本書は「普遍的な家族の絆とその崩壊の物語」(著者オビオマの言葉)
本のタイトルの「ぼくら」とは、四人兄弟。
「漁師」とは、父さんが三番目の兄とぼくの名前の前につけた「愛称」。
子どもの頃のぼくら四人は町の川で釣りをするのが大好きでした。
それが狂人の予言で、兄たちは死に、家族はバラバラに。
主人公の語り手は、四人兄弟の末っ子の九歳の少年。
舞台は、1990年代のナイジェリア。
この物語の中心的主題には「普遍的な家族愛が据えられている」(訳者あとがき)
にしても、物語の内容は、時代を超えた人間的テーマが語られていました。
まるで「聖書」の時代から繰り返されてきた物語のようにも感じられました。
2015年のデビュー作である本書は、365頁に及ぶ長編小説です。長編なのに、
この物語のあらすじは、「各章の一行目の文章」でたどることができます。
カッコ( )内は、レビュアーが追加。
ぼくら(四人)は漁師だった。(町の中を流れる)オミ・アラは恐ろしい川だ。
父さんはワシだ。(長男の兄)イケンナはニシキヘビだ。イケンナは変身しつつあった。
(浮浪者の)アブルは狂人だ。
母さんは鷹使いだ。イナゴは前触れだ。イケンナはスズメだ。(次男の兄)ボジャは菌だ。
蜘蛛は悲しみを背負う生き物だ。(三番目の兄)オベンベは、捜索犬だ。
憎しみは蛭だ。希望はオタマジャクシだ。兄さんとぼくは雄鶏だ。
ぼく、ベンジャミンは蟻だ。
(五歳下の弟)デイヴィッドと(妹)ンケムはシラサギだ。
最終章に登場する弟と妹は、この物語の「ぼくら四人兄弟」には含まれません。
弟と妹は、ナイジェリアの新しい時代の前触れとしての希望なのです。
希望の象徴のシラサギなんです。
この小説は、ナイジェリアの作家ヘロン・ハビラによると
「失われた希望への挽歌」だそうです。
この物語の通奏低音は、町のみんなから狂人と呼ばれて嫌われている
浮浪者のアブルです。
アブルは、殺鼠剤の混ぜ込まれたパンを食べさせられても死なない
「奇跡の男」(278頁)なのです。
その狂人に毒を盛ったのは、三番目の兄とぼくです。なにかを吐き出した
狂人は、ぼくらのほうに歩いてきて、踊りながら手を叩いているのです。
狂人は「叙事詩」を歌って踊っていたのです。
九インチの釘が手のひらに撃たれても、やがて地上に蘇る救世主の「叙事詩」
を歌って踊っていたのです。
「小説では固く結束した家族がアブルという<狂人>の予言によって引き裂かれる
ことになるが、ナイジェリアという国家自体も、英国と言ういわば<狂人>の放った
ことばで恣意的に作り出され、人びとがその存在を信じるようになったがために
悲劇に見舞われてしまった」(著者オビオマ自らが加えた「解説」より)
読み終えた後、この小説の中の狂人を「英国」と、そしてぼくらを「ナイジェリア」と
頭の中で置き換えて、もう一度、この小説を読んでみました。
ナイジェリアという国が現在抱えるさまざまな矛盾が、この家族の物語の中に象徴的に
描かれているような気がしました。
著者オビオマは、あるインタビューで
「太鼓の音は近くよりも遠くから聞くほうがよりはっきり聞き取れる」(371頁)
と言ったそうです。
「遠い太鼓」の音のように、クリアに腹に響いてくるような、オビオマの次の作品を
読めるのが待ち遠しくなりました。
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ぼくらが漁師だったころ 単行本 – 2017/9/21
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「鋭い観察、自然界の濃密な描写、神話や民話のテーマを織り交ぜるオビオマの筆致はすばらしい。圧倒的にモダンな物語であると同時に、普遍的な民間伝承の豪奢な再構成でもある」――パブリッシャーズ・ウィークリー誌(推薦図書に選出)
「悲しみ、癒し、兄弟愛についての、力強く、忘れがたい物語」――カーカス・レビュー誌
「生命力にあふれながらも死の影を帯び、語りの手法と物語自体の勢いの両方で読者を魅惑する。“神話的"と呼ばれるに値する作品は少ないが、本書は確かにその一冊だ」――エレノア・カットン(ブッカー賞作家)
1986年生まれの作家が書き上げた、アフリカ文学の新たな金字塔! ロサンゼルス・タイムズ文学賞など四賞受賞、ブッカー賞最終候補作に選ばれた異色の青春小説。
厳しい父がいなくなった隙に、アグウ家の四人兄弟は学校をさぼって近くの川に釣りに行った。しかし、川のほとりで出会った狂人は、おそろしい予言を口にした――。予言をきっかけに瓦解していく家族、そして起こった事件。1990年代のナイジェリアを舞台に、9歳の少年の視点から語られる壮絶な物語。
「悲しみ、癒し、兄弟愛についての、力強く、忘れがたい物語」――カーカス・レビュー誌
「生命力にあふれながらも死の影を帯び、語りの手法と物語自体の勢いの両方で読者を魅惑する。“神話的"と呼ばれるに値する作品は少ないが、本書は確かにその一冊だ」――エレノア・カットン(ブッカー賞作家)
1986年生まれの作家が書き上げた、アフリカ文学の新たな金字塔! ロサンゼルス・タイムズ文学賞など四賞受賞、ブッカー賞最終候補作に選ばれた異色の青春小説。
厳しい父がいなくなった隙に、アグウ家の四人兄弟は学校をさぼって近くの川に釣りに行った。しかし、川のほとりで出会った狂人は、おそろしい予言を口にした――。予言をきっかけに瓦解していく家族、そして起こった事件。1990年代のナイジェリアを舞台に、9歳の少年の視点から語られる壮絶な物語。
- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2017/9/21
- 寸法13.8 x 2.8 x 19.5 cm
- ISBN-104152097140
- ISBN-13978-4152097149
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商品の説明
著者について
1986年、ナイジェリアのアクレに生まれる。ミシガン大学大学院創作課程を修了。2015年に発表したデビュー作である本書は、ブッカー賞最終候補に選出され、ロサンゼルス・タイムズ文学賞やファイナンシャル・タイムズ/オッペンファイマーファンズ新人賞など四賞に輝き、アフリカ文学に新星が現れたと英米文学界の話題を独占した。現在ネブラスカ大学リンカーン校で教鞭を執る。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2017/9/21)
- 発売日 : 2017/9/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 384ページ
- ISBN-10 : 4152097140
- ISBN-13 : 978-4152097149
- 寸法 : 13.8 x 2.8 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 437,443位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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2017年10月3日に日本でレビュー済み
2022年1月4日に日本でレビュー済み
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状態が「非常に良い」ということで購入しましたが、とてもそのような状態とは思えませんでした。カバーはよれよれ、ひっかき傷、使用感とは言えない状態でした。
私なら「非常に良い」と評価しません。
私なら「非常に良い」と評価しません。
2019年1月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ナイジェリアを含め最近のアフリカは、発展目覚ましいといいますが、そういう目覚ましい国でも、魔術的なものが人の、家族の運命を変えていったしまう。実話ではないようですが、日本では考えられない展開。ちょっと悲しい話ではありますが、最後まで惹きつけられました。