当時15歳だったもので、手あたり次第にSFを読んでいた中二病少年だった筆者(この病名はまだ当時、存在していなかった)SFの全体像とか勢力分布(笑)、未来のヴィジョンも分からずに読んでいたのだけれども、クラーク、アシモフ、ハインラインの三大巨匠をあらかた読んだあとでこれを読んで、ガツンと来た。
そもそも三大巨匠がまだ存命だった時代で、かつサイバーパンクが出現していた端境期だったが、同時に「銀英伝」「ダーティペア」「グイン・サーガ」も出ていた訳で、その頃の流行は2020年代に劣らず多様だったと思う。
その中で著者の「異化」作用は戦慄もの。
「まだ思っているのかね?知性は力なりだと!君の吐瀉物を食べているあれだ。あの祖先は五億年前に、銀河を震撼させたものだ」
知性を相対化し、億年単位の時間で「持続」「継続」する生命を第一義とするこの種族というか群生体というか…は、クラーク「幼年期の終わり」のオーバーロード・オーバーマインド、プリンの「列強諸族」の謀略しか考えていないような野蛮な生命力、フレデリック・ポール「JEM」の環境に適応した半知性的種族、シルヴァーバーグ「ヴァレンタイン卿の城」に出てくる牧歌的な異星人たち、二―ヴン&パーネル「神の目の小さな塵」「神の目の凱歌」のモート人の異様な知性、そして二―ヴン「ノウンスペース」に出現するパク人やパペッティア人、クジン族とスレイヴァー族に匹敵する、20世紀SFの生み出した異質さによって現実を見る目に衝撃を与える「他者」だった。
この作品は「危険なヴィジョン」に振り切った作品なので、文学的というか小綺麗にまとまっていない。そのせいで以後繰り返し読み続けるタイプの作品ではなかった(クラーク「幼年期の終わり」は内容と共に文章に品があって読む快楽を楽しむために再読することはあったのだか)
だが、読書してから⅓世紀が経過しても、なお覚えている。そうした作品は稀である。
なぜこれがオールタイムベストに頻出せず、古書で価格が吊り上がっているような状態になっているのか…不思議でならない。せめて電子書籍で、この古典が「生命」を持ち続けることを望んでいる。
サイバーパンクの本来的意義からすれば、そちらの方が存在の様式にふさわしい気もするし…。

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蝉の女王 (ハヤカワ文庫 SF ス 5-2) 文庫 – 1989/5/1
小川 隆
(著),
ブルース・スターリング
(著)
- 本の長さ264ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日1989/5/1
- ISBN-104150108226
- ISBN-13978-4150108229
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2017年2月5日に日本でレビュー済み
「ニューロマンサー」の時の反省から、「スキズマトリックス」を読む前に関連する短編をまとめた本書を読みました。ブルース・スターリングの作風に慣れるとともに、“工作者/機械主義者”シリーズを発表された順に読んで予習するために。
薄い本の体裁、横山宏氏の挿絵付きに似合わず、予想以上に骨太で情報密度の濃い短編集でした。
冒頭に置かれたウィリアム・ギブスンによる序文は、巻末の訳者あとがきと共に、どちらもスターリングへのラブレターとでもいうべき、当時のサイバーパンクムーブメントを思いださせるような熱気のあふれる文章です。
1つ目の約80枚の短編「巣」は、これこそがSFだと言える大傑作。ギブスンの持ち上げも理解できます。ストーリーの基本はミイラ取りがミイラになっちゃう話なのだけれど、それがネタバレにならないほど、詰め込まれ語られるアイデアが凄い。クライマックスで語られるヴィジョンには東洋的な無常感と、アメリカ的なチャレンジ精神の両方を感じましたが、クラークにも匹敵するのではないかと思います。
2つ目の60枚の短編、「スパイダー・ローズ」も凄い話だと思うのだけれど、これはちょっと感覚が合わなかった。
3つ目の125枚の中編「蝉の女王」は、新時代の火星の黙示録とでもいうような物語。宇宙へ出ていくよりも惑星改造の方が有意義だという主張には疑問があるけれど、〈投資者〉との競争は意味が無いと理解すれば納得できるかも。表現等の2,3の違和感を除けばこれも大傑作。小松左京の「さよならジュピター」の無駄を省いて中編にまとめたらこんなイメージになるのではないかなどと思ったりしました。
4つ目の50枚の「火星の神の庭」は、クライマックス部分が今一つ分かりにくいけれど、傑作。アイデアとイメージが半端ない。これもひとつの創世記かも。
「著者によるあとがき 地平線のない世界」は、スターリング自身が収録された各作品について詳細に解説しています。ここまで明かしていいのかというほど具体的に書かれているので大変参考になりますが、自分の読解力のなさにがっかりしたりします。
〈工作者〉シリーズは、本書と〈スキズマトリックス〉がすべてだそうですが、実際に執筆された期間も、シリーズの中で流れる時間も、すごく短い、密度の濃い時間だったのだなと思います。今は半分忘れ去られているのがもったいない魅力的で興味深い未来史の一つです。
薄い本の体裁、横山宏氏の挿絵付きに似合わず、予想以上に骨太で情報密度の濃い短編集でした。
冒頭に置かれたウィリアム・ギブスンによる序文は、巻末の訳者あとがきと共に、どちらもスターリングへのラブレターとでもいうべき、当時のサイバーパンクムーブメントを思いださせるような熱気のあふれる文章です。
1つ目の約80枚の短編「巣」は、これこそがSFだと言える大傑作。ギブスンの持ち上げも理解できます。ストーリーの基本はミイラ取りがミイラになっちゃう話なのだけれど、それがネタバレにならないほど、詰め込まれ語られるアイデアが凄い。クライマックスで語られるヴィジョンには東洋的な無常感と、アメリカ的なチャレンジ精神の両方を感じましたが、クラークにも匹敵するのではないかと思います。
2つ目の60枚の短編、「スパイダー・ローズ」も凄い話だと思うのだけれど、これはちょっと感覚が合わなかった。
3つ目の125枚の中編「蝉の女王」は、新時代の火星の黙示録とでもいうような物語。宇宙へ出ていくよりも惑星改造の方が有意義だという主張には疑問があるけれど、〈投資者〉との競争は意味が無いと理解すれば納得できるかも。表現等の2,3の違和感を除けばこれも大傑作。小松左京の「さよならジュピター」の無駄を省いて中編にまとめたらこんなイメージになるのではないかなどと思ったりしました。
4つ目の50枚の「火星の神の庭」は、クライマックス部分が今一つ分かりにくいけれど、傑作。アイデアとイメージが半端ない。これもひとつの創世記かも。
「著者によるあとがき 地平線のない世界」は、スターリング自身が収録された各作品について詳細に解説しています。ここまで明かしていいのかというほど具体的に書かれているので大変参考になりますが、自分の読解力のなさにがっかりしたりします。
〈工作者〉シリーズは、本書と〈スキズマトリックス〉がすべてだそうですが、実際に執筆された期間も、シリーズの中で流れる時間も、すごく短い、密度の濃い時間だったのだなと思います。今は半分忘れ去られているのがもったいない魅力的で興味深い未来史の一つです。
2011年1月30日に日本でレビュー済み
スターリングはやはり、対抗文化の人なのだと思う。
それは、最初の「巣」にある知性について取り扱いを見れば即わかる。
欧米の主知主義的伝統に対するアンチテーゼをこれだけ明確に出しているSF作品は
非常に珍しいのではないだろうか。SFというよりは、
むしろ反SF的な作品ではないだろうか。
私が今まで読んだSFの中で主知主義を明確に相対化しているのは
スタニワフ・レムくらいなものだ。ただ、レムが哲学的思索なのに対して
スターリングは政治的な思索であるような感じがする。
そして彼の考え方は正しいと思う。
世の中、相変わらず'情報'というお化けに振り回されているが、
現実に対する情報優位という考え方はどこかで是正されなければならないと思う。
続く火星のテラフォーミングに関する短編は、これは記号に基づく現代資本主義社会
の戯画であるような感じがする。そして市場社会の経済的繁栄の永続よりも
火星のテラフォーミングという物質的な現実を創造していく方が重要であるという
言い切りは、非常に胸がすく思いがする。
こういうスターリングの基本的な考え方は実に素晴らしいと思う。
それは、最初の「巣」にある知性について取り扱いを見れば即わかる。
欧米の主知主義的伝統に対するアンチテーゼをこれだけ明確に出しているSF作品は
非常に珍しいのではないだろうか。SFというよりは、
むしろ反SF的な作品ではないだろうか。
私が今まで読んだSFの中で主知主義を明確に相対化しているのは
スタニワフ・レムくらいなものだ。ただ、レムが哲学的思索なのに対して
スターリングは政治的な思索であるような感じがする。
そして彼の考え方は正しいと思う。
世の中、相変わらず'情報'というお化けに振り回されているが、
現実に対する情報優位という考え方はどこかで是正されなければならないと思う。
続く火星のテラフォーミングに関する短編は、これは記号に基づく現代資本主義社会
の戯画であるような感じがする。そして市場社会の経済的繁栄の永続よりも
火星のテラフォーミングという物質的な現実を創造していく方が重要であるという
言い切りは、非常に胸がすく思いがする。
こういうスターリングの基本的な考え方は実に素晴らしいと思う。
2009年8月4日に日本でレビュー済み
今月は、あまりにも忙しくて、ろくすぽ本も読めず、欲求不満。
この本もずっと前から読みたかったんだけど、なかなか手に入らなかったブルース・スターリングの短編集。序文はウィリアム・ギブスン。
工作者と機械主義者が構想する未来を描くSF。期待通りの面白さ。特に最初の『巣』の中の生命と知性の関係の描き方はなかなか。
この本もずっと前から読みたかったんだけど、なかなか手に入らなかったブルース・スターリングの短編集。序文はウィリアム・ギブスン。
工作者と機械主義者が構想する未来を描くSF。期待通りの面白さ。特に最初の『巣』の中の生命と知性の関係の描き方はなかなか。
2005年2月26日に日本でレビュー済み
ブルース・スターリングの一冊目の短編集。
この本は、おすすめなSF短編集である。
「巣」がこれがまたすごい傑作なのだ。
もっとも人間離れしたエイリアンの一つは「巣」ではないかと思う。
「巣」に対抗できるのは、レムの「ソラリス」ぐらいだ。
どちらも根本的なところでヒトや地球の生き物と異なっている。
「巣」と「ソラリス」でエイリアンの二大傑作としてもいい。
他にも、「スパイダーローズ」も面白いし、短編集としても充実した一冊。
というか、この本を読んでいなければ、スターリングとは何者なのか、まったく分かりもせずに見当違いをするのではないだろうか。
それぐらいに重要な一冊である。
この本は、おすすめなSF短編集である。
「巣」がこれがまたすごい傑作なのだ。
もっとも人間離れしたエイリアンの一つは「巣」ではないかと思う。
「巣」に対抗できるのは、レムの「ソラリス」ぐらいだ。
どちらも根本的なところでヒトや地球の生き物と異なっている。
「巣」と「ソラリス」でエイリアンの二大傑作としてもいい。
他にも、「スパイダーローズ」も面白いし、短編集としても充実した一冊。
というか、この本を読んでいなければ、スターリングとは何者なのか、まったく分かりもせずに見当違いをするのではないだろうか。
それぐらいに重要な一冊である。