マリス・ヤンソンス(Mariss Jansons 1943-)指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団によるマーラー(Gustav Mahler 1860-1911)の交響曲第7番ホ短調「夜の歌」。2016年のライヴ録音。
同じ顔合わせにより、既に第1番~第6番と第8番がリリースされているので、全集完成が間近に迫る一枚といったところ。ヤンソンスは第7番を2000年にオスロ・フィルハーモニー管弦楽団とも録音しているが、私は未聴。
当演奏を聴いた感想であるが、なかなか自分の中でも一つにまとまりにくい。時間を空けて、4回通して聴いてみたのだが、聴いていて「いいな」と思うところはいろいろあるのだけれど、時折なんか気が逸れるようなところがあると言うか、私自身の問題かもしれないと繰り返し聴いてみたわけだが、印象はあまり変わらなかった。
ちなみに、私はこの曲に関しては、ギーレン(Michael Gielen 1927-)、シャイー(Riccardo Chailly 1953-)、ブーレーズ(Pierre Boulez 1925-2016)の3種の録音が特に大好きなので、そういった観点でのレビューになる。
ヤンソンスのアプローチは全般にゆったり目であり、しかし緩急の差は結構ある。クライマックスで、エネルギーをためるように速度を落としたり、あるいは早めたり、そういった振幅はやや大きめだ。これに連れて暖かい音色で呼応するオーケストラの合奏音は美しく、時に耽美を感じさせてくれる。バランスも良好で、例えば第4楽章のマンドリンとヴァイオリンのやり取りのこまやかさなど、本当にきれい。それと、第3楽章も特に美しい演奏の一つと言えるだろう。
その一方で、この演奏は、輪郭を柔らかく覆う傾向が強い。もちろん、そのような音響美を目指すこと自体は、一つのやり方なのだけれど、その結果として、マーラーが楽譜に書き込んだスフォルツァンドの指示は、効果が弱まっていて、そのことが、全体的なリズムへの鋭敏性を弱めた印象につながっている。特にその点で私が気になるのは第1楽章で、ヤンソンスの指揮によって、ある意味浪漫的な美しさは十分に表出しているものの、それを支える駆動部の動きがさほど伝わってこない。
実は、私がこの曲で、ギーレン、シャイー、ブーレーズの録音が好きなのは、この駆動を支える構造を基礎に音楽を築くという明瞭な音楽の質感を聴きとるからで、それに比べると、ヤンソンスの演奏は、確かに美しいのだが、母屋をまず建てて、そのあと、それに合わせて基礎を成した感じで、これが私には若干以上の肌合いの違いを感じさせるのである。
その結果、前述のように「いいな」と思うところがいろいろあっても、それがどこかで途切れるような気持になってしまう。もちろん悪い演奏とまで言うものでもなく、オーケストラの全体的な音色の美しさは出色ものと言ってもいいくらいなのであるが、あるいはヤンソンスはこの曲はどこか得意ではないのかもしれない、という感じが残るのである。
もちろん、まだ4回聴いただけだし、ヤンソンスが素晴らしい指揮者であることは十分承知なのであるが、現時点では、以上踏まえて、星4つの評価にとどめたい。