物価研究の第一人者である渡辺努氏をはじめ、物価に関して見識の深い経済学者や日銀のエコノミストが参集し、日本の長期デフレの原因について、多面的に分析した本である。
良い論文や本には、2種類のタイプがある。1つは、疑問とされていたことに対して明確な答えを与えてくれるもの。もう1つは、物事を整理し、今後考えていくべき方向性を指し示してくれるもの。(例えて言えば、サッカーのゴールとアシストである。)
この本は、後者の意味で「良書」であろう。本書は、政府統計をはじめ、民間のPOSデータなども使いながら、「デフレの日本で何が起きていたのか」について非常に丁寧に論じている。本書の中で、特に印象に残ったのは、2章の分析が示唆している「物価のノルム」の低下である。物価のノルムとは、「毎年、これくらい賃金や物価が変えるのが良い」という「世間相場」を指すのだそうだ。この「世間相場」は、他国では、たとえデフレの時期であっても+1〜2%で安定し続けているのに対し、日本では、デフレの時期に0%程度に下がってしまったのだと言う。
したがって、日本の長期デフレを考える上では、単に「なぜマイナスのインフレ率になってしまったのか」ということを議論するだけでは不十分。むしろ、「なぜ、日本だけが、インフレ率の低下に併せて『物価のノルム』が下がってしまったのか」を議論する必要がある。
ではなぜ「物価のノルム」は低下してしまったのか。この点については、本書の範囲を超えるようだ。おそらく、学問的にも「これだ!という決定打が分かっていない」というのが、正直なところなのだろう。この点についての分析が深まり、真の意味での「解明」がなされることを期待したい。
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慢性デフレ真因の解明 単行本 – 2016/9/1
・POSデータや賃金・価格のミクロデータなど新しいデータを活用し、具体的にどのような経路で「慢性デフレ」に至ったのかを第一級の経済学者たちが解明。「自然利子率の低下」と「デフレが続くという集団的思い込み」といった複合要因が絡み合い、デフレを長期化させてきたという仮説をもとに、長期停滞の主犯を探索。
・著者たちの開発した物価指数は「東大物価指数」などと言われ、ニュースでもよく取り上げられる。POS分析では「特売」や、新商品の減量による実質値上げがどのような効果をもたらしたか、など興味深い実証研究が行われている。
・それ以外にも、賃金抑制や為替レートの変動が、デフレにどれぐらい影響を与えてきたかなど興味深いデータが収録されている。
・著者たちの開発した物価指数は「東大物価指数」などと言われ、ニュースでもよく取り上げられる。POS分析では「特売」や、新商品の減量による実質値上げがどのような効果をもたらしたか、など興味深い実証研究が行われている。
・それ以外にも、賃金抑制や為替レートの変動が、デフレにどれぐらい影響を与えてきたかなど興味深いデータが収録されている。
- 本の長さ227ページ
- 言語日本語
- 出版社日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
- 発売日2016/9/1
- 寸法14.9 x 1.8 x 21.1 cm
- ISBN-104532134668
- ISBN-13978-4532134662
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商品の説明
著者について
渡辺 努
東京大学教授。東大発ベンチャー ナウキャスト創業者・技術顧問
1982年東京大学経済学部卒業、日本銀行勤務。ハーバード大学で経済学Ph.D.取得。一橋大学経済研究所教授を経て現職。著書に、『市場の予測と経済政策の有効性』『検証 中小企業金融(共著)』など
東京大学教授。東大発ベンチャー ナウキャスト創業者・技術顧問
1982年東京大学経済学部卒業、日本銀行勤務。ハーバード大学で経済学Ph.D.取得。一橋大学経済研究所教授を経て現職。著書に、『市場の予測と経済政策の有効性』『検証 中小企業金融(共著)』など
登録情報
- 出版社 : 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版; New版 (2016/9/1)
- 発売日 : 2016/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 227ページ
- ISBN-10 : 4532134668
- ISBN-13 : 978-4532134662
- 寸法 : 14.9 x 1.8 x 21.1 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 629,681位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,274位経済学・経済事情
- - 38,976位投資・金融・会社経営 (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年9月2日に日本でレビュー済み
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2016年11月26日に日本でレビュー済み
複数の執筆者が参加する本の場合、編集責任者がテーマにかかわる論点をもれなく拾いあげ、適切な執筆者に分担してもらう必要がある。
本書の大きな問題点として、デフレと金融政策を巡る論究(デフレ貨幣現象説の検討や黒田日銀の政策評価)が抜け落ちていることがあげられる。
個別の章で自分の関心にあう論文があれば別だが、本書はあまりおすすめできない。
本書の大きな問題点として、デフレと金融政策を巡る論究(デフレ貨幣現象説の検討や黒田日銀の政策評価)が抜け落ちていることがあげられる。
個別の章で自分の関心にあう論文があれば別だが、本書はあまりおすすめできない。
2017年1月28日に日本でレビュー済み
序章に、「本書の狙いは、日本のゼロ金利とデフレが当初の予想を超えて長期化したのはなぜかを明らかにすること」だとありますが、はたして、その狙いは達成できたのでしょうか。
章ごとに計7つの論文が掲載されていますが、「結局 何なんだ」と首をひねってしまいます。
かろうじて、第6章「賃金デフレはマイルドデフレ長期化の主犯か」の分析によると、名目賃金と物価の推移について、全産業平均で見ると高い相関がありますが、製造業、卸売・小売業、サービス業の業種別では、意外に差があることが分かります。(図6-7、6-8)
これは、デフレ退治には、バズーカを1発ぶっ放せば済むものではなく、業種毎に機関銃で狙い撃ちする必要があることを、含意していないでしょうか。
章ごとに計7つの論文が掲載されていますが、「結局 何なんだ」と首をひねってしまいます。
かろうじて、第6章「賃金デフレはマイルドデフレ長期化の主犯か」の分析によると、名目賃金と物価の推移について、全産業平均で見ると高い相関がありますが、製造業、卸売・小売業、サービス業の業種別では、意外に差があることが分かります。(図6-7、6-8)
これは、デフレ退治には、バズーカを1発ぶっ放せば済むものではなく、業種毎に機関銃で狙い撃ちする必要があることを、含意していないでしょうか。