『陸奥爆沈』 吉村昭
吉村氏の諸作品では、これはやや趣の異なる作品といっていい。タイトル通り、戦艦陸奥がいかなる経緯で爆沈することに至ったかをルポを積み重ね、証言を丹念に追いながら調査を進めるのだが、調査を進めるうち、思いがけない事例に遭遇する。日本海軍が誇る戦艦が、過去幾度も不意の事故、過失、意図的な犯罪で失火、爆沈、破損が相次いだという、証言や報告書を目の当りにする吉村氏をまったく別次元へ瞠目させることになる。
陸奥の事件を傍らに、そうした過去の相次ぐ軍艦の、いわば海軍にとっての不祥事が、そのたびに査問委員会が発足、事件が追究され、自然発火説から人為説まで原因が徹底究明されていく。 有名な戦艦三笠の爆沈その他艦船の失火・爆沈の原因はほぼ生き証人の証言で、明らかにされているが、この千人以上の死者を出した海軍史上最大の悲劇であった陸奥爆沈だけは、氏名が特定されているにも拘わらず、人為的な原因かどうか最後まで確定できなかった。
そして戦後二十数年を経て海底から引揚げられた陸奥からもQ二等兵曹の氏名の印鑑以外遺体が確認されていない。Qは行方不明者の一人かもしれない。
この犯人と推定されるQ(吉村氏)二等兵曹という人物は、陸奥爆破を画策したアメリカのスパイであったという説もあるらしい。であれば、事件後密かにアメリカに拉致され戦後軟禁状態で死んだかもしれない。盗癖や同僚の証言、そして遊女にかなりの金をつぎこんだ出所も不詳。
吉村氏もQが犯人だという結論も出していないのでもはや闇のなか。
それよりも何よりも吉村氏はこの作品で、確かに手にしたのは、敵に勝つという唯一の目的である戦争機械の歯車になった人間たちが、その歯車になり切れなかった人間の意識の裏側の不気味さであった。浮沈と思われた巨大な城ともいうべき戦艦を、兵曹たちの小さな歯車がねじキレて鋼鉄の塊が吹き飛び海底に沈むまでに至らせた想像不可能な実存ともいうべきものの存在を吉村氏は、この作品で見出したのだ。
戦後決して公に調査されることもなく、 初めて吉村氏が地道に描き上げたこの作品は戦争のグロテスクさ、悲惨さを別の角度から鮮明に描き出している点で出色。
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陸奥爆沈 (新潮文庫) 文庫 – 1979/11/27
吉村 昭
(著)
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連合軍の反攻つのる昭和18年6月、戦艦「陸奥」は突然の大音響と共に瀬戸内海の海底に沈んだ。死者1121名という大惨事であった。謀略説、自然発火説等が入り乱れる爆沈の謎を探るうち、著者の前には、帝国海軍の栄光のかげにくろぐろと横たわる軍艦事故の系譜が浮びあがった。堅牢な軍艦の内部にうごめく人間たちのドラマを掘り起す、衝撃の書下ろし長編ドキュメンタリイ小説。
- 本の長さ288ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日1979/11/27
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104101117071
- ISBN-13978-4101117072
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登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (1979/11/27)
- 発売日 : 1979/11/27
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 288ページ
- ISBN-10 : 4101117071
- ISBN-13 : 978-4101117072
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
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2023年7月30日に日本でレビュー済み
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関係者へのヒアリングから、事実を発見し、著者の考えを述べる名著だと思う。
2018年9月26日に日本でレビュー済み
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日本海軍の軍艦自爆沈没は実は多く、そのかなりの部分が実は故意・過失によるものと明らかにされた。
鋼鉄で装甲され、魚雷にも耐える軍艦が、実は一握りの内部分子によって脆くも破滅してしまう弱さをも明らかにした。
これは現代の大企業などの集団でも通じるのではないか。マネジメントができていなかったのだ。
鋼鉄で装甲され、魚雷にも耐える軍艦が、実は一握りの内部分子によって脆くも破滅してしまう弱さをも明らかにした。
これは現代の大企業などの集団でも通じるのではないか。マネジメントができていなかったのだ。
2021年6月14日に日本でレビュー済み
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爆発事故で沈んだ陸奥という戦艦があったことを、恥ずかしながら初めて知りました。また、他にもあの三笠など何件もの爆発事故があって多数の犠牲者が出たことにも驚きでした。戦時下では最高機密とされ、戦後もそのまま社会から忘れられてしまったのかなと思います。著者の推理を100パーセント信じるわけではありませんが、そういうことが起きても不思議ではないと思います。心理的に追い詰められた兵士が自殺願望を抱いたとき、艦とともに死にたいと思うことはあり得るのではないか。海の底で艦の柩に眠る‥不謹慎ですがちょっとロマンすら覚えてしまいます。
2015年11月7日に日本でレビュー済み
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「陸奥爆沈」は吉村先生の代表だと私は思っています。
軍艦は、多種多様の人間を詰め込んだ兵器であるということが、
調査を進めるうちに感じ取った。
組織、兵器(人工物)の根底に、人間がひそんでいるということを発見
したことが、この作品を書いた吉村先生の最大の収穫であったと述べられています。
軍艦の爆沈には、兵器の事故から人間の愛憎を原因とした人為的な原因まで
様々あります。今回、陸奥爆沈を吉村先生は「人間」をキーワードにその原因を
解き明かしていきます。
吉村先生の調査のフットワークの良さには驚くばかりです。
陸奥爆沈の原因は諸説あり事実確定はできません。
しかし、人間の行為が陸奥爆沈の原因と先生は推定されています。
人間の情念の強さは永遠の文学のテーマであると思います。
常に、人間とは何かを問い続けた吉村先生の代表作だと私は思います。
軍艦は、多種多様の人間を詰め込んだ兵器であるということが、
調査を進めるうちに感じ取った。
組織、兵器(人工物)の根底に、人間がひそんでいるということを発見
したことが、この作品を書いた吉村先生の最大の収穫であったと述べられています。
軍艦の爆沈には、兵器の事故から人間の愛憎を原因とした人為的な原因まで
様々あります。今回、陸奥爆沈を吉村先生は「人間」をキーワードにその原因を
解き明かしていきます。
吉村先生の調査のフットワークの良さには驚くばかりです。
陸奥爆沈の原因は諸説あり事実確定はできません。
しかし、人間の行為が陸奥爆沈の原因と先生は推定されています。
人間の情念の強さは永遠の文学のテーマであると思います。
常に、人間とは何かを問い続けた吉村先生の代表作だと私は思います。
2019年1月6日に日本でレビュー済み
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今の人は戦争があったことしら知らない、この様な本を読んでもらいた、どれだけの人が死に,どれだけの飛行機、船が無残に消えて行ったか、読むほどに悲しい。この国の一番の弱さだ、これは今の企業にも言えることです。
2022年5月30日に日本でレビュー済み
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私にはつまらなかった・・・小説というより史実に基づいた詳細ドキュメンタリーの感じがします。
そしてドラマチックな展開もなくただひたすら話がすすむ。
そしてドラマチックな展開もなくただひたすら話がすすむ。