を抱いたことでした。実は、本書を購入する際はその分厚さとそれに見合った値段から、買ってしまって後悔しないだろうかと気になりました。でも全くの杞憂でした。内容が予想を超える広範な勉強になっただけでなく、著者の深い知性と情熱を感じ取れ豊富な図も楽しめ、読み残した所も私にとっての貴重な参考書として本棚の中央部に置いておきたいという一冊になりました。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
藻類30億年の自然史: 藻類からみる生物進化・地球・環境 単行本 – 2007/11/1
井上 勲
(著)
- ISBN-104486017773
- ISBN-13978-4486017776
- 出版社東海大学
- 発売日2007/11/1
- 言語日本語
- 本の長さ643ページ
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
登録情報
- 出版社 : 東海大学 (2007/11/1)
- 発売日 : 2007/11/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 643ページ
- ISBN-10 : 4486017773
- ISBN-13 : 978-4486017776
- Amazon 売れ筋ランキング: - 223,130位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 360位植物学
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。

著者の本をもっと発見したり、よく似た著者を見つけたり、著者のブログを読んだりしましょう
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2021年11月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2022年8月6日に日本でレビュー済み
ガイア理論から藻の歴史を知ろうとこの本を読んでみたが、藻の地球への影響の大きさに改めて驚かされる。藻の貢献を列挙してみると以下の7つになる。
1)太陽系の惑星で地球だけが酸素21%、二酸化炭素0.036%となっているのは、藻類によって原始大気の二酸化炭素から酸素を作り出したからだ。
2)酸素呼吸を可能とする現在の2000万種の生物多様性は、およそ30億年前の藻類(シアノバクテリア)による酸素発生型光合成のおかげだ。
3)オゾン層のおかげで有害な宇宙線と短長波の紫外線が防がれている。オゾン層は藻類の作り出した気体酸素のおかげだ。
4)農耕と石器文明には鉄を必用とする。18〜25億年ほど前の原始海洋で、藻類が放出した酸素により海水に溶けていた鉄が酸化し海底に沈殿し、鉄鉱床となった。
5)鉄があっても石油がなければ現代文明(アントロポセン)にはならない。採掘可能な原油の80%が埋蔵される中東は、1〜2億年ほど前の古地中海(テーチス海)で」大繁殖した藻類とそれを食物連鎖とする動物プランクトンの死骸が変性したものだ。
6)光合成と同時に、藻類は二酸化炭素を石灰岩(海生微生物起源)に閉じ込めてきた。
7)雨をもたらす雲を形成する凝固核は藻類により作られる。藻類がいなければ雨は降らないし、太陽光を遮ることもできなかった。
これらの中で、気温に大きく影響する雲を作る仕組みにフォーカスしてみる。
海苔の匂いは、DMSP(ジメチルスルホニオプロピオネート)の匂いだが、このDMSPは海藻や植物プランクトンが作る。ジェームズ・ラブロックはこのDMSPを前駆体として形成されるDMS(硫化ジメチル)が、大気に放出され、酸化して硫酸ゾルになり、水蒸気の凝固核になることを見出した。海に独特な磯の匂いがあるが、これがDMSだ。藻類は浸透圧の調整でDMSPを生産するが、藻類が捕食されたり、死んだりするとDMSPが溶け出し、海洋の細菌の働きでDMSに変換される。
DMSを核とする雲の形成が気候の維持に果たす役割は大きい。雲ができると太陽の光を遮断するので、地球が吸収する熱量が下がる。DMSによって雲ができなければ地表の温度は10℃高くなるという。生物作用によって作られた物質が気候の制御をしているということだ。工場や車の排気ガスが雲の凝固核になると、酸性雨を降らすというが、古代から営まれる藻から生成されるDMSによる凝固核であれば酸性雨とはならないだろう。
以下のラブロックのアイデアはまだ実行されていないが、海面の藻類を増やすことがいかに重要かが、この本からも読み取れる。
「波の動きを利用して水をくみ上げるため下端に逆止め弁を設けた長さ100〜200メートル、直径10メートルほどのパイプで海洋深層水をくみ上げ、海面の藻類に栄養分を与えて増殖させる。すると、二酸化炭素が減少して、硫化ジメチル(日光を反射する雲を形成する核の前駆物質)が生成される。」
1)太陽系の惑星で地球だけが酸素21%、二酸化炭素0.036%となっているのは、藻類によって原始大気の二酸化炭素から酸素を作り出したからだ。
2)酸素呼吸を可能とする現在の2000万種の生物多様性は、およそ30億年前の藻類(シアノバクテリア)による酸素発生型光合成のおかげだ。
3)オゾン層のおかげで有害な宇宙線と短長波の紫外線が防がれている。オゾン層は藻類の作り出した気体酸素のおかげだ。
4)農耕と石器文明には鉄を必用とする。18〜25億年ほど前の原始海洋で、藻類が放出した酸素により海水に溶けていた鉄が酸化し海底に沈殿し、鉄鉱床となった。
5)鉄があっても石油がなければ現代文明(アントロポセン)にはならない。採掘可能な原油の80%が埋蔵される中東は、1〜2億年ほど前の古地中海(テーチス海)で」大繁殖した藻類とそれを食物連鎖とする動物プランクトンの死骸が変性したものだ。
6)光合成と同時に、藻類は二酸化炭素を石灰岩(海生微生物起源)に閉じ込めてきた。
7)雨をもたらす雲を形成する凝固核は藻類により作られる。藻類がいなければ雨は降らないし、太陽光を遮ることもできなかった。
これらの中で、気温に大きく影響する雲を作る仕組みにフォーカスしてみる。
海苔の匂いは、DMSP(ジメチルスルホニオプロピオネート)の匂いだが、このDMSPは海藻や植物プランクトンが作る。ジェームズ・ラブロックはこのDMSPを前駆体として形成されるDMS(硫化ジメチル)が、大気に放出され、酸化して硫酸ゾルになり、水蒸気の凝固核になることを見出した。海に独特な磯の匂いがあるが、これがDMSだ。藻類は浸透圧の調整でDMSPを生産するが、藻類が捕食されたり、死んだりするとDMSPが溶け出し、海洋の細菌の働きでDMSに変換される。
DMSを核とする雲の形成が気候の維持に果たす役割は大きい。雲ができると太陽の光を遮断するので、地球が吸収する熱量が下がる。DMSによって雲ができなければ地表の温度は10℃高くなるという。生物作用によって作られた物質が気候の制御をしているということだ。工場や車の排気ガスが雲の凝固核になると、酸性雨を降らすというが、古代から営まれる藻から生成されるDMSによる凝固核であれば酸性雨とはならないだろう。
以下のラブロックのアイデアはまだ実行されていないが、海面の藻類を増やすことがいかに重要かが、この本からも読み取れる。
「波の動きを利用して水をくみ上げるため下端に逆止め弁を設けた長さ100〜200メートル、直径10メートルほどのパイプで海洋深層水をくみ上げ、海面の藻類に栄養分を与えて増殖させる。すると、二酸化炭素が減少して、硫化ジメチル(日光を反射する雲を形成する核の前駆物質)が生成される。」
2011年6月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
久しぶりに自然科学の本でワクワクする気分になった。
まさに地球(ガイア)の主役である。真打登場!と掛け声のひとつもかけたい。
生命38億年のほとんどは藻類(をはじめとする単細胞生物)の世界だ
地球環境を大改造して現在のようにしたのは藻類だ。
地球全体の物質循環を支えているのは藻類だ。
植物(光合成)とは細胞のエネルギー戦略の一つにすぎない
多細胞生物の細胞なんかみんな同じでつまんない
藻類の独創性こそ生物多様性だ!
DNAなんか環境にいくらでも散らばっているメモリーにすぎない
目のうろこが落ちまくりの 刺激的な内容です。
まさに地球(ガイア)の主役である。真打登場!と掛け声のひとつもかけたい。
生命38億年のほとんどは藻類(をはじめとする単細胞生物)の世界だ
地球環境を大改造して現在のようにしたのは藻類だ。
地球全体の物質循環を支えているのは藻類だ。
植物(光合成)とは細胞のエネルギー戦略の一つにすぎない
多細胞生物の細胞なんかみんな同じでつまんない
藻類の独創性こそ生物多様性だ!
DNAなんか環境にいくらでも散らばっているメモリーにすぎない
目のうろこが落ちまくりの 刺激的な内容です。
2011年6月13日に日本でレビュー済み
中沢新一「日本の大転換-下」(すばる7)の参考文献としてあったので手に取った。
天然原子炉に藻の話があったがこの本には載ってない。
藻類は光合成により生態圏をうみだした。
鉄は海水に溶けていたものが藻類の放出した酸素で酸化沈殿して鉄鉱床のもとになったもの。
石油は藻類と捕食者の動物プランクトンの死骸の堆積変性したもの。
藻類がいなければ今ほど雨は降らない。
もともとラブロックのガイア仮説は海洋の藻類や微生物と地質変動の関わりが主役であり、多細胞生物はあまり意味合いをもたなかった。
この本ではマクロコスモスに対するミクロコスモスとしての微生物界の超複雑性があげられており、これからのフロンティアであるという。
天然原子炉に藻の話があったがこの本には載ってない。
藻類は光合成により生態圏をうみだした。
鉄は海水に溶けていたものが藻類の放出した酸素で酸化沈殿して鉄鉱床のもとになったもの。
石油は藻類と捕食者の動物プランクトンの死骸の堆積変性したもの。
藻類がいなければ今ほど雨は降らない。
もともとラブロックのガイア仮説は海洋の藻類や微生物と地質変動の関わりが主役であり、多細胞生物はあまり意味合いをもたなかった。
この本ではマクロコスモスに対するミクロコスモスとしての微生物界の超複雑性があげられており、これからのフロンティアであるという。
2013年8月18日に日本でレビュー済み
端的に言えば、読み物としては普通、学術書としては体裁がきちんと整っていない。以下詳細です。
藻類関係の和書はあまり見当たらないので貴重な書籍。筆者の藻類に関する知識を吸収できる。
しかしながら図に関連した文献の書き方について統一されていないのが至極残念である。また、引用文献漏れもある。
例えば、本書367ページの図11−7では、各藻類が持つ主要色素の吸収スペクトルが掲載されているのだが、残念なことに、重要な図にも拘わらず引用文献が記載されていない。一方で、360ページの図11−2では、きちんと引用文献が明記されている。このようなチグハグな文献の書き方であると、引用文献が明記されていないものについて言えば怪しいと思われても仕方がない。本文中に書かれているデータに至っては、ほとんど引用文献が明記されていない。巻末の引用文献がこれで役に立つのだろうか?内容が興味深いだけに、もっと知りたいと思った読者には不親切極まりない文献記載で、そのせいで学術書としての価値を大幅に落としているもったいない書籍である。第3版が出る際にはぜひともこの点を修正して学術書としての価値を大いに高めてもらいたい。そのときには星5つです。
藻類関係の和書はあまり見当たらないので貴重な書籍。筆者の藻類に関する知識を吸収できる。
しかしながら図に関連した文献の書き方について統一されていないのが至極残念である。また、引用文献漏れもある。
例えば、本書367ページの図11−7では、各藻類が持つ主要色素の吸収スペクトルが掲載されているのだが、残念なことに、重要な図にも拘わらず引用文献が記載されていない。一方で、360ページの図11−2では、きちんと引用文献が明記されている。このようなチグハグな文献の書き方であると、引用文献が明記されていないものについて言えば怪しいと思われても仕方がない。本文中に書かれているデータに至っては、ほとんど引用文献が明記されていない。巻末の引用文献がこれで役に立つのだろうか?内容が興味深いだけに、もっと知りたいと思った読者には不親切極まりない文献記載で、そのせいで学術書としての価値を大幅に落としているもったいない書籍である。第3版が出る際にはぜひともこの点を修正して学術書としての価値を大いに高めてもらいたい。そのときには星5つです。