マーラーの「千人の交響曲」第2部の合唱に、ゲーテの『ファウスト』が引用されていることは有名で、あの部分が戯曲全体のなかで一番重要なもののうちのひとつであることは疑い得ないけれども、そこに詩人の言いたいことが全て凝縮されているとは言い難いということは、原作を通しで読んだことのある人ならおおむね首肯されると思う。
とはいえ、音楽化するにあたって、当然テキスト全てを模写するのは演奏にも鑑賞にも堪えないので、いくつかの部分に絞って抜粋することになる。シューマンの「ゲーテの『ファウスト』の情景」においては、この抜粋の仕方が非常に興味深いのだけれども、その説明は既にymatsui4氏が適切な形で示しておられるから、ここでは必要な部分だけ補足することにする。
ファウストの死の場面が作曲されているのは事実である。しかし彼の死後の場面が省かれているということは是非とも言っておかなくてはならない。その省略された部分を下に示す。
Meph.Er faellt, es ist vollbracht. メフィスト.針は落ちた。事は終った。
---省略---
Chor.Es ist vorbei. 合唱.過ぎ去った。
Meph.Vorbei! ein dummes Wort. メフィスト.過ぎ去った、とは馬鹿な言葉だ。
Warum vorbei? どうして過ぎ去ったのだ。
Vorbei und reines Nicht, vollkommnes Einerlei! 過ぎ去るのと、きれいに無いのとは、全く同じことだ。
Was soll uns denn das ewge Schaffen, 永遠の創造とは、一体なんの意味だ。
Geschaffenes zu nichts hinwegzuraffen? 創造したものを、無に突き落とすなんて。
"Da ist's vorbei!" Was ist daran zu lesen? 過ぎ去った、ということに、なんの意味があろう。
Es ist so gut, als waer' es nicht gewesen, それなら初めから無かったのと同じではないか。
Und treibt sich doch im Kreis, als wenn es waere. それなのに、何かあるかのようにぐるぐる回っている。
Ich liebte mir dafuer das Ewig-Leere. おれはむしろ永遠の虚無のほうが好きだな。
岩波文庫 相良守峯 訳
合唱はEs ist vollbracht.とメフィストの言葉を繰り返して終わり、以降の「埋葬」の場面も全く言及されない。そのまま最終場面に突入するのである。これはいったいどういうことなのか、是非この曲を聴きながら考えていただきたい。シューマンは省略された部分を音楽化できなかったのか、敢えてそうしなかったのか、無くても充分だと思ったのかどうか。実りある解答が得られることを期待したい。
Szenen Aus Goethes Faust
仕様 | 価格 | 新品 | 中古品 |
CD, CD, インポート, 2013/3/5
"もう一度試してください。" | CD, インポート |
—
| ¥1,975 | — |
CD, 1995/4/21
"もう一度試してください。" | 2枚組 |
—
| — | ¥1,500 |
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曲目リスト
ディスク: 1
1 | Scenes from Goethe's Faust for Solo Voices, Chorus and Orchestra / Overture |
2 | Scenes from Goethe's Faust for Solo Voices, Chorus and Orchestra / Part One, Nr. 1, Szene im Garten: "Du kanntest mich, o kleiner Engel, wieder" |
3 | Scenes from Goethe's Faust for Solo Voices, Chorus and Orchestra / Part One, Nr. 2, Gretchen vor dem Bild der Mater Dolorosa: "Ach neige, du Schmerzensreiche" |
4 | Scenes from Goethe's Faust for Solo Voices, Chorus and Orchestra / Part One, Nr. 3, Szene im Dom: "Wie anders, Gretchen, war dir's" |
5 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 4, Ariel, Sonnenaufgang: "Die ihr dies Haupt umschwebt im luft'gen Kreise" |
6 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 4, Ariel, Sonnenaufgang: "Täler grünen, Hügel schwellen" |
7 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 4, Ariel, Sonnenaufgang: "Des Lebens Pulse schlagen frisch lebendig" |
8 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 4, Ariel, Sonnenaufgang: "So ist es also, wenn ein sehnend Hoffen" |
9 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 5, Mitternacht: "Ich heisse der Mangel" |
10 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 5, Mitternacht: "Vier sah ich kommen, drei nur gehn" |
11 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 5, Mitternacht: "Die Nacht scheint tiefer tief hereinzudringen" |
12 | Szenen aus Goethes Faust, Part Two / Nr. 6, Fausts Tod: "Herbei, herbei! Herein, herein!" |
ディスク: 2
1 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung I: "Waldung, sie schwankt heran" |
2 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung II: "Ewiger Wonnebrand" |
3 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung III: "Wie Felsenabgrund mir zu Füßen" |
4 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung III: "Welch ein Morgenwolken schwebet" |
5 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung IV: "Gerettet ist das edle Glied" |
6 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung IV: "Gerettet ist das edle Glied" |
7 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung V: "Hier ist die Aussicht frei" |
8 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung VI: "Dir, der Unberührbaren" |
9 | Szenen aus Goethes Faust, Part Three / Nr. 7, Fausts Verklärung VII: "Alles Vergängliche ist nur ein Gleichnis" |
登録情報
- 製品サイズ : 12.4 x 14.2 x 1.19 cm; 102.06 g
- メーカー : Sony Classical
- EAN : 0886977128226, 0762182986229
- 製造元リファレンス : 886977128226
- レーベル : Sony Classical
- ASIN : B003YI3CUU
- ディスク枚数 : 2
- Amazon 売れ筋ランキング: - 683,066位ミュージック (ミュージックの売れ筋ランキングを見る)
- - 14,421位オペラ・声楽 (ミュージック)
- - 243,807位輸入盤
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年3月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2015年8月18日に日本でレビュー済み
録音。1994年のライヴ録音。アバド(Claudio Abbado 1933-2014)指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、スウェーデン放送合唱団、エリク・エリクソン室内合唱団、テルツ少年合唱団の演奏。独唱者は以下の通り。
カリタ・マッティラ(Karita Mattila 1960- ソプラノ)
バーバラ・ボニー(Barbara Bonney 1956- ソプラノ)
イリス・フェルミリオン(Iris Vermillion1960- アルト)
スーザン・グラハム(Susan Graham 1960- メゾ・ソプラノ)
ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ(Hans Peter Blochwitz 1952- テノール)
ブリン・ターフェル(Bryn Terfel 1965- バリトン)
ヤン=ヘンドリク・ローテリング(Jan-Hendrick Rootering 1950- バス)
「ゲーテの"ファウスト"からの情景」は、その名の通り、シューマンがゲーテのファウストから一部の場面を抜き出して再構成したオラトリオ。ベルリオーズ(Louis Hector Berlioz 1803-1869)やグノー(Charles Francois Gounod 1818-1893)が第1部を対象に劇化したのに対し、シューマンの抜粋は全編を対象にしているため、ファウストの死や死後の魂に関する部分を含む。当盤のトラックを参照すると、下記のようになる。
【CD1】
1) 序曲
第1部「グレートヒェンの悲劇」から
2) 一景 庭園の情景
3) 二景 悲しみの聖母像に祈るグレートヒェン
4) 三景 寺院の大伽藍にて
第2部「ファウストの蘇生と死」から
5-8) 四景 アリエール、日の出
9-11) 五景 真夜中
12) 六景 ファウストの死
【CD2】
第3部「ファウストの救済」から
1-8) 七景 ファウストの不滅なる魂の救済と変貌
9) 神秘のコーラス
こうしてみると、ベルリオーズやグノーの作品でもおなじみの第1部より、第2部、第3部を音楽化した部分が多く、末尾を救済に求めるところはシューマンらしいと考える。神秘のコーラスはシューマンが最初に書いた部分であるが、この「さりゆ一切は比喩にすぎない」は、マーラー(Gustav Mahler 1860-1911)が一千人の交響曲のフィナーレでもテキストを引用した。
このシューマンの作品は長らく演奏される機会がなかったのだが、1972年にブリテン(Benjamin Britten 1913-1976)による復活上演を機に、時折録音も行われるようになった。といっても録音点数は少ない。美しい場所、シューマンらしい情熱を感じる部分が多くある一方で、全体的な散漫さ、音楽の抽象性と言った点で、他のシューマン作品と比較したとき、必ずしも高いレベルの芸術作品であるとは言えない。
しかし、その魅力をこよなく追求したのが、このアバドの名盤である。オーケストラ、合唱の燃焼度の高さが、例えば【CD1】TRACK4の「生命の鼓動が新たに生きいきと打ちはじめ」や同TRACK12の「ファウストの死」の場面の力強い表現に直結し、高い音楽的効果を得ている。さらにネーム・ヴァリューのある独唱陣をそろえた中でも女声陣の充実は卓越していて、マッティラ、ボニーらの重唱の美しさは特筆ものだ。その他の聴きどころとして、第2部の末尾でホルンと木管による弱奏による場面描写に代表される「静寂への移ろい」が瑞々しい。メフィストフェレスの「時計はとまった、針がおち、時は終わった」のシーンも印象的。
ちなみに、私個人的に児童合唱の甘い音色があまり好きではないので、「できればない方がいい」と思うところも失礼ながらあって、この曲の玉石混交的なところと併せて興が逸れる原因となってしまうのだけれど、他のファンの方は、そういったことを気にされないと思うし、私よりもっと楽しめるのではないだろうか。
カリタ・マッティラ(Karita Mattila 1960- ソプラノ)
バーバラ・ボニー(Barbara Bonney 1956- ソプラノ)
イリス・フェルミリオン(Iris Vermillion1960- アルト)
スーザン・グラハム(Susan Graham 1960- メゾ・ソプラノ)
ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ(Hans Peter Blochwitz 1952- テノール)
ブリン・ターフェル(Bryn Terfel 1965- バリトン)
ヤン=ヘンドリク・ローテリング(Jan-Hendrick Rootering 1950- バス)
「ゲーテの"ファウスト"からの情景」は、その名の通り、シューマンがゲーテのファウストから一部の場面を抜き出して再構成したオラトリオ。ベルリオーズ(Louis Hector Berlioz 1803-1869)やグノー(Charles Francois Gounod 1818-1893)が第1部を対象に劇化したのに対し、シューマンの抜粋は全編を対象にしているため、ファウストの死や死後の魂に関する部分を含む。当盤のトラックを参照すると、下記のようになる。
【CD1】
1) 序曲
第1部「グレートヒェンの悲劇」から
2) 一景 庭園の情景
3) 二景 悲しみの聖母像に祈るグレートヒェン
4) 三景 寺院の大伽藍にて
第2部「ファウストの蘇生と死」から
5-8) 四景 アリエール、日の出
9-11) 五景 真夜中
12) 六景 ファウストの死
【CD2】
第3部「ファウストの救済」から
1-8) 七景 ファウストの不滅なる魂の救済と変貌
9) 神秘のコーラス
こうしてみると、ベルリオーズやグノーの作品でもおなじみの第1部より、第2部、第3部を音楽化した部分が多く、末尾を救済に求めるところはシューマンらしいと考える。神秘のコーラスはシューマンが最初に書いた部分であるが、この「さりゆ一切は比喩にすぎない」は、マーラー(Gustav Mahler 1860-1911)が一千人の交響曲のフィナーレでもテキストを引用した。
このシューマンの作品は長らく演奏される機会がなかったのだが、1972年にブリテン(Benjamin Britten 1913-1976)による復活上演を機に、時折録音も行われるようになった。といっても録音点数は少ない。美しい場所、シューマンらしい情熱を感じる部分が多くある一方で、全体的な散漫さ、音楽の抽象性と言った点で、他のシューマン作品と比較したとき、必ずしも高いレベルの芸術作品であるとは言えない。
しかし、その魅力をこよなく追求したのが、このアバドの名盤である。オーケストラ、合唱の燃焼度の高さが、例えば【CD1】TRACK4の「生命の鼓動が新たに生きいきと打ちはじめ」や同TRACK12の「ファウストの死」の場面の力強い表現に直結し、高い音楽的効果を得ている。さらにネーム・ヴァリューのある独唱陣をそろえた中でも女声陣の充実は卓越していて、マッティラ、ボニーらの重唱の美しさは特筆ものだ。その他の聴きどころとして、第2部の末尾でホルンと木管による弱奏による場面描写に代表される「静寂への移ろい」が瑞々しい。メフィストフェレスの「時計はとまった、針がおち、時は終わった」のシーンも印象的。
ちなみに、私個人的に児童合唱の甘い音色があまり好きではないので、「できればない方がいい」と思うところも失礼ながらあって、この曲の玉石混交的なところと併せて興が逸れる原因となってしまうのだけれど、他のファンの方は、そういったことを気にされないと思うし、私よりもっと楽しめるのではないだろうか。
2017年2月21日に日本でレビュー済み
シューマンは、歌曲を聴くぐらいで、こういう曲があるのを知りませんでした。オーケストラ伴奏ですので、迫力があります。シューマンの代表作になってもいいのに、あまり演奏されていないようです。オペラに比べると、重唱が少なくて、合唱が多いと思います。
演奏は、素晴らしいと思います。主役のターフェルは、前半はエネルギッシュに、後半は敬虔な感じで、上手に歌えています。グレートヒェンのカリータ・マッティラは、初めて聴く人ですが、可愛い感じで、いいと思います。私の好みのバーバラ・ボニーは、憂愁/ソプラノ1などを歌っています。
録音もいいと思います。低音が不足気味な気もしますが、その分、音声がきれいに録れています。合唱や重唱の乱れも感じられませんので、ライブ録音で正解だと思います。
演奏は、素晴らしいと思います。主役のターフェルは、前半はエネルギッシュに、後半は敬虔な感じで、上手に歌えています。グレートヒェンのカリータ・マッティラは、初めて聴く人ですが、可愛い感じで、いいと思います。私の好みのバーバラ・ボニーは、憂愁/ソプラノ1などを歌っています。
録音もいいと思います。低音が不足気味な気もしますが、その分、音声がきれいに録れています。合唱や重唱の乱れも感じられませんので、ライブ録音で正解だと思います。
他の国からのトップレビュー

Jonathan H.
5つ星のうち5.0
Very Interesting work!
2014年1月27日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
I just came across this work by accident. All the performers are wonderful and their performance is definitely one you should give a try. I'm still trying to get to know it myself, but from what I've heard, it's a beautiful and sadly neglected work here in the states.

Pablo FM
5つ星のうち5.0
Abbado vueve a maravillarnos con Schumann
2014年1月25日にスペインでレビュー済みAmazonで購入
Al oír estas Escenas de Fausto uno de da cuenta que Claudio Abbado ha sido el mejor director de su generación y sin duda de los cinco mejores de Siglo XX. Grabación imprescindible a un magnífico precio. No os lo perdáis, además responde a ese binomio maravilloso que fue la BPO y Abbado.

citi
5つ星のうち4.0
splendida realizzazione
2013年12月4日にイタリアでレビュー済みAmazonで購入
La firma di Abbado si riconosce, unica pecca il colpo d'occhio sulla copertina del cd assolutamente fuori contesto e insignificante, per il resto magnifico e arrivato nella puntualità e correttezza di Amazon.

PSAPLUS
5つ星のうち5.0
A well-performed example of a piece rather off the beaten track
2013年9月14日に英国でレビュー済みAmazonで購入
A powerful line-up with some starry names performing to their reputations. Good to hear Mattila and Terfel in their established but relatively early careers in this less than often performed piece. The other roles are cast with impressive names
Perhaps a little unreasonable to expect a booklet with texts in what appears to be a budget reissue but there's always the internet.
Perhaps a little unreasonable to expect a booklet with texts in what appears to be a budget reissue but there's always the internet.

alex2070
5つ星のうち4.0
Four Stars
2015年7月8日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
very good