音楽には,聴いた瞬間に背筋に電流がビビッと走るようなキラー・チューンというのがある一方で,何だかよくわからないけど最後まで聴いてしまったとか,何度となく繰り返して聴いているうちにじわじわと良さがわかってきた・・・そんな曲もありますよね。
まさに,その後者がブライソン・ティラー。
メロウなフレーズをサンプリングする一方で,水中で音楽を聴いているかのようなくぐもったエフェクトを多用する等,なんとも摩訶不思議でつかみどころのないサウンドなのですが,ゆったりとしたグルーヴが心地良く,気づくとハマっている・・・そんな感じです。
遠雷とともに雨が降り出し・・・そんな効果音でアルバムは幕を開けます。「Rain on Me (Intro)」です。そして,美しい子ども達のコーラス・・・もとい,これSWVの歌声ですね。SWV「Rain」(3rdアルバム「Release Some Tension」収録のしっとりバラード)を早回ししてサンプリングしています。コーラスの後,ゆったりとスウィングするシンセ・サウンドに乗ってラップするように歌うブライソンが。何とも心地良いナンバーです。
ノンストップで続く「No Longer Friends」は,Tweetのナンバーをサンプリング。歪んだようなエフェクトが逆にゆったりと心地良いスウィング感を醸し出しています。ほとんど滑らかなラップって感じのヴォーカルもイイです。ミステリアスで不穏な空気さえ漂うのが「Blowing Smoke」。サビの歌い回しは何やら呪文めいて聞こえます。ノンストップで続く「We Both Know」は,低温でゆったりうねるシンセが深遠なる闇を思わせます。
中盤に入って「In Check」。穏やかで気品のあるキーボードに,水中を思わせる幻想的なシンセが絡むスロー。穏やかでリーディングポエトリーのようなヴォーカルも味わい深いです。「Self-Made」は,オルゴールのようなキラキラしたキーボード音が妙に凛と響く,スリリングなナンバー。「Run Me Dry」は,ユラユラと揺れるシンセがエキセントリックながらも,ニヒルなメロディーがカッコ良いアップテンポ。
そして,個人的に魅かれたのがスピナーズ「(Do It, Do It) No One Does It Better」のサビの劇的なストリングス・パートをループした「High Stakes」。サンプリングだけでなく,夢見心地のキーボード(ハープかも)を交えたサウンドは,琴線に触れます。
レコード・プレーヤーの音飛びのように早回しサンプリングした楽曲を細切れにつないだトラックがゆったりとうねる摩訶不思議な「Teach Me a Lesson」は,白昼夢を見ているかのような心地良さ。メアリーJ・ブライジ「Don’t Go」が遠くで鳴っているのは「Stay Blessed」。情感あふれるフェイス・エヴァンスの歌声で幕を開けるのが「Set It Off」。これはズルいよなぁ,絶対に琴線に触れるよねって感じの選曲ですが,ここで忘れちゃいけないのが,ブライソンのヴォーカル。味のある声でゆったりと伸びやかに歌っていて,何とも心地良いです。アウトロ「Always」でも,チェンジング・フェイセズのナンバーをサンプリングし,伸びやかに歌い上げています。エンディングを締めるピアノが何とも美しくロマンティックです。
個人的に好きな90年代R&Bのナンバーを多くサンプリングしているせいもあったのですが,一見エキセントリックなサウンドにもかかわらず,グッと魅かれてしまいました。
Bryson Tillerは,ケンタッキー州ルイビル出身の新鋭R&Bシンガー。2015年のデビュー・アルバムが大ブレイク。2016年にはルイビル市から名誉賞を贈られ,なんと「Bryson Tiller の日」(3月12日なんだそうです)まで出来たとか。本作はセカンド・アルバム。今後の活躍が楽しみです。